薄幸の魔導師オメガが冒険者になったら、最強勇者の子供を授かりました

碧木二三

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第一章 オメガの俺が最強勇者の子供を身ごもるまでの話

7. どうせ効かない


「トワ?」

 無言で固まっていたせいだろう。レオスの美貌が訝しげに曇る。

「……まだ気持ちが悪いか?」

 唐突に訊かれ、は? と鈍く聞き返す。出来るだけ掻き出したつもりだが……、と真顔で言われてようやく意味が繋がった。
 同時に、さあっと顔から血の気が引く。
 発情期の間に性行為をした場合、オメガの俺には妊娠する可能性があるのだと改めて恐ろしい事実を突きつけられた。
 俺は震える声で言った。

「……よくもあんな。好き勝手に中で出してくれたな!」
「ヒートを鎮めるためには、それが最善の方法だろう」

 冷静なレオスの回答は、俺の心を小さく抉った。
 ああやはりそうか。
 俺たちはただ獣欲に任せ、ヒートが治まるまで抱き合っただけの……。

「それは、すまなかった」

 俺は抑揚のない声で言って、頭を下げた。

「今更、何を言っても言い訳にしかならないが、抑制剤はちゃんと飲んでいたんだ……。何故か今回は効かなかったが、アルファであるお前のそばで、あまりにも無防備でいすぎた。本当に悪かった。もう二度と……」
「待て、トワ。何故お前が謝る?」

 レオスが険しい表情で片眉を跳ね上げた。
 ……そんな顔をしていても、見ているこっちがため息をつきたくなるほど美しいとは、一体どういうことだ。
 俺は唇を震わせて本当にそっとため息を逃がす。それを見たレオスが、さらにきつく目を眇めた。

「それに、もう二度と……何だ? まさか、このままどこかへ行ってしまう気じゃないだろうな」
「……だって俺は、期限付きとはいえ、オメガであることを隠してお前たちの仲間になった。だから悪いのは、」
「だから、それは待てと言っている」

 レオスは唸るように言った。

「……オメガであることを隠していたと言ったな。だが、その理由は察するに余りある。特にアルファの俺が近くにいたんじゃ、これまでさぞやりにくかったことだろう。だからこそ、一刻も早くお前は俺のそばから離れたかった……」

 俺がずっとパーティへの慰留を断ってきたことを言っているのだろう。
 レオスの中に僅かながら、傷心の気配を感じた俺は、ぱちぱちと瞬きをした。

「レオス……。怒ってない、のか?」

 窺うように訊ねると、レオスは唇を歪めるような苦笑を返してきた。

「怒るか、馬鹿。そもそも、こっちから頼み込んで強引に仲間に引き入れたんだ。……お前こそ、俺を許せるのか?」
「……だって、お前は何も悪くない」

 俺は本心からそう言ったのだが、レオスは一瞬、複雑な表情を浮かべた。

「──参ったな」
 
 レオスは前髪をグシャリと掴んでため息をついた。

「たとえ一生嫌われても、と思って抱いたんだが」
「嫌われて? 一体それはどういう……」
「……いや。今のはまあ、言葉の綾というか。……つまり、昨夜のことは全部俺の所為にしてもいいという意味だ」
「そんなこと……」

 ──そんなことを言うアルファもいるのか。

 驚きはするが、だからといって全部をレオスの所為にしたうえで嫌ったりなんて出来るわけがない。
 そんな俺の心の裡が垣間見えたのだろうか。
 レオスはまたため息をつきながら言った。
 
「なあ、トワ。もし事情があるなら、この際だから洗いざらい話してみる気はないか?」
「え?」
「はたして、お前が俺たちにオメガであることを隠していたことが、本当に謝るべき問題なのかどうか。少なくとも、俺には知る権利があると思うが」
「権利……」
 
 あるんだろうか? と首を傾げてまともに考え込む俺の鼻を、表情を消したレオスがギュッと摘んできた。

「痛っ! な、なにする!」
「……さっきから気を抜きすぎだ」
「え?」

 はあ、とレオスがまた溜め息をつく。

「お前って奴は。無自覚な分、本当に性質が悪いな……。今のところは治まっているが、ヒートはまだ始まったばかりだろう。薬はあるのか?」
「あ、あるっ」

 俺は慌ててベッドの下に落ちていた自分の鞄から、薬の包みを取り出す。昨夜、路地裏に落とした分以外にも当然いくつか持ち合わせていた。
 だが、アルファ用のものはもうないと言うと、「どうせ効かないからいい」と鼻で嗤うように言われた。

「じゃあ、すぐに飲め。それで少しぐらいならもつだろう。服を着たら急いで俺たちの宿に戻るぞ」


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