溺愛αの初恋に、痛みを抱えたβは気付かない

桃栗

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”ウミホタル”

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「あそこでツッコミ入れるんですねー、いやぁ僕関心しちゃいました、やはり彼らの漫才はツッコミが重要ですね」
鉄板の上で鰹節がユラユラ踊っているのを横目に、楽しそうに話す楓さんを見る。
大阪に来たらお好み焼きでしょう、会場を後にした後よく行く美味しいお好み焼き屋さんがあるんですよ、そう言ってここに連れてこられた。
俺にはお笑いの事はさっぱりなので、聞き役専門に徹している。

rencontrer(ランコントレ)で会う時の楓さんは、こんなに喜怒哀楽が顔に出る人ではなかったので、なんだか少しホッとしている自分がいる。
本当に楽しんでいる笑顔が以前より魅力的に見えて、微笑ましい。
「楓さん、本当にお笑いが好きなんですね、なんだか可愛いです」
コテでお好み焼きを食べながら咽せた様子で俺を睨んだ。
「いい大人を揶揄うんじゃありません、でも誰かとこうして出かけると言うのも楽しいものですね、商社に勤めていた時はたまにあったんですが、今は個人的に動く事が多いので中々難しいですし」
「なら俺と出かけませんか?rencontrer(ランコントレ)で会う楓さんも素敵ですが、こうして外で」
「そうしたいのは……」
「楓さん、それ食べたら行きたい場所があるんです、タクシー呼ぶんでそこで話しませんか?」
断られる、初めからわかっていたので、ちゃんと言うなら別の場所でちゃんと言いたいと思っていた。
これで最後かもしれない、でも後悔なく終わりたい。



タクシーを降りて梅田の外れにあるビルに降り立ち、エレベーターに乗ってその場所に辿り着く。
時計は21時50分。
後40分しかないが、それで充分だ。
以前ここに父と来たことがあった、なんの気の迷い?と思ったが、隣にあるホテルは父の定宿だったので、たまたま時間が空いたのかもしれないが、まだ幼かった俺には父と出掛ける、と言うだけでとても嬉しかったのを覚えている。
楓さんとここに来たかったのは俺なんだけどね。

「チケット…」
「もう買ってあります、時間があまりないので急ぎましょう!」
チケットを渡しトンネルの様な透明のエスカレーターで上へ登って行く。
「すごく…綺麗だね、僕来てみたかったんだけど、1人では何となく来づらくて…」

今この人は断る口実を考えているんだろう、周りの景色は見ているのに、ここに着いてからは俺の方を見てはくれない。
視線も合わない。

静かにエスカレーターを登り円形の展望台に降り立つ。
ブルーでライトアップされた展望台からは大阪の街を一望できる。
街の灯りが空に浮かぶ星の様に散りばめられ、夜の空と一体化している様だ。

「夜の海に青白く浮かぶ”ウミホタル”みたい…とても神秘的…」
風に吹かれて髪が乱れるのにも構わず、欄干に手をかけた楓さんはそう呟いた。
彼の整った綺麗な横顔が少し悲しげに映る、断られる、そう直感し、胸がちくりと傷んだ。

「楓さん、これ貰ってください。」
ここに来ることになり、意を決して用意したあるものを、右のポケットから差し出した。

正方形のその箱を確認すると俺を見て
「受け取れません」
手は欄干にかかったまま、また視線は夜景の方に向いてしまった。
「中も見ずに断るんですか?」
乱れた髪を指で耳に掛け彼はため息をついた。

「その大きさで大体想像がつきます…何故僕がオメガだとわかったんですか?それチョーカーですよね?」

中身を当てられて箱を持った手に力が入り、自然に顔が下を向く。
緊張と不安が突然同時に襲って来た。
何か言わないと…

「…正直で初めは微かしか匂いがしなかったので、ベータだと思っていたんです、ただ”運命”だって。でも出会ったあの日、あの店に入る前から胸騒ぎがしてここに導かれた様に足が向きました。行かなきゃ、捕まえなきゃ、って。そうして何度か会うたびに、楓さんの匂いが強くなっていきました…それで確信したんです、この人はオメガだって」

「………。」

「楓さんも感じたんじゃないですか?…俺は貴方を運命の番で間違いないと思っています。」

「……僕もそう…思います…」

「じゃあ!!」

「僕は出来損ないのオメガなんです、見てわかりますよね?チョーカーも必要ないくらい無臭に近い…ヒートなんて一日もすれば終わるんです…それに子供はきっと望めません、医者からもそう言われました」

静かに…楓さんは穏やかな表情でそう言った。

「貴方を見ればわかります、とても良い家の後継だと言うことが…僕の主に雰囲気がよく似ているんです…そんなの関係ないと思っているでしょ?だからこそ無理なんです。役立たずで出来損ないの男オメガ程使い物になりません、後継もつくれないオメガなんて…」

閉館の10分前、人の姿が見当たらなくなって少しざわついていた周囲も今は静まり返っていた。


「少しだけ俺の話、聞いてくれませんか?お願いします!!」

「………」

「両親は運命の番です、結婚するにも紆余曲折あったと言ってました。うちの場合は母の方が家格が上だった事もあり、大変だったと聞きました。だからか、結婚のことに関しては好きな人と一緒になればいいと言われています、楓さんの事もう話してあります、運命の番に出会ったって。年上だって事も。身体の事に関してもうちの母もオメガ特有の症状で俺を産んでいるので、きっと大した問題ではありません!!」

「…でも!!」

「問題があるとすれば、それはまだ俺が子供だって事くらいです。父には大学卒業し、それまでにいくつか問題定義されていますが、俺にはさして問題ではありません、返事は今でなくて大丈夫です、大学を卒業するその日まで、待っていてくださいませんか??もしその日までにどうしても無理とおっしゃるなら、諦めます、でもそれは嫌だ、絶対にいやだ!!だから頑張ります!!少しの猶予を下さい!そして、それまで月に2度、いや1度でもいいので一緒に過ごす時間を下さい、お願いします!」

「……返事はNOかもしれません、それでもいいと?」

「それは嫌です!!なので頑張ります!いい男になるんで!!お願いします、待っていて下さい!」

暫く夜景をじっと眺めていた楓さんが、ゆっくりとこちらを向き差し出した箱を手に取って
「…とりあえず預かっておきます…ありがと…」
聞き終わらずに思わず彼を抱きしめてしまった。
ちゃんと答えをもらった訳じゃない、でも暫くは一緒にいてもいいと許可をもらった。
胸が踊って宙に浮かびそうなくらい喜び勇んでいる。
待ち合わせしていたあの時と同じくらいの心が喜びに満ちていた…
「幸せだ…」
耳元で聞こえないほど小さく囁いた。

その勢いでキスをしようと顔を上げたが両手で口を塞がれ
「それはもう少し後にして下さい、待てるんでしょ?」
と言われあえなく撃沈してしまう。

ちぇっ

とりあえず心の中で悪態をついた。


その後、職員に”閉館ですので”と声をかけられ、展望台を後にした。

2人共隣のホテルで。

もちろん部屋は別々だった。


残念だが仕方ない!

とりあえず明日のテーマパークデートは取り付けたし、俺にしては上出来だ。

浮き足立つ気持ちに蓋をして明日の為に早めに眠りにつく俺だった。





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