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第1章

帰還②

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 俺達はギルマスの部屋で迎えが来るまで時間を持て余していた。

「そう言えば、サイネリアさんは、ギルドに着く前に気になることがあると仰ってましたけど、どういうことですか?」
 俺はサイネリアのほうを向いて質問してみた。

 すると、サイネリアさんはアイリスに目を向けた。

「……あなたの名前はアイリスで良いのよね?」
 サイネリアさんはアイリスに名前の確認をした。

「……そうです。名前は覚えていますが、その他のことは思い出せません。」
 アイリスは暗い顔をして答えた。

「……そうですか。名前に性があったか覚えていますか?」

 サイネリアさんの質問にアイリスは首を振っている。

 アイリスの性に何かあるのか?

「……そう。アイリスちゃん、記憶が早く戻るといいね。」
 サイネリアさんはそう言ってアイリスの頭を撫でた。

「それにしても、あなたが倭国の王子だったなんて驚いたわ。」
 サイネリアさんは俺を見て笑っている。

「俺も誘拐された時はどうなるかと思いましたよ。」
 俺は苦笑いしてサイネリアさんに返事をした。

「……誘拐犯は分かるの?」
 サイネリアさんは真剣な顔で聞いてきた。

 このサイネリアさんの質問にどう答えるべきか。

 確かに俺は犯人を見ている。

 俺の父さんの兄、ゲッケイジュを。

 だが、ここでその名前を出してしまっては、王族の不祥事として国民の信頼を失い、他国にも弱味を握られてしまうようなもの。

 ギルドの一冒険者であるサイネリアさんにそこまで話していいものなのか。

 俺が黙り込んでいたため、
「分からないなら無理に思い出さなくてもいいんだよ。辛い目に遭ったばかりなんだから。」
とサイネリアさんは俺のことを心配してくれた。

「いえ、そう言う訳ではありません。ただ、サイネリアさんに話すべきか俺では判断出来ないので、両親や師匠に相談してみます。」

 サイネリアさんはいい人だが、あまり迷惑を掛けるわけにはいかないからな。

「そう。分かったわ。」
 サイネリアさんは納得してくれたようだ。

 俺達の話が落ち着いた頃に、ギルマスのスターチスさんが戻ってきた。

「倭国と連絡が着いたよ。シャクヤクと付き人が数名迎えに来るそうだよ。」

「スターチスさん、ありがとうございます。」
 俺はスターチスさんに頭を下げた。

 俺達は迎えが来るまで、もうしばらくギルマスの部屋で寛がせてもらった。
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