ラブレター

shoichi

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缶コーヒー

曖昧な答え

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携帯電話が壊れて、頭の整理ができなくて、何日か後に、公衆電話から、覚えていた番号に何度もコールした。

「あっ、やっと繋がった。」

「やっぱり、ゆうくんか。」

この間、変なタイミングで終わった話題に触れたくなくて、訳が分からないことばかりを、明るく話していた。

「携帯、あと一週間くらいで治るかも。」

そっか。大変だね。みたいな言葉が、何故か他人事のように聞こえて、

「寂しい?ごめんね。」

自分に問いただすように言った言葉に、うん。そだね。のあいの一言で、何も言えなくなってしまった。

「また、電話していい?」

「…うん。授業中は無理だけど。」

当たり前のことを言われているだけなのに、凄く寂しい気持ちが、僕に襲ってきた。

「じゃ、またね。」

僕は、切りたくなかったけれど、技とらしく、おう。と、笑って、あいが切るまで、受話器を耳に添えていた。

ップープ…。

歩いてすぐのコンビニから掛けていたのだが、今の時代に公衆電話?みたいな周りの目も、僕にはなんとも思わなかった。

トボトボと部屋に戻って、しゃがみこんでいると、発狂しそうになるくらいあいとの悲しい未来ばかり考えてしまう。

何とも言えない感情になるのが嫌で、僕は慌てて外に飛び出した。

忙しそうなあいから連絡が欲しくて、つい言ってしまった言葉を、直ぐに取り消したくて、携帯電話が無かったから、アルバイト募集。の張り紙があったお店に、僕は駆け込んだ。

「すみません。急なんですけど、バイトしたいので、直ぐに働けませんか?」

僕が標準語になるのは、まだまだ先の話だけど、個人店の居酒屋みたいなバーのカウンターを開いていた。

履歴書も持たず、ましてや、電話すらせずに入ったけれど、

「おもしろい子ね。いいわよ。明日から、来なさい。」

と、バブルを経験したであろう、派手なおばさんは、心良く僕を受け入れてくれた。

これで、あいに、また電話できるぞ。と、不純な動機だったけれど、やった。と、少しだけ心が落ち着いた。

スキップするように、家に戻ってきては、通い慣れてしまったコンビニへ向かった。

「もしもし、バイトだけど、仕事決まったよ?」

また、十円玉を素早く入れながら、喜んでくれるあいの顔を思い浮かべて、また、君の声を聞きたくて、数字ボタンを指でなぞっていた。

「そっか。頑張ってね。」

少しだけ、あいが笑いながら聞いてくれたことだけで、僕はハッピーになれた。

「それでね、」
「あっ、忙しいから、また今度でいい?」

え?と思いながらも、僕の我が儘で、また困らせたくなくて、

「うん。分かった。」

と、笑って言えた。

じゃーね。の後に、また、受話器を離せずに、僕は公衆電話の前に立ち尽くしていた。

強い風のせいで舞う、砂埃(すなぼこり)。

それが、一重の目に少しだけ入ったけれど、泣いてなんかいないよ。 
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