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誰の料理が一番だ?
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マルスの目の前には、この世のものとは思えない物体が皿に盛り付けられている。
まさに毒色と呼ぶに相応しい程の紫色だ。
そして、コポコポと泡立っており、異臭を放っている。
(何なんだコレは? コレは食べ物なのだろうか? 一体コレは、何という食べ物なんだ! 寧ろ食べ物なのかも怪しい。)
こんな危険な兵器を作った人物は、ニコニコ顔でみんなを眺めている。
(くっ!? そんな顔されたら、食べるしか道はないじゃないか!)
マルスと同じ心境なのか、食べる側の人間は、顔を青くしている。
さて、どうしてマルス達が、こんな危機的状況に陥ったのか、順を追って説明したいと思う。
▽
「今度の週末に、遠征訓練を行います。」
エイル先生は、生徒を見渡しながらそう口にする。
エイル先生の説明によると、遠征期間は3日間。
毎年遠征訓練をしている、王都南の森に行くことになったマルス達。
その森は、比較的弱いモンスターが棲息している森で、過去に危険なことは一度も起きていない。
遠征中はパーティー単位で行動し、1学年のパーティーには、3学年のパーティーが同伴することにより、安全を確保している。
危険な状態になった際は、上級生がフォローしてくれる仕組みとなっている。
3学年ともなれば、遠征する場所に棲息しているモンスターに、問題なく対処可能である。
更に、引率の教員達が、森の各地点に配置されており、素早く対応出来るようになっている。
「エイル先生。ご飯はどうするんですか?」
ミネルヴァが挙手して、先生へと質問する。
「遠征訓練ですので、勿論、各パーティーで何とかしてもらいますよ。自給自足です。森の中で食べられるものを見分けるのも大事ですよ。」
その言葉に、クラス中から不満の声が上がる。
ミネルヴァに至っては、机に突っ伏してしまう程、絶望していた。
(そんなに、凹まなくても。)
「冒険者としてやって行くには、外で生きて行く術を知ることは大切です。」
(エイル先生の言うことは、最もだな。)
エイル先生が教室から出て行った後、マルスの周りにパーティーメンバーが集まる。
「美味しいご飯が食べたいよぉ。」
未だにミネルヴァは、遠征が嫌なようで、かなり御機嫌斜めだった。
「自給自足かぁ。変なもん食う訳にはいかないから、後で調べておくか。」
クレイは、遠征を前向きに考えているようだ。
「今迄は、馬車に食料を積んでいましたし、食事に困る事はありませんでしたからね。」
フレイヤの言う通り、マルス達は依頼で遠出をしたが、その際は、馬車に食料を積んでいたので、現地調達することが今迄無かった。
「折角だから、遠征中も美味しいもの食べようぜ。」
マルスの発言に、クレイ達は、コイツ何言ってんの? と言った表情を浮かべる。
「ねぇマルス。遠征中は現地調達なんだから、そんな贅沢は言えないわよ。」
イリスの言うように、現地調達で美味しいものを食べれる保証はない。
しかし、マルスには裏技があるのだ。
「それなら心配ないよ。俺の収納箱は、容量が大きいから結構入るんだ。調理道具や食材も持ち込めるから、イリスの魔法で火を起こせるし、外で料理出来るよ。
マルスの言葉に、イリス達は目を見開く。
「「「「そ、その手があった!?」」」」
(そんなに驚かなくてもいいんじゃないの!?)
「でも、現地調達も訓練の内なんだから、ちゃんと現地調達する知識も身に付けような。」
「だな。料理を誰がするか決めとくか? それとも順番制にするか?」
クレイがマルスに賛同し、料理当番について意見を出す。
「えーー、私、料理得意じゃないんだけど。」
ミネルヴァは、食う専門って感じである。
「取り敢えず、自分の得意料理を一人一品作って、食べ比べてみましょうか?」
フレイヤの意見が通り、マルス達は食堂へ向かい、調理場の使用許可が出たので、料理をすることになったのだった。
(俺は、何を作ろうかな。やっぱり、外で食べると言っても美味しさは大事だ。それと、手軽に食べられることと素早く調理出来ることも重要だ。アレしかないな。)
マルスは、早速料理を開始したのだった。
全員が黙々と料理を作り始めて1時間後、全員の料理が完成した。
くじ引きで、料理を出す順番を決めたところ、フレイヤ、クレイ、ミネルヴァ、マルス、イリスの順に発表することが決まった。
「私からですね。私が作ったのはこれです。」
フレイヤが自作の料理を盛り付けた皿の蓋を外すと、そこに現れたのは、魚介たっぷりのトマトソースパスタ、ペスカトーレである。
「めっちゃいい匂いなんですけど!?」
フレイヤは、家でも料理をしていたため、それなりに料理上手なのだ。
(こんな美味そうな料理が作れるなんて!)
マルスは、パスタをフォークに巻き付けて、口の中に入れると、ペスカトーレの味を堪能する。
トマトソースのパスタは、塩、ニンニク、白ワインで味付けされ、具材として、イカ、アサリ、ホタテ、エビが使われていた。
「美味い、美味すぎる! ペスカトーレ!」
(お店に出せるレベルだよこれ!?)
マルスだけでなく、全員がフレイヤの料理を絶賛した。
次に登場するのが、クレイの料理だ。
「俺が作ったのはこれ! 豚丼だ!」
クレイが器の蓋を外すと、炊きたてのご飯の上に、タレがよく絡まっている豚肉が敷き詰められていた。
「良いじゃん!」
(こういうシンプルのって良いよね。)
クレイの豚丼を、各々口にする。
(こ、これは!? 豚肉のタレは絶妙な甘辛さがあり、食欲を唆る! 更にこのタレがご飯にも掛かっている感じ! 分かってるじゃないかクレイ!)
「美味いよクレイ!」
「クレイが料理出来るなんて、意外。」
マルスは、クレイの料理を褒めたのだが、ミネルヴァはクレイが料理上手なのが意外だと口にする。
「何だでよ?」
「見た目?」
ミネルヴァの言葉に、クレイはショックを受けてダウンする。
(コントをしている二人は置いといて、次にミネルヴァの料理だ。)
「私はこれ。おにぎりよ。」
(これは、まんまおにぎりだな。)
ミネルヴァがマルス達に見せたのは、何の変哲も無いおにぎりだった。
しかし、マルスがそのおにぎりを口に入れた瞬間、このおにぎりが普通じゃ無いことに気が付く。
「こ、このおにぎりってどうなってるの?」
「それは味噌をおにぎりに塗って焼いたやつよ。こっちは醤油、向こうのには、中に焼肉が入ってるおにぎりよ。」
(成る程、いろんな種類のおにぎりを作ってみたんだな。)
「美味い。」
「ああ。美味いな。」
「美味しいですね。」
「うん。美味しい。」
(あれ? そもそもおにぎりで失敗する奴なんて、いないんじゃないか? ただ、見た目は綺麗な三角形になっている。)
次は、マルスの順番となる。
(いよいよ俺の出番が来たか。)
「俺が作ったのは、コレだ!」
そう言って、マルスが卓上に並べたのは、ただの白米だ。
「えーー、白飯を食えって言うの?」
おにぎりを作ったミネルヴァから、文句の声が上がった。
「違うよ。この白米に秘伝のタレを掛けて、卵を溶いて入れるんだよ。名付けて、黄金のたまごかけご飯だ。」
「おいマルス。これは料理とは言わないだろ?」
クレイを始め、イリス達はマルスのTKGに否定的だった。
しかし、マルスが作ったものを食べないのは失礼だと思ったイリス達は、TKGを口へと運ぶ。
たまごかけご飯を食べたメンバーは、TKGの美味さに目を見開き、言葉を失う。
「美味しい。こういった食べ方をしたのは初めてだけど、美味しいですね。」
王女のイリスからも、美味しいを貰えた。
(流石、T、K、Gだ! タマゴキングだ!)
そして、最後に登場した料理が問題だった。
マルス達の目の前には、この世のものとは思えない物体が皿に盛り付けられている。
まさに毒色と呼ぶに相応しい程の紫色だ。
そして、コポコポと泡立っており、異臭を放っている。
(何なんだコレは? コレは食べ物なのだろうか? 一体コレは、何という食べ物なんだ! 寧ろ食べ物なのかも怪しい。)
こんな危険な兵器を作った張本人である、イリスは、ニコニコ顔でみんなを眺めている。
(くっ!? そんな顔されたら食べるしか道はないじゃないか!)
俺と同じ心境なのか、食べる側の人間は、顔を青くしている。
という事で、冒頭に話が戻った訳だ。
「……私、お花摘んでくるね。」
「お前は誰だ? おい、ミネルヴァ、何一人だけこの地獄から逃げようとしているんだ! 何がお花摘んで来るだコラ!」
マルスは、イリスに聞こえない様にミネルヴァに文句を言う。
そんなミネルヴァを止めるべく立ち上がったのは、フレイヤだ。
(流石フレイヤだ。空かさずミネルヴァの肩に手を乗せて、動きを制するとは。)
「……私も行きます。」
(違ったーー!? フレイヤ何言ってんだよ? そこは一緒に地獄へ行こうだろが!)
こうして、ミネルヴァとフレイヤがこの地獄から逃げ延びる。
「……む、無理して食べなくていいよ。ご、ごめんね。」
イリスは、二人が自分の料理から逃げ出したと感じ取り、マルスとクレイにそう告げた。
(そんな悲しそうな顔されて、食べない訳にはいかないだろ!)
マルスがクレイに目配せすると、クレイは頷いて応えた。
マルスは、謎の物体を口に運ぶ込む。
謎の物体を乗せたスプーンを持つ手が震えていたのは、仕方のないことだろう。
「……う、美味い!」
マルスは、予想していたのとは全く異なる味に感動を覚える。
(この舌にビリビリする感じ、身体を雷が貫くような衝撃!? あまりの美味さに、意識を失いかけてしまった。)
「そんな馬鹿な!?」
クレイは、マルスの言葉が信じられないのか、驚愕の表情を浮かべた。
(てか、クレイ食べてないし! 何で食べてないんだよ!?)
「何でお前食べてないの?」
「いやどう考えてもこれは危ないだろ? 折角、イリスが食べなくていいって言ってくれたんだから、食べるのはやめようって合図かと。」
マルスとクレイは、イリスに聞こえないよう、小声でやり取りする。
「この野郎!? 裏切りやがったな!」
「まぁ、マルスが美味いって言うなら大丈夫そうだな。」
クレイは、マルスに毒味をさせて安心したのか、謎の物体をスプーン山盛りにして口へと入れる。
「うんうん。美味い。これはさい………。」
感想を口にしていたクレイが、突如地面に倒れ、口から泡を吐き出し、白目を剥いていた。
(あっれぇーー? これは逝ったか?)
イリスがクレイを揺さぶるが、クレイは意識を取り戻せない。
「……【回復魔法:解毒】。」
マルスはクレイに手をかざし、回復魔法の解毒を発動した。
何とか、意識を取り戻すクレイ。
「ま、マルス。何でお前は大丈夫だったんだ?」
「ん? 俺は自分に解毒を掛けていたからな。」
「なっ!? 裏切りやがったな!」
「先に裏切ったのクレイだろ!?」
小言でクレイと言い合いをしていたのだが。
(あれ、頭がぼうっとしてくる。呂律が回らない。)
「ど、どうなっ、てるん、だ?」
そのまま身体に力が入らず、動けなくなったマルスとクレイは地に倒れる。
(まさか!? 解毒で対処し切れなかったってことなのか!?)
そんなマルス達の状態を見たイリスは、あたふたと右往左往しながら、顔を青ざめてしまう。
丁度そこへ、エイル先生が登場し、マルスとクレイに状態異常を治す為に、上級回復魔法の全状態回復を施したことで、ようやく二人の容態が安定する。
「……危なかった。」
(三途の川の向こうで、父さんと母さんに会った気がする。)
そして、マルスとクレイが生き返ったところに、逃亡犯のフレイヤとミネルヴァが戻って来たため、イリスの料理の破壊力を伝えたところ、料理担当は、イリス以外が行うことに決定したのだった。
まさに毒色と呼ぶに相応しい程の紫色だ。
そして、コポコポと泡立っており、異臭を放っている。
(何なんだコレは? コレは食べ物なのだろうか? 一体コレは、何という食べ物なんだ! 寧ろ食べ物なのかも怪しい。)
こんな危険な兵器を作った人物は、ニコニコ顔でみんなを眺めている。
(くっ!? そんな顔されたら、食べるしか道はないじゃないか!)
マルスと同じ心境なのか、食べる側の人間は、顔を青くしている。
さて、どうしてマルス達が、こんな危機的状況に陥ったのか、順を追って説明したいと思う。
▽
「今度の週末に、遠征訓練を行います。」
エイル先生は、生徒を見渡しながらそう口にする。
エイル先生の説明によると、遠征期間は3日間。
毎年遠征訓練をしている、王都南の森に行くことになったマルス達。
その森は、比較的弱いモンスターが棲息している森で、過去に危険なことは一度も起きていない。
遠征中はパーティー単位で行動し、1学年のパーティーには、3学年のパーティーが同伴することにより、安全を確保している。
危険な状態になった際は、上級生がフォローしてくれる仕組みとなっている。
3学年ともなれば、遠征する場所に棲息しているモンスターに、問題なく対処可能である。
更に、引率の教員達が、森の各地点に配置されており、素早く対応出来るようになっている。
「エイル先生。ご飯はどうするんですか?」
ミネルヴァが挙手して、先生へと質問する。
「遠征訓練ですので、勿論、各パーティーで何とかしてもらいますよ。自給自足です。森の中で食べられるものを見分けるのも大事ですよ。」
その言葉に、クラス中から不満の声が上がる。
ミネルヴァに至っては、机に突っ伏してしまう程、絶望していた。
(そんなに、凹まなくても。)
「冒険者としてやって行くには、外で生きて行く術を知ることは大切です。」
(エイル先生の言うことは、最もだな。)
エイル先生が教室から出て行った後、マルスの周りにパーティーメンバーが集まる。
「美味しいご飯が食べたいよぉ。」
未だにミネルヴァは、遠征が嫌なようで、かなり御機嫌斜めだった。
「自給自足かぁ。変なもん食う訳にはいかないから、後で調べておくか。」
クレイは、遠征を前向きに考えているようだ。
「今迄は、馬車に食料を積んでいましたし、食事に困る事はありませんでしたからね。」
フレイヤの言う通り、マルス達は依頼で遠出をしたが、その際は、馬車に食料を積んでいたので、現地調達することが今迄無かった。
「折角だから、遠征中も美味しいもの食べようぜ。」
マルスの発言に、クレイ達は、コイツ何言ってんの? と言った表情を浮かべる。
「ねぇマルス。遠征中は現地調達なんだから、そんな贅沢は言えないわよ。」
イリスの言うように、現地調達で美味しいものを食べれる保証はない。
しかし、マルスには裏技があるのだ。
「それなら心配ないよ。俺の収納箱は、容量が大きいから結構入るんだ。調理道具や食材も持ち込めるから、イリスの魔法で火を起こせるし、外で料理出来るよ。
マルスの言葉に、イリス達は目を見開く。
「「「「そ、その手があった!?」」」」
(そんなに驚かなくてもいいんじゃないの!?)
「でも、現地調達も訓練の内なんだから、ちゃんと現地調達する知識も身に付けような。」
「だな。料理を誰がするか決めとくか? それとも順番制にするか?」
クレイがマルスに賛同し、料理当番について意見を出す。
「えーー、私、料理得意じゃないんだけど。」
ミネルヴァは、食う専門って感じである。
「取り敢えず、自分の得意料理を一人一品作って、食べ比べてみましょうか?」
フレイヤの意見が通り、マルス達は食堂へ向かい、調理場の使用許可が出たので、料理をすることになったのだった。
(俺は、何を作ろうかな。やっぱり、外で食べると言っても美味しさは大事だ。それと、手軽に食べられることと素早く調理出来ることも重要だ。アレしかないな。)
マルスは、早速料理を開始したのだった。
全員が黙々と料理を作り始めて1時間後、全員の料理が完成した。
くじ引きで、料理を出す順番を決めたところ、フレイヤ、クレイ、ミネルヴァ、マルス、イリスの順に発表することが決まった。
「私からですね。私が作ったのはこれです。」
フレイヤが自作の料理を盛り付けた皿の蓋を外すと、そこに現れたのは、魚介たっぷりのトマトソースパスタ、ペスカトーレである。
「めっちゃいい匂いなんですけど!?」
フレイヤは、家でも料理をしていたため、それなりに料理上手なのだ。
(こんな美味そうな料理が作れるなんて!)
マルスは、パスタをフォークに巻き付けて、口の中に入れると、ペスカトーレの味を堪能する。
トマトソースのパスタは、塩、ニンニク、白ワインで味付けされ、具材として、イカ、アサリ、ホタテ、エビが使われていた。
「美味い、美味すぎる! ペスカトーレ!」
(お店に出せるレベルだよこれ!?)
マルスだけでなく、全員がフレイヤの料理を絶賛した。
次に登場するのが、クレイの料理だ。
「俺が作ったのはこれ! 豚丼だ!」
クレイが器の蓋を外すと、炊きたてのご飯の上に、タレがよく絡まっている豚肉が敷き詰められていた。
「良いじゃん!」
(こういうシンプルのって良いよね。)
クレイの豚丼を、各々口にする。
(こ、これは!? 豚肉のタレは絶妙な甘辛さがあり、食欲を唆る! 更にこのタレがご飯にも掛かっている感じ! 分かってるじゃないかクレイ!)
「美味いよクレイ!」
「クレイが料理出来るなんて、意外。」
マルスは、クレイの料理を褒めたのだが、ミネルヴァはクレイが料理上手なのが意外だと口にする。
「何だでよ?」
「見た目?」
ミネルヴァの言葉に、クレイはショックを受けてダウンする。
(コントをしている二人は置いといて、次にミネルヴァの料理だ。)
「私はこれ。おにぎりよ。」
(これは、まんまおにぎりだな。)
ミネルヴァがマルス達に見せたのは、何の変哲も無いおにぎりだった。
しかし、マルスがそのおにぎりを口に入れた瞬間、このおにぎりが普通じゃ無いことに気が付く。
「こ、このおにぎりってどうなってるの?」
「それは味噌をおにぎりに塗って焼いたやつよ。こっちは醤油、向こうのには、中に焼肉が入ってるおにぎりよ。」
(成る程、いろんな種類のおにぎりを作ってみたんだな。)
「美味い。」
「ああ。美味いな。」
「美味しいですね。」
「うん。美味しい。」
(あれ? そもそもおにぎりで失敗する奴なんて、いないんじゃないか? ただ、見た目は綺麗な三角形になっている。)
次は、マルスの順番となる。
(いよいよ俺の出番が来たか。)
「俺が作ったのは、コレだ!」
そう言って、マルスが卓上に並べたのは、ただの白米だ。
「えーー、白飯を食えって言うの?」
おにぎりを作ったミネルヴァから、文句の声が上がった。
「違うよ。この白米に秘伝のタレを掛けて、卵を溶いて入れるんだよ。名付けて、黄金のたまごかけご飯だ。」
「おいマルス。これは料理とは言わないだろ?」
クレイを始め、イリス達はマルスのTKGに否定的だった。
しかし、マルスが作ったものを食べないのは失礼だと思ったイリス達は、TKGを口へと運ぶ。
たまごかけご飯を食べたメンバーは、TKGの美味さに目を見開き、言葉を失う。
「美味しい。こういった食べ方をしたのは初めてだけど、美味しいですね。」
王女のイリスからも、美味しいを貰えた。
(流石、T、K、Gだ! タマゴキングだ!)
そして、最後に登場した料理が問題だった。
マルス達の目の前には、この世のものとは思えない物体が皿に盛り付けられている。
まさに毒色と呼ぶに相応しい程の紫色だ。
そして、コポコポと泡立っており、異臭を放っている。
(何なんだコレは? コレは食べ物なのだろうか? 一体コレは、何という食べ物なんだ! 寧ろ食べ物なのかも怪しい。)
こんな危険な兵器を作った張本人である、イリスは、ニコニコ顔でみんなを眺めている。
(くっ!? そんな顔されたら食べるしか道はないじゃないか!)
俺と同じ心境なのか、食べる側の人間は、顔を青くしている。
という事で、冒頭に話が戻った訳だ。
「……私、お花摘んでくるね。」
「お前は誰だ? おい、ミネルヴァ、何一人だけこの地獄から逃げようとしているんだ! 何がお花摘んで来るだコラ!」
マルスは、イリスに聞こえない様にミネルヴァに文句を言う。
そんなミネルヴァを止めるべく立ち上がったのは、フレイヤだ。
(流石フレイヤだ。空かさずミネルヴァの肩に手を乗せて、動きを制するとは。)
「……私も行きます。」
(違ったーー!? フレイヤ何言ってんだよ? そこは一緒に地獄へ行こうだろが!)
こうして、ミネルヴァとフレイヤがこの地獄から逃げ延びる。
「……む、無理して食べなくていいよ。ご、ごめんね。」
イリスは、二人が自分の料理から逃げ出したと感じ取り、マルスとクレイにそう告げた。
(そんな悲しそうな顔されて、食べない訳にはいかないだろ!)
マルスがクレイに目配せすると、クレイは頷いて応えた。
マルスは、謎の物体を口に運ぶ込む。
謎の物体を乗せたスプーンを持つ手が震えていたのは、仕方のないことだろう。
「……う、美味い!」
マルスは、予想していたのとは全く異なる味に感動を覚える。
(この舌にビリビリする感じ、身体を雷が貫くような衝撃!? あまりの美味さに、意識を失いかけてしまった。)
「そんな馬鹿な!?」
クレイは、マルスの言葉が信じられないのか、驚愕の表情を浮かべた。
(てか、クレイ食べてないし! 何で食べてないんだよ!?)
「何でお前食べてないの?」
「いやどう考えてもこれは危ないだろ? 折角、イリスが食べなくていいって言ってくれたんだから、食べるのはやめようって合図かと。」
マルスとクレイは、イリスに聞こえないよう、小声でやり取りする。
「この野郎!? 裏切りやがったな!」
「まぁ、マルスが美味いって言うなら大丈夫そうだな。」
クレイは、マルスに毒味をさせて安心したのか、謎の物体をスプーン山盛りにして口へと入れる。
「うんうん。美味い。これはさい………。」
感想を口にしていたクレイが、突如地面に倒れ、口から泡を吐き出し、白目を剥いていた。
(あっれぇーー? これは逝ったか?)
イリスがクレイを揺さぶるが、クレイは意識を取り戻せない。
「……【回復魔法:解毒】。」
マルスはクレイに手をかざし、回復魔法の解毒を発動した。
何とか、意識を取り戻すクレイ。
「ま、マルス。何でお前は大丈夫だったんだ?」
「ん? 俺は自分に解毒を掛けていたからな。」
「なっ!? 裏切りやがったな!」
「先に裏切ったのクレイだろ!?」
小言でクレイと言い合いをしていたのだが。
(あれ、頭がぼうっとしてくる。呂律が回らない。)
「ど、どうなっ、てるん、だ?」
そのまま身体に力が入らず、動けなくなったマルスとクレイは地に倒れる。
(まさか!? 解毒で対処し切れなかったってことなのか!?)
そんなマルス達の状態を見たイリスは、あたふたと右往左往しながら、顔を青ざめてしまう。
丁度そこへ、エイル先生が登場し、マルスとクレイに状態異常を治す為に、上級回復魔法の全状態回復を施したことで、ようやく二人の容態が安定する。
「……危なかった。」
(三途の川の向こうで、父さんと母さんに会った気がする。)
そして、マルスとクレイが生き返ったところに、逃亡犯のフレイヤとミネルヴァが戻って来たため、イリスの料理の破壊力を伝えたところ、料理担当は、イリス以外が行うことに決定したのだった。
応援ありがとうございます!
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