21 / 59
21. マルコの同僚、レオナルド田中くん①
しおりを挟む普段は諸外国の歓迎晩餐会でしか使用しない大ホールを会場に、「ようこそ王宮へ!」の横断幕のもと、舞い散る花吹雪の中で開催された華々しい入社式から2年たち、マルコは18歳になって、一人前の書類作成補助係へと成長していた。
補助係の最高責任者であるダダン公爵が、マルコを「叔父上呼び」することが唯一不思議だが、それ以外は順調だ。
ちなみにどうして公爵が自分を「叔父上」と呼ぶのか、マルコは一度、公爵に聞いたことがあった。
公爵は目に涙をため、「すまない。これには事情があるのだが…」といったきり肩を震わせて泣いた。面食らったマルコはこれ以上聞いてはまずいと判断し、「どのように呼んで頂いても構いません」と答えた。
400人の師匠たちから「命のかかった事以外は、ちっせーことに捕われるな!」という教育方針で育った、マルコらしいエピソードである。
さて、補助係は二人一組で業務をこなす。マルコがペアを組むのは、レオナルドといい、王都で指折りの石材卸売商の三男坊だ。
レオナルドは、マルコより2歳上で勤続4年目。ミスは少なく明るい性格でマルコとの相性も良い。小柄な係員が多い補助係の中でもマルコは一番小柄で、次がレオナルドだ。マルコが入るまでは、レオナルドは他の係員と同様に色々な部署にいたが、マルコと組むようになってから王族係専属となった。
今日の予定は、王妃様主催の夏の晩餐会の予算申請。これまでの経験で、だいだい午後1時に王妃様が女官長を連れてこられるのが常だ。
今は午前8時前。王宮は8時開門。
既にカウンターの拭き掃除は終えている。
今日は王都商店街主催のサマーフェスティバル用の申請で、王都担当の建築係と土木係が忙しい。王妃様が来られるまでの時間は、その二つの部署のヘルプとして、マルコとレオナルドは後方3ラインに待機だ。
マルコは一緒に待機している先輩、レオナルドを見た。今日は顔色が悪い。きっとまた夢を見たのだろうとマルコは察した。二人はいつも一緒に昼食を食べるので、その時に聞いてみようとマルコは思った。
マルコは目を大扉に向ける。扉の上部はガラス張りなので、外が見えた。既に外には開門を待つ長蛇の列が見え…、いや、今日は見えなかった。どうやら先頭に立っている人物が飛びぬけて大男だったからだ。
「チコリ師匠だ!」
マルコはその頭部のシルエットから自分の師匠が並んでいるのが分かり、笑みがこぼれる。きっと商店街の人たちの書類をまとめて持ってきたんだろう。
ハーブの王様と言われるチコリ。
小さくて低カロリー。
そのチコリとは似ても似つかないのがチコリ師匠またの名をチコリ博士。400人の用心棒集団をまとめる頭目で、マルコの乳母兼用心棒兼家庭教師だ。
博士というのは、この世で知らないことはないのではという博識ぶりから母が命名。両親はチコリ博士と呼んでいる。
年齢不詳、国籍不詳、人間かどうかも不詳な身長2メートル50センチ超えの元戦士。この身長さえ、人間に見えるようさばを読み、本当は3メートル超えではないか、頑張れば空も飛べるはずだと、他の師匠たちはいう。
チコリ師匠が空を飛べるかどうかは不明だが、双子の兄たちとマルコは、チコリ師匠の腕の中で育った。そこで寝て起きて、食事をし、泣いて、おむつを替えてもらい、また寝ての繰り返し。もちろん夜は子供用ベッドで寝たものの、覚えているのはチコリ師匠の腕の中だった。
645
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる