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第1章

帰還③

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 目の前には、フードを頭からスッポリ被っている三名の者がいる。

「もう、フードを脱いで大丈夫ですよ。」
 スターチスさんに促され、真ん中に居た者が一歩前に出てきてフードを外し、顔が露わになった。

「サクラ王子。ご無事でなによりです。」
 シャクヤク師匠が俺の頭を撫でてきた。

「……ぅん。」
 俺は師匠に会えたホッとして、気が緩んだのか目から涙が出てきた。

「……怖かったですよね。もう大丈夫ですよ。」
 師匠の言葉には温かみがあり、俺も落ち着きを取り戻し、涙を拭った。

 すると、師匠はサイネリアさんに目を向け、
「スターチスから話は聞きました。サクラ王子を助けていただき本当にありがとうございます。」
 師匠はサイネリアさんに深々と頭を下げた。

「!?  頭をあげてください!!  たまたま出会っただけで、当然のことをしただけなので。」
とサイネリアさんは両手を前に出して慌てていた。

「あなたに出会えたからサクラ王子は無事だったのです。感謝しきれませんよ。」
 師匠は優しい笑みを浮かべた。

 ……サイネリアさんが師匠を見る目が乙女チックな気が……なんか顔も少し赤いし……まさかね。

「……。」
 フードを被った内の一人が俺に近づいて、俺の目の高さまで屈んできた。

 そして、その人は優しく俺のを抱きしめてくれた。

 !?

「……かあさん?」

 俺は周りに聞こえない程度の声で言葉を発した。

 返事は無かったが、もっと強く俺を抱きしめてくれた。

 その人が立ち上がる時に、涙がポタポタと床に落ちていることに気がついた。

 俺は込み上げる涙を抑えることが出来ず、涙を流しながらその人に抱きついた。

 俺は涙を拭い、師匠の手を引いて部屋の隅まで移動した。

 なにか俺が言いたいと察した師匠は、俺の背に合わせて屈んでくれた。

「あそこにいる女の子は、アイリスって言うんだけど、俺が奴隷に売られた時に捕まっていた子で、記憶を無くして行き場がないそうなんだ。アイリスにはうちに来なよって声を掛けちゃったんだけど、大丈夫かな?」
    アイリスを倭国に連れて行けるかの確認をした。

「私の一存では決定出来ませんが……大丈夫でしょう。」

「良かった。」
 俺は安心して肩の力を抜いた。

「……サクラ王子も手が早いですね。」

 師匠は、何を言っているん……だー!?

「!?  アイリスはそんなんじゃないぞ!」
 俺は必死に抗議した。

「……冗談ですよ。冗談。」
    師匠は笑って誤魔化した。

「……冗談はこれくらいにして、王子を誘拐した者は分かりますか?」
 師匠は真剣な表情で誘拐犯について聞いてきた。

「……伯父のゲッケイジュだ。どうすればいいのか分からなかったから、まだギルドの人には伝えてない。」
 俺は誘拐犯と状況を師匠に伝えた。

「……やはりそうですか。国に戻り次第、ゲッケイジュを拘束しますが、先ほどここに捕らえられた奴隷商らの取調べ状況を聞きましたが……口が硬いそうで、ゲッケイジュの名前を言わない可能性があります。」

「……まぁそうですよね。……こんなことなら俺がもっと話せるってみんなに教えていれば良かったな。」

 俺は今までのことを後悔し俯いた。

「ですが、王子がただの子供とゲッケイジュが侮っていなければ今頃殺されていたか、ゲッケイジュは王子の前に姿を見せなかったでしょう。」

 師匠の言うことは最もだと感じた。

「……なら、どうしますか?  俺が国に戻って、誘拐犯はゲッケイジュだ。と言って皆んなが信じてくれるのかな?  所詮は子供の言うことだとかで逃げられちゃいそうだよね。」

 そうなっては、泣き寝入り状態だ。

 その後も何をされるか分かったもんじゃない。

「……ゲッケイジュの件は、私に任せて下さい。何の心配も入りませんよ。」
 師匠は自信満々に言い切った。

 俺と師匠は話を打ち切り、倭国に帰る為の準備をして、師匠達が乗ってきていた馬車に乗り込み倭国に向けて出発した。


「「サクラお帰り。」」
とフードを被った二人が声を発した。

 男性と女性の声だ。

 生まれてから毎日聞いていたんだ、間違える筈が無い。

「ただいま!  父さん!  母さん!」
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