ラブレター

shoichi

文字の大きさ
111 / 121
最後の恋

ガラスの靴

しおりを挟む
夜の十二時を越え、南瓜の馬車は、ただの車に変わっていた。

「行こうか。」

うん。と返事がきて、見ていた景色を後にしながら、あいの手を引いて歩く。

車の前で、ほどけたあいの指。

もう、触れることはないんだな。と、少しだけ寂しくなった。

バタン、バタン。と二つのドアが閉まる音が、静寂な闇に響きわたる。

車の鍵を回し、再度鳴り始めた音楽と、激しいエンジン音。

ギアを切り替えると、僕らを乗せた車が、動き始めた。

「最近、どうなの?」

踏み込んだアクセルを、一旦離しては踏み込み、通り過ぎる景色を見ながら、あいと話してた。

「うん。大変だよ。」

もう少しで学校も終わるから、それに向け、今からでも忙しいことが、話していて伝わってくる。

「あっ、そうだ。」

赤信号で止まった時に、お尻の方から、慌てて財布を取り出した。

長財布のチャックを開け、それをあいに渡す。

「なに?」

チャックを閉め、両膝に置かれた財布。

青信号になり、また、踏み込んだアクセル。

「いや、大したことないけど。」

暇な時に、作ったんだ。と、説明して、可愛いでしょ?と少しだけ、わき見運転をしながら、隣の顔を覗きこんだ。

「犬…かな?」

車に乗り込んでから、また、一度も笑わないあいがいて、ももちゃんをイメージした。と言っても、そっか。と、一言しか返ってこなかった。

「それが、これから先、あいを守ってくれますように。」

恥ずかしくて、片手でハンドルを握っていた僕の空いていた左手で、そっと、あいの頭を撫でた。

「何それ。」

微笑んだあいがいて、とても嬉しい気持ちになったよ。

そんな思いを過ぎて行く、サヨナラの時間が、次第に近付いてくる。

遅くまで、無理して付き合ってくれた。と思うと、何とも言えない罪悪感が襲ってきた。

暗くなりそうになる自分に気付き、目を閉じて、首を振り、笑ってあいと話をしていた。

「俺はさ、笑ってるあいが好きだから。」

「うん。」

「だから、笑えよ。」

頬を摘まんでみると、うぅ。と、変な声が返ってくる。

段々とスピードを落とし、見慣れた家の前で、車が止まった。

「ありがとね。」

ゆっくりと、シートベルトを外しながら、僕の顔を覗きながら開かれたドア。

目を見たら、泣き出しそうな気がして、下を向いて、おう。と呟く。

「あっ、待って。」

もう、後悔したくなくて、あいの方のドアが閉まる前に、僕も車を降りていた。

それと同時に閉まるドアが一つあって、走るようにあいの前に立つ僕。

「お母さんに、怒られちゃうよ。」

また、遅くなる。と思われたのか、申し訳ないな。とも思ったけれど、

「おいで?」

と、身体を寄せた二人。

優しく抱き締めた僕と、それに、身を預けてくれる君と。

目を閉じて考えていた、沢山のありがと。

「…よし。」

長い時間をかけてはいけない。と、離れた二人。

「もう、大丈夫?」

年上の余裕からの言葉なのか、おう。と平静を装って言ってみても、ゆっくり階段を上っていく君が、

「ありがと。」

と、微笑んで手を振る仕草に、やっぱり敵わないな。と、僕も叶わない願いと一緒に、微笑んで手を振った。

パタン。と玄関の閉まる音が聞こえ、それを確認してから、一人、車に乗った。

温かさが残ってあるサイドシートに、置き去りにされた笑顔。と言う名の硝子の靴。

それを乗せて、動き出した、小さな車があった。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

堅物御曹司は真面目女子に秘密の恋をしている

花野未季
恋愛
真面目女子が、やはり真面目で堅物な御曹司と知り合う純愛もの。 サラッと読める短編です♪

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

曖昧な距離で愛している

山田森湖
恋愛
結婚4年目のアラサー夫婦、拓海と美咲。仲は悪くないが、ときめきは薄れ、日常は「作業」になっていた。夫には可愛い後輩が現れ、妻は昔の恋人と再会する。揺れる心、すれ違う想い。「恋人に戻りたい」――そう願った二人が辿り着いた答えは、意外なものだった。曖昧で、程よい距離。それが、私たちの愛の形。

処理中です...