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強くなるために

泥棒猫の動機

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 俺がスリの被害に遭い、カノンの鼻を頼りに辿り着いたのは、一軒の古びた家。

 そして、玄関を開けて現れた人物は……。

「どう言った用件でしょうかにゃ?」
 現れたのは、猫耳少女。

 この子じゃない。

「俺はクレシェンド。こっちはカノン。君のお名前は?」
「私はメロディにゃ。」
 玄関の隙間から、家の奥を覗くが、他に人がいる気配が無い。

「えっと、君はこの家に一人で暮らしているのかな?」
 猫耳少女は首を左右に振る。

、お姉ちゃんと二人で暮らしているにゃ。」
 ん?
 今は?

「えっと、君のお姉ちゃんってのは、カプリチョーソって子で合ってるかな?」
 メロディは首を縦に振り、肯定する。

「君のお姉ちゃんは、家の中に居るのかな?」
「いないにゃ。」
「そうか。」
 んーー、どうしたものか。

「お姉ちゃんのお客さんなら、上がって待ってて下さいにゃ。」
 え!?  いいの?

 メロディに家の中に通された俺達は、メロディが出してくれた水を口にする。

 部屋の中は、テーブルも椅子も壁も、全てがボロボロな状態だった。

 生活状況は苦しいみたいだな。

 ふと、棚の上に目が止まる。

「あ!?」
 俺は棚に近付くと、それを手に取る。

「あっ!?  クレドのギルドカードだ!」
 俺の手に持った物を覗き込んだカノンが声を上げる。

「え!?」
 メロディは困惑した表情を浮かべていた。

 俺が名乗った時に、メロディは何の反応も示さなかったことからも、メロディは何も知らなかったのだろう。

 俺がメロディのお姉ちゃんから、スリの被害に遭っていたことを。

 俺とカノンが、メロディに事情を説明すると、メロディは泣き崩れ、謝罪を口にした。

「ご、ごめんなさいにゃ。まさか、お姉ちゃんがそんなことをしていたなんてにゃ。」

 メロディがしたことでは無い、とメロディを落ち着かせるのに苦労した。

 それと、メロディによると、カプリチョーソが大金を持って出て行っているとのことだった。

 行き先に心当たりがないか尋ねたところ、分からないと答える。

 どうしたものか。

 すると、カノンが口の前に人差し指一本を立たせる。

 俺とメロディはその意図を理解し、息をひそめる。

 部屋の中がしんと静まり返り、外の音がよく聞こえる。

 外からするのは複数の男の声。

「ここが猫女の家か?」
「ああ。間違いないだろう。」
「まさか、を取り戻す為にあんな大金を集めるとはな。」
「へへ。然も、姉は返してもらえず、自分も捕まっちまうとは。少し考えれば分かるだろうにな。
「本当だぜ。アホな女だ。頭の中も獣なんじゃねぇか。」
「違いねぇ。家はこんなボロいが、きっとまだ大金が有る筈だ。」

 男達は、ゲラゲラと笑いながら家に近付いて来る。


 成る程。
 話が見えてきたな。

 カプリチョーソには姉が居る。
 いや、正確には居たが正しいか。

 そして、姉が誰かに捕まっていて、それを取り戻そうと大金を必要としていた。

 俺から大金を盗んで、その金を持って行ったが、自分自身も捕まってしまったと。

 やれやれ。

 俺の横で、メロディが目に涙を浮かべて怯えていた。

 俺はカノンにメロディを頼むと合図を送り、玄関へと近付く。

 ガチャ

 扉を開けて外に出た俺は、間抜けズラした男性達の顔を目にした。

 まさか、家の中から人が出て来るとは思っても見なかったのだろう。

「な、なんだテメェは!?」
「いえ。この家の猫女にお金を盗まれてしまったので、取り返しに来たのですが、どうやら不在のようでして。」
 男達は、互いに目配せをしている。

「そうかい。そりゃ災難だったな。用が済んだんだったら、サッサと消えろ!」
「そうですね。用は無くなりましたね。」

 俺はそう答えると剣を抜く。

 男達は、俺が突然武器を手にしたことから狼狽えている。

「な、なんのつもりでぇ!?」
「いえ。先程あなた方の会話が聞こえましてね。あなた達の関係者にどうやら猫女は捕まっているようなので、大金を返してもらう為には、あなた方から居場所を聞くのがベストだと思いましてね。」
 俺は笑顔で男達に答えた。

 男達は、ふざけんじゃねぇなどと吠えていたが、俺の敵では無く、一瞬で制圧してしまう。

 一人だけ気絶させずに取り押さえる。

「さて、猫女はどこにいるのかな?」
「こ、答える訳ねぇだろ!?」
 ふーーん、知ってるんだ。

「答える訳無いってことは、居場所は知ってるんだね。」
 男は失言だったと、顔を青くするが、直ぐに笑い飛ばす。

「知っていようが、知っていまいが、関係ねぇ。俺は口を割らないぞ!」
 へぇーー。

 俺は、ギルドカードを取り出して男の目の前にチラつかせる。

「俺のクラスは、SSSなんだが。本当に口を破らないのか?」
「けっ!  こんなガキがSSSな訳が……ゲェーー!!!!!」
 男の目は、これでもかと言うくらいに飛び出していた。

 男は大量の汗を流す。

 ギルドカードは、不正が出来ない。

 つまり、このギルドカードは本物であると理解してしまったのだ。

 SSSクラスを敵に回すことは、自分達の雇い主よりも危険だと直ぐに理解した。

 男は直ぐに口を開いた。

 男の話によると、コモンという人族の街の領主の館にカプリチョーソは居るそうだ。

 次いでとばかりに色々事情を聞いてみることにした。

 カプリチョーソとメロディの姉であるエレクトーンも居るんだとか。

 一年前、エレクトーンは妹二人の為に、自ら奴隷として買われ、現在はコモンの領主のところにいるそうだ。

 エレクトーンが自らを奴隷にしたお金のお陰で、カプリチョーソとメロディは生活出来ていた。

 しかし、カプリチョーソは姉を取り戻そうと、領主の館を訪ねた。

 取り戻す為に、要求された額は大きく、一生掛かっても払える額では無い程だった。

 それでも姉を取り戻そうと、カプリチョーソはお金が入る度に領主に渡していたそうだ。

 そして、領主から提示された金額を大きく上回る大金を持って現れたカプリチョーソに対し、領主はエレクトーンを返すことは無く、そのままカプリチョーソを拘束したらしい。

 腐ってやがる!

「この家に何かあったら、貴様らを探し出して始末する。絶対に忘れるな。」
 男が話から話を聴き終えた俺は、男を気絶させる。

 家に戻り、メロディに事情を説明すると、メロディはカプリチョーソから姉は王都に働きに出たと聞かされていたそうだ。

 しかし、カプリチョーソの様子から、その話は嘘なのではと感づいていたらしい。

「安心していいよ。俺がメロディのお姉ちゃんを取り返して来るから。」
 俺はメロディの頭を撫で、安心させる。

 俺は、家の前で伸びている男達を台車に乗せ、コモンを目指すのだった。
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