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プロローグ
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辺りの壁には松明がいくつも設置され、この薄暗い広間が照らされている。
地面には多数の人間の死体、いや、防具を身に纏ったアバターが転がっている状態だ。
本当の死体だったら、大事件だし、もっと血の臭いが充満していたことだろう。
しかし、この大人数が地面に転がっている状況は中々恐怖心を煽る光景だ。
俺の正面には、通常のゴブリンの5倍の大きさはある、キングゴブリンが大剣を振り回している。
キングゴブリンの大剣により、数名の武装した者が大剣で吹き飛ばされ、HPゲージが一瞬で持っていかれ、地面に横たわり、ピクリとも動かなくなる。
「ひいーー、い、いやだーー!」
その光景に恐怖し、逃げ出そうとした者は、武器を投げ捨てて入ってきた扉の方へ走り出し、背後に控えていたゴブリンランサーに突き殺される。
俺達が入って来た入りの門は硬く閉ざされており、このキングゴブリンを倒さなければ、開くことは無い。
恐怖でそのことも忘れてしまっていたのだろう。
俺達の前にはキングゴブリン、背後にある扉の前にはボスゴブリン1体とゴブリンソード、ゴブリンランサー、ゴブリンマージの3種類が各3体ずつの合計十体が出現し、後方から俺達を挟み撃ちにしてきている。
その為、俺達はパーティー10組による総勢30名でこの広間に入ったのだが、後方の対応をするために、10名は背後を担当している。
「逃げるな! 打ち合わせ通り、陣形を組んで挑むんだ!」
一人が剣を掲げて指揮をするが、皆、恐怖に足が竦んで動くことが出来ない。
いくらこの世界が仮想世界と分かっていても、怖いものは怖いのだ。
俺だって、現実世界で危ない現場は何度か体験しているが、この光景は流石にちょっとと思う。
「動けよお前ら! これじゃ全滅するぞ!」
「最初のレイドボスがこの難易度って、このゲーム糞じゃねぇかよ!」
俺の周りのプレイヤーは、身体は動かないが、口だけはよく動くようだ。
そもそも、コイツらは碌に情報も集めていなかったのか? 今回のクエストに挑む前にNPCからしっかり話を聞いていればこれくらい想定内だろ。
それに、ボスに挑むってのに、戦闘経験が少なすぎるだろ? やる気あるのか? 指揮ってた奴は、偉そうに言うだけで自分から一度も攻撃に参加していないし。
情け無い……俺が指揮した方が良かったか。
指揮しなかった俺が言うことじゃないな。
ヴァンからこのゲームには、若者が沢山ログインしていると聞いていたが、最近の若い奴らは、やっぱり弛んでるし、物事の順序が分かってないな。
どうせ、最初のレイドボスだから簡単に倒せるだろうとタカをくくっていたのだろう、考えが甘いのは俺の部下と一緒だな。
まぁ、このゲームをやっている理由(建て前)である、俺の教育力の向上と若者特性の把握には丁度いいな。
少しは参考になっている。……筈だ。
「おい。クラウド動けるか?」
「ん? 誰に聞いてんだよ? ヴァン。行けるに決まってんだろ。」
俺が考え事をしていると、パーティー仲間のヴァンが声を掛けてきた。
「俺がボスの大剣を銅盾でガードして隙を作る。その隙に。」
「了解だ。行くぞ!」
俺は、銅剣を持つ手に力を入れて、ヴァンとと共に駆け出す。
「来いや醜いゴブリン野郎!」
ヴァンが挑発すると、キングゴブリンの大剣がヴァン目掛けて振り切られる。
「うおぉぉぉーー! 俺の防御力を舐めるなよ!」
ヴァンは腰を少し落として、キングゴブリンの大剣を銅盾で受け止める。
ヴァンの両足は地面を抉りながら、数十センチ後退させられるが、他のプレイヤーの様に吹き飛ばされることなく、キングゴブリンの攻撃を受け止め切ることに成功する。
「行けクラウド!!」
「ナイスだヴァン!! 後は任せろ!!」
俺はヴァンの背後から姿を現し、キングゴブリンが大剣を受け止められた隙を見逃すことなく突っ込む。
「喰らえ! 『サンダースラッシュ』!!」
俺はキングゴブリンのガラ空きになっている脇腹目掛けて、俺の保有するスキルで一番攻撃力のある魔剣技を放った。
「よっしゃ!」
「やったか!?」
つい口から出てしまった言葉だが、大抵この言葉を言った時は、やっていない時だろう。
「ギギィィィーー!!」
案の定、キングゴブリンは生きていた。
「大ダメージを与えることには成功したな。」
「そうだな。」
俺達の攻撃により、生き残っていたプレイヤーの士気を高めることには成功したようで、他のプレイヤー達もぎこちないながらも、動き出し始める。
「これなら大丈夫そうだな。」
安堵したのも束の間、キングゴブリンは、残りHPが僅かとなり、明らかに攻撃力と攻撃速度が上昇した。
おいおい、ゲームにありがちな展開だな。
火事場のバカ力ってやつか。
強化されたキングゴブリンの攻撃により、プレイヤーが次々と吹き飛ばされて、動かなくなっていく。
「……不味いな。残りのメンバーは僅かだ。このままじゃ全滅しちまう。」
ヴァンの言う通り、キングゴブリンを倒すことは厳しい状況だな。
その時、俺の背後から物凄い速さでキングゴブリンへと向かう人影を見た。
「続いて。」
その声は、凄く澄んでいて、とても綺麗な声をしていた。
俺はその声に反応して、直ぐにその人の後を追う。
「ギギイィイアア!!」
キングゴブリンに気付かれ、俺達がアタックした時よりも素早く、威力のありそうな一撃が降り注ぐ。
「ふっ!」
その人は、物凄い速さでキングゴブリンに向かっていたのだが、更に加速して、その一撃を回避する。
「やぁーー!!」
その人は、素早い連続攻撃で、キングゴブリンのHPを削って行く。
しかし、その人の攻撃速度は凄まじいものだが、一撃一撃の威力が軽いようで、キングゴブリンの攻撃をキャンセル出来ず、キングゴブリンの次の攻撃が放たれようとしていた。
「危ない!! 間に合え! 『サンダースラッシュ』!!」
俺は、その人へキングゴブリンの攻撃が放たれる前に、キングゴブリンに剣技を放つ。
「ギギィアアア……。」
キングゴブリンは消滅し、クエストクリアの文字が大きく表示された。
「「うおぉぉぉぉぉ!!」」
一瞬の間の後に、生き残ったプレイヤー達の歓声が上がる。
「やったなクラウド。」
「ああ。……君のお陰だよ。ありがとう。」
俺はヴァンに返事をした後に、素晴らしい動きをして、勝利を導いたプレイヤーへ手を差し出してお礼をしようとした。
「ナイス攻撃。貴方が居なかったら私もやられていました。こちらこそありがとうございます。」
俺はこの人の後ろ姿しか見ていなかったが、彼女はとても綺麗な顔をしており、銀色に輝く長髪と瞳、すらっとした体型をしていた。
俺は、彼女を美しいと思った。
ゲームとは分かっていても一目惚れしてしまった。
勿論、彼女は、このNew Meというゲーム世界のアバターで、現実世界の姿ではないのだろうが。
地面には多数の人間の死体、いや、防具を身に纏ったアバターが転がっている状態だ。
本当の死体だったら、大事件だし、もっと血の臭いが充満していたことだろう。
しかし、この大人数が地面に転がっている状況は中々恐怖心を煽る光景だ。
俺の正面には、通常のゴブリンの5倍の大きさはある、キングゴブリンが大剣を振り回している。
キングゴブリンの大剣により、数名の武装した者が大剣で吹き飛ばされ、HPゲージが一瞬で持っていかれ、地面に横たわり、ピクリとも動かなくなる。
「ひいーー、い、いやだーー!」
その光景に恐怖し、逃げ出そうとした者は、武器を投げ捨てて入ってきた扉の方へ走り出し、背後に控えていたゴブリンランサーに突き殺される。
俺達が入って来た入りの門は硬く閉ざされており、このキングゴブリンを倒さなければ、開くことは無い。
恐怖でそのことも忘れてしまっていたのだろう。
俺達の前にはキングゴブリン、背後にある扉の前にはボスゴブリン1体とゴブリンソード、ゴブリンランサー、ゴブリンマージの3種類が各3体ずつの合計十体が出現し、後方から俺達を挟み撃ちにしてきている。
その為、俺達はパーティー10組による総勢30名でこの広間に入ったのだが、後方の対応をするために、10名は背後を担当している。
「逃げるな! 打ち合わせ通り、陣形を組んで挑むんだ!」
一人が剣を掲げて指揮をするが、皆、恐怖に足が竦んで動くことが出来ない。
いくらこの世界が仮想世界と分かっていても、怖いものは怖いのだ。
俺だって、現実世界で危ない現場は何度か体験しているが、この光景は流石にちょっとと思う。
「動けよお前ら! これじゃ全滅するぞ!」
「最初のレイドボスがこの難易度って、このゲーム糞じゃねぇかよ!」
俺の周りのプレイヤーは、身体は動かないが、口だけはよく動くようだ。
そもそも、コイツらは碌に情報も集めていなかったのか? 今回のクエストに挑む前にNPCからしっかり話を聞いていればこれくらい想定内だろ。
それに、ボスに挑むってのに、戦闘経験が少なすぎるだろ? やる気あるのか? 指揮ってた奴は、偉そうに言うだけで自分から一度も攻撃に参加していないし。
情け無い……俺が指揮した方が良かったか。
指揮しなかった俺が言うことじゃないな。
ヴァンからこのゲームには、若者が沢山ログインしていると聞いていたが、最近の若い奴らは、やっぱり弛んでるし、物事の順序が分かってないな。
どうせ、最初のレイドボスだから簡単に倒せるだろうとタカをくくっていたのだろう、考えが甘いのは俺の部下と一緒だな。
まぁ、このゲームをやっている理由(建て前)である、俺の教育力の向上と若者特性の把握には丁度いいな。
少しは参考になっている。……筈だ。
「おい。クラウド動けるか?」
「ん? 誰に聞いてんだよ? ヴァン。行けるに決まってんだろ。」
俺が考え事をしていると、パーティー仲間のヴァンが声を掛けてきた。
「俺がボスの大剣を銅盾でガードして隙を作る。その隙に。」
「了解だ。行くぞ!」
俺は、銅剣を持つ手に力を入れて、ヴァンとと共に駆け出す。
「来いや醜いゴブリン野郎!」
ヴァンが挑発すると、キングゴブリンの大剣がヴァン目掛けて振り切られる。
「うおぉぉぉーー! 俺の防御力を舐めるなよ!」
ヴァンは腰を少し落として、キングゴブリンの大剣を銅盾で受け止める。
ヴァンの両足は地面を抉りながら、数十センチ後退させられるが、他のプレイヤーの様に吹き飛ばされることなく、キングゴブリンの攻撃を受け止め切ることに成功する。
「行けクラウド!!」
「ナイスだヴァン!! 後は任せろ!!」
俺はヴァンの背後から姿を現し、キングゴブリンが大剣を受け止められた隙を見逃すことなく突っ込む。
「喰らえ! 『サンダースラッシュ』!!」
俺はキングゴブリンのガラ空きになっている脇腹目掛けて、俺の保有するスキルで一番攻撃力のある魔剣技を放った。
「よっしゃ!」
「やったか!?」
つい口から出てしまった言葉だが、大抵この言葉を言った時は、やっていない時だろう。
「ギギィィィーー!!」
案の定、キングゴブリンは生きていた。
「大ダメージを与えることには成功したな。」
「そうだな。」
俺達の攻撃により、生き残っていたプレイヤーの士気を高めることには成功したようで、他のプレイヤー達もぎこちないながらも、動き出し始める。
「これなら大丈夫そうだな。」
安堵したのも束の間、キングゴブリンは、残りHPが僅かとなり、明らかに攻撃力と攻撃速度が上昇した。
おいおい、ゲームにありがちな展開だな。
火事場のバカ力ってやつか。
強化されたキングゴブリンの攻撃により、プレイヤーが次々と吹き飛ばされて、動かなくなっていく。
「……不味いな。残りのメンバーは僅かだ。このままじゃ全滅しちまう。」
ヴァンの言う通り、キングゴブリンを倒すことは厳しい状況だな。
その時、俺の背後から物凄い速さでキングゴブリンへと向かう人影を見た。
「続いて。」
その声は、凄く澄んでいて、とても綺麗な声をしていた。
俺はその声に反応して、直ぐにその人の後を追う。
「ギギイィイアア!!」
キングゴブリンに気付かれ、俺達がアタックした時よりも素早く、威力のありそうな一撃が降り注ぐ。
「ふっ!」
その人は、物凄い速さでキングゴブリンに向かっていたのだが、更に加速して、その一撃を回避する。
「やぁーー!!」
その人は、素早い連続攻撃で、キングゴブリンのHPを削って行く。
しかし、その人の攻撃速度は凄まじいものだが、一撃一撃の威力が軽いようで、キングゴブリンの攻撃をキャンセル出来ず、キングゴブリンの次の攻撃が放たれようとしていた。
「危ない!! 間に合え! 『サンダースラッシュ』!!」
俺は、その人へキングゴブリンの攻撃が放たれる前に、キングゴブリンに剣技を放つ。
「ギギィアアア……。」
キングゴブリンは消滅し、クエストクリアの文字が大きく表示された。
「「うおぉぉぉぉぉ!!」」
一瞬の間の後に、生き残ったプレイヤー達の歓声が上がる。
「やったなクラウド。」
「ああ。……君のお陰だよ。ありがとう。」
俺はヴァンに返事をした後に、素晴らしい動きをして、勝利を導いたプレイヤーへ手を差し出してお礼をしようとした。
「ナイス攻撃。貴方が居なかったら私もやられていました。こちらこそありがとうございます。」
俺はこの人の後ろ姿しか見ていなかったが、彼女はとても綺麗な顔をしており、銀色に輝く長髪と瞳、すらっとした体型をしていた。
俺は、彼女を美しいと思った。
ゲームとは分かっていても一目惚れしてしまった。
勿論、彼女は、このNew Meというゲーム世界のアバターで、現実世界の姿ではないのだろうが。
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