ラブレター

shoichi

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笑顔の後

君を見つめて

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「今日、どこに泊まるの?」

少し暖かい風が、目の前の女の子の髪をなびいた。

「分かんない。行ける場所まで行って、ナンパでもするよ。」

頭を、よしよし。として、ぢゃーね。と言い、荷物を抱えた。

「何で、泊めて。とか甘えないの?」

そう言ってくれる女の子。と、知っているから。

「だって、いきなりだし、迷惑じゃない?」

こんな駆け引きも、嫌い。ではないから。

その子は、首を横に振り、僕の右腕に絡みついてきた。

「おいでよ!!」

年上の女の子の甘い香りが、空へ溶けていく。

「ねぇ、会えて嬉しいのキスは?」
 
照れているのか、怒っているのか、

「ここで?」

と、表情が複雑だった。

「ふーん。」

そう言うと、頬にキスをされた。

「欲求不満なの?」

そう女の子に告げると、ゆうがでしょ?と、言われる。

数分程、歩き、田んぼ道の途中、

「ゆうくん。」

と、強く腕を捕まれる。

「ん?」

年上のこの子は、甘える時、ゆうくん。と、呼び捨てで呼ばない。

「何でもなーい。」

鶏が、ウゼェ。と言っているようだった。

「アホか。」

キッ!!と、睨まれて、先に行く。と、笑って、足早になる女の子。
 
「ゴメンって。」

経験豊富な女の子だけに、本当に、年下の扱いが上手だった。

「うそ、うそ。もう少しで着くからね!!」

辺りを見渡すと、ビニールハウスばかりで、風の香りが体に溶けるようだった。

「コンビニも無いね?」

「ねっ。不便だよ。」

先を歩いていた女の子は笑い、少し立ち止まって僕を待ち、また、僕の腕に腕を絡め、歩き始める。

「あそこだよ!!」

女の子は、人指し指を突き刺した。

「ふーん。」

女の子の、指の先を見つめると、ポツン。と、一件だけ建っている家が、まだ、歩かなきゃ。と思わせる。
 
「何?その反応は?」

笑いながら、少し違う歩幅で、遠くの家へ、一歩一歩ずつ近付いて行く。

ワンッ!!と、その家の近くに行くと、大きな犬に吠えられてしまった。

「犬、好きだから平気だよ。」

ただいま。と、玄関を開け、お邪魔します。と、淋しく、虚しく家に響く。

「こっち!!」

辿り着いた家の階段を登り、突き当たりの部屋のドアを開けた。

「あ~。女の子。」

辺り一面、可愛い縫いぐるみや、雑誌の切り抜きなどを貼っている部屋に、僕は一人じゃない。と、安堵感が込み上がった。 
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