ラブレター

shoichi

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最後の恋

no life no music

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激しい音楽に身を任せ、部屋の掃除をしている。

部屋に入ってきた夕暮れの日差し。

一人で唄いながら、鼻唄を混じりながら。

また、曲が変わる。

英語の歌ばかりだが、素直ではない僕には、ストレートに心に入ってくる日本語よりも、何を言っているのだろう。くらいの方が丁度良い。

次の曲は、どうやら、バラードみたいだ。

干してあった洗濯物を畳み、回してあった新しい洗濯物を干す。

また、部屋の片付けをしだした、僕と煙草と缶コーヒー。

段々と慣れてきた、一人の憂鬱の過ごし方。

脱け殻のような毎日から抜けたくて、考え事をしないように、何かしら体を動かしている。

「あっ…。」

それでも、財布から取り出していたプリクラを、押し入れの隅っこから見つけると、一瞬の間に作業は中断されるし、声も漏れてしまう。

いつか撮った写真を眺めては、向こうにいる、笑い合っている二人に、微笑む僕がいた。

もう、捨ててしまおう。と思いながら、手にした物をゴミ袋へ持っていく。

「…くそ。」

親指と人差し指で摘まんだ力を、緩めてしまえばいいのに。なんて、心と体が矛盾してしまう。

結局、強がって見せても、離しきれない思いを抱き締めるように、それも、離すことはできない僕がいた。

タイミングを知っているようなCDコンポが、泣かす音楽を流していた。

負けてたまるか。と、テーブルに置かれた缶コーヒーを飲み干す。

また、ゴミを増やしていることに気付き、そいつは、袋の中に簡単に投げ捨てられた。

静かに、押し入れに閉まった写真と気持ちと。

過ぎ去っていく時間と共に、グラデーションの空に合わせ、点けた部屋の灯り。

カーテンのレースを少し閉じて、開けてあった窓も閉じて、エアコンのスイッチを、ピッ。とした。

ある程度、片付いた部屋に満足して、煙草に火を点ける。

テレビもいらない。と、ラジオばかり聴いていた僕は、今日は歌だけを聴きながら、煙を吸っては吐いていた。

何でも捨てれるゴミ箱があったらな。と考えては、そう言えば、明日は燃えるゴミの日じゃない。と、まっ、何でもいいか。と、頭の中で、一人で会話している。

その時、ふっ。と思ったんだ。

あいに、ラブレターを書こうかな。なんて。

目に良いよ。と言っていた、緑の文字で。 
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