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ミスリル武器完成!

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 ヘパイストスに、ミスリル製の武具製作を依頼したマルス達。

 冒険者学校も、アザゼルの悪魔化騒動の調査が一段落したことで、やっと再開された。

「おはよう。」
 マルス達が揃って教室へと入り、既に教室に居たクラスメイトに挨拶する。

 以前のSクラスの教室と違い、席が一つ無くなっていた。

 勿論、アザゼルの席だ。

 (色々絡んで来た奴だけど、クラスメイトが一人減るのは、悲しいものだな。)

 クラスメイト達も、アザゼルが座っていた席に何度か目を止めていたのだった。

 結局、アザゼルが口にしていた謎の人物も発見出来ず、悪魔化は迷宮入りになったそうだ。


 マルス達が教室内で話をしていると、エイル先生が教室へ入って来る。

「皆さん、おはようございます。アザゼル君のことは残念でしたが、気持ちを切り替えて、休校の遅れを取り戻しましょう。」
 こうして冒険者学校の授業が再開となり、マルス達は変わらない日常を過ごす。

 クラスメイトとの模擬戦や、各職業による専門訓練、各国の情勢、モンスター座学等をこなしていくのだった。



 そして、凡そ1ヶ月が経過した頃、ヘパイストスから、遂に全員分のミスリル製武具が完成したと連絡を受けたマルス達は、ヘパイストスの工房を訪ねていた。

「待たせて悪かったな。やっと納得のいく物が完成したよ。」
 ヘパイストスは、自分の作り上げた武具に自信満々といった表情を浮かべながら、マルス達に武具をお披露目した。

 マルス、クレイ、フレイヤの片手剣は、それぞれの使いやすいサイズで作られており、各々の片手剣は若干違いがある。

 クレイの片手剣は、通常タイプのものだ。

 マルスの片手剣は、クレイ通常タイプと違い、鍔の部分に丸くカットされた魔石がはめ込まれている。

 魔石とは、魔導士が装備している杖の上に取り付けられている魔力を増幅する石のことだ。

 マルスは、剣に属性魔法を付与出来ないので、クレイ達の様に、ミスリルの魔力伝導率はあまり関係無い。

 この魔石をはめ込んだことにより、魔道士が持つ杖の様に魔力を底上げ出来る仕組みだ。

 魔石については、ヘパイストスさんが仕入れていた物から上物を取り付けてくれる様に注文していた。

 これにより、マルスの片手剣は攻撃力だけでなく、魔法を使用した際の魔力補正も大きくなる。

 フレイヤの片手剣は、デザインが少し違っていた。

「女性が使うんだから、少しは見た目も大事だろ?」
 (ヘパイストスさんって、性能が全てだ!  とか言いそうなタイプだと思ったけど違ったんだな。)

「ありがとうございます。気に入りました。」
 受け取ったフレイヤも、ヘパイストスの作り出した剣のデザインを気に入っていた。

 マルスとフレイヤの、胸当てとアームガードも完成しており、男女別のデザインとなっていた。

 クレイは、防具の数が多く、盾、鎧、兜を身に付けていた。

(めちゃくちゃカッコ良いな!  ただ、あれだけ身に付けて、動き難くないのかな?)

「これめっちゃいいですよ!  ありがとうございます。」
 クレイも全ての武具を身に付けて、大喜びしながらはしゃいでいた。

 イリスの杖は、持ち手の部分がミスリル鉱石で作られており、上には大きくまん丸にカットされた魔石が取り付けられている。

 ヘパイストスが仕入れていた魔石の一番の上物は、イリスの杖に付けらてもらったのだ。

 イリスが、別口で発注していたミスリル鉱石を練り込んで作られたミスリルローブは、先に完成しており、既にイリスは身に纏っていた。

 イリスも、ヘパイストスへとお礼を口にしていた。

「おお!  身体にフィットしてるぅ!」
 ミネルヴァのガントレットと脚装備も完成し、身に付けたミネルヴァが感触を確かめる為に、少し身体を動かしてみたが、全く動きに問題ないとのことであった。

 ミスリル鉱石は、鉄や銀よりも丈夫であり、魔力伝導率が良いだけでなく、軽さも売りなのだ。

「我ながら、かなりの出来だと自負している。」
 ヘパイストスは、胸の前で腕込みし、マルス達が身に纏う自分の作品を眺めていた。

「ありがとうございます。ヘパイストスさん。」
「いやいや、礼を言うのは俺の方だ。納得の行く武具が作れたからな。それに、マルス達のお陰で、まだまだミスリル鉱石は余っているからな。」
 こうして、ミスリル製の武器を手に入れたマルス達は、ヘパイストスに買い取ってもらったミスリル鉱石分のお金を分配した。

「そうだ。ほれ、もう一本。」
 そう言ってヘパイストスがマルスに手渡したのは、先程マルスが受け取ったミスリル製の片手剣と同じものだった。

「ありがとうございます。」
 マルスは、もう一本分の剣の代金を分配したお金から支払う。

 マルスが予備の剣を受け取ると、その剣を不思議に思ったイリスがマルスへと声を掛ける。

「ねぇマルス。今、新しい武器を手に入れたのに、何でもう一本?」
 マルスの行動を、疑問に感じたイリスが尋ねる。

「予備だよ。モンスターとの戦闘中に武器が壊れても替えの武器があると安心だろ?」

「替えの武器?  そっか、マルスには収納箱があるもんね。」
 そう、マルスには収納箱があるので、予備の武器を手に持つ必要が無いのだ。

 今迄も、マルスの収納箱には予備の剣が入っていたのだが、安売りしていた剣だ。

 ミスリル製の武器が壊れてしまって、取り出すが脆い剣だと安心して戦えない。

 その点、ヘパイストスの作ってくれた剣がもう一本あれば安心する訳だ。


 こうして新たな武具を手に入れたマルス達は、新しい武器に早く慣れる為に、王都東にある森の中で、モンスターと戦うことにしたのだった。

「そっち行ったぞ!」
「あいよ!」
 現在、マルス達は木の棒や冒険者から奪った剣などを装備しているゴブリンと対峙している。

 ゴブリンは、今のマルス達にとって、取るに足らない相手だ。

 皆、技能を使わなくても、一撃のもとにゴブリンを葬り去る。

 マルス、クレイ、フレイヤは新たな剣の斬れ味と扱い易さに驚き、イリスも普段より消費MPが少なく済むことや、黒魔法の威力に驚いていた。

 また、ミネルヴァは己を護りながら戦える武具に満足していたようだ。

 こうして、マルス達はミスリル製の武器の性能を実感していた。

「だいぶ斬れ味がいいな。」
「ああ。今の俺なら何でも斬れそうだぜ!  魔王でも斬れそうだ!」
 クレイは、笑いながらマルスにそんなことを言うが、魔王はそんなに甘い相手では無いだろうと、マルスは感じていた。

 今迄マルス達が遭遇して来た、ハイペリオン、ギガントゾンビ、ミスリルゴーレム、どれも強敵だった。

 魔王と名乗るモンスターは、そんな強敵よりも上の存在なのだ。

 マルスは、武器が強くなっても、驕ることなく己を鍛えようと誓ったのだった。
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