王宮の書類作成補助係

春山ひろ

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29. 王妃様の夏の晩餐会予算申請と地雷を踏んだカスハラ子爵令嬢①

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 明後日、自分と同じ前世の記憶があるというオリン公爵家の料理人との面談が実現すると決まり、昼食後のレオナルドは別人のように生き返った。
 どのくらい久しぶりか分からないおにぎりと厚焼き玉子、それに唐揚げを食べたのも大きかった。

 ついでにレオンも生き返った!
 レオンの場合は、生まれてきて良かったレベルのはしゃぎようで、昼食後に戻った騎士団の詰め所(詰め所といっても1棟全て騎士団で使用している大きな建物)にスキップで入場という大技をきめ、団員たちの目を白黒させたほど。

 さて、補助係のフロアに戻ったレオナルドはフットワークも軽く、顔は生き生き。そんな先輩の様子にマルコも嬉しそうだ。

 午後1時の鐘がなり、フロアが再び人で溢れる。

 王族専用通路のドアが開いた。
 王妃のご入場である。
 王妃は常備している扇をこのフロアに持ち込んだことはない。扇は社交場では必須アイテムで、不快な時や顔を会わせたくない相手の場合などに自身を守る役割をしているのだが、補助係に来る時は不快な場面などあるわけないので持たずに来る。

「マルコ!」
 王妃は両手を広げてマルコに一直線。
「ゾーイ様、こんにちは!」
「こんにちは!」
 マルコとレオナルドは立ったまま一礼する。

「ふふふ、相変わらず、可愛らしいこと!」
 カウンター越しにマルコをぎゅっとして、右手でレオナルドの頭をくしゃ。久しぶりに会う愛息のよう。
 ちなみに全然久しぶりではなく、一昨日も王妃はやってきた、特に用もなく。

「今日のおやつは、王都で評判のクッキーよ!」
 王妃は後方を見やって、侍従三人がそれぞれ持つ大量のクッキーの箱をマルコの後ろに控えたダダン公爵に渡すよう指示。
「王妃様、いつもありがとうございます」
「休憩の時に召し上がれ」

 この二人は義理の叔母と甥の関係だ。
 ひとしきり挨拶を終えると、女官長と共にカウンターの前に王妃は座る。他の部署では依頼者は立ったまま書類を提出し、量が多い場合のみ後方の椅子で待つのだが、王族を立たせたままにすることはできないと、王族係のカウンター前だけ専用椅子が設置されている。

 王族係とはいえ、マルコ入職前までは王族本人が補助係に出向いて書類作成のアドバイスを受けるなどということは、歴史を紐解いても一度のなかった。

 マルコ入職後から、陛下以下、全ての王族が自ら補助係に出向くようになったのだ。そういう意味では、まさにマルコは歴史を転換させたといえよう。

 また、マルコ入職により変わったこととしては、王族が来所予定の日は専用扉から王族専用カウンターまでパーテーションが設置されるようになったことだ。他の来所者に気兼ねさせてしまうという事もあるが、何より警備のためだ。

「こちらが王妃様主催の夏の晩餐会の予算申請書類です」
 女官長が恭しく書類をマルコたちの前に出す。
「確認させていただきます」
 レオナルドが書類を受け取った。このときマルコは真剣な顔つきになる。その表情の変化を見るのも王妃の楽しみの一つ。王妃にとってはまさに至福の時。

 さあ、二人の仕事ぶりを楽しみましょうと、王妃が思ったその時…。

 不穏な大声がフロアに響いた。

「ちょっと!午前中にここで確認してもらった書類、ミスがあったじゃない!」

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