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36. マリ・オリン公爵の裏の顔と忍び集団?②
しおりを挟む王家の影が最も活躍したのは、「オリアナ中興の祖」と言われる五代目ライ王の時代だ。
ライ王の治世、今のモノハン地方はモーン国とノーン国、さらにハン国の三つに分かれ、小さいながらも三国同盟を結び、オリアナに対していた。というのも、この三国にまたがって豊富な鉄鉱山があり、それを資金にオリアナと対峙していたのだ。
そこでライ王は三国を取り込むべく、王家の影をフル動員して同盟破棄を画策し、それを成し遂げた。
当時の影の総責任者は、徳川家康に仕えた二代目服部半蔵のような活躍ぶり。
以来、オリアナ領となった三国は特区扱いで三国出身の領主を配しつつ、優先的にオリアナに鉄を供給し、オリアナは大国へとのし上がっていった。
翻り、今のドイ王の治世はというと、18年前に亡くなったマリは、実は王家の影の総責任者でもあった。
王家の影の総責任者には二通りある。表には一切出ずに影に徹するタイプと、表にも出つつ影でもあるというタイプだ。マリは後者だった。公爵当主として活躍しながら影の総責任者を務めていた。
だからドイ王は、タンザ国に対する和平使節団の責任者としてマリを送り出したのだ。タンザの裏まで知り尽くし、武術にも優れていたマリは適任者であった。
そのマリがむごい殺され方をしたということは、よほどのことがあったに違いない。
それはさておき、マリが亡くなった時、リンリンことリン・ダダンは11歳だった。マリに「私の後を継ぐのはそなただ」と言われ、敬愛する叔父上の期待に応えるべく、リンは頑張った。
だからこそマリの遺体を見たとき絶望した。この世の終わりだと思った。自分にもはや光など射さないだろうと。
その後、リンは王家の影史上最年少で総責任者に就いたものの、心はサハラ砂漠。砂で出来たデザートローズだけが増えていく。リンは表には出ずに影に徹するタイプの総責任者だったので、粛々と王家の要望に応えるだけの日々。
それが3年前。陛下に呼ばれた時から一転する。
陛下は言われた、「マリが生まれ変わった」と。
今でもリンは、その時のことを昨日のことのように覚えている。
砂漠化し、デザートローズしかなかったリンの中に「砂漠化対処条約」が制定され、緑化運動が始まった。
自分の中にこれほどの雨量があったとは。史上最大の降雨量だ。泣いて泣いて泣いた。
「マリ叔父上に、マリ叔父上に、また会える…のですね?」
やっとリンが絞り出すように言った時、陛下は玉座を降りてリンの元に走り寄り、「そうだ、リン!」と抱きしめてくれた。
それからリンは当時15歳だったマルコを見るべく、実家に侵入しようとしたものの、王家の影の力をもってしても強固に侵入を防ぐ400人の用心棒集団を前に断念。恐るべき師匠、王家の影さえ寄せ付けない完璧な防御。
しかし、それが逆にリンを納得させたのも事実。
「さすがは叔父上、鉄壁の防御だ」
落ち着こうか、リン閣下。守っているのは師匠たちであってマルコではない。しかし、リンにとっては同義だった。
じっと我慢して1年待ち、マルコの入社式?で叔父上マルコを初めて見たリンは、1日の最大降雨量を更新。砂漠は一瞬にして緑化した。
まるで夢のよう。
入社式?のあった日の深夜、急遽召集された王家の影の全メンバーは、総責任者リンより、前総責任者であったマリ閣下再誕を聞き、歓喜の嵐が吹き荒れた。
「なんということだ!これほどの喜びはございません!」
サファだ。
彼は遠い国ドボンから流れてきた難民だった。オリアナに着いた時、既に両親は亡くなり、天涯孤独。貧民院で光のない目をして膝を抱えていたサファに、視察に訪れたマリが声を掛けた。
「辛かったな」
そういってマリはサファを抱きしめた。人の温もりなどいつ以来だろう。とめどなく流れる涙を拭くこともできないサファに、マリは「私の元で働かないか」といった。それがどんな仕事なのかなど聞くまでもない。どんな事でもしようと、サファは誓った。
それからサファは影となるべく徹底的に教育され、「アシリ国独裁者暗殺事件」、「フォアグ国悪逆大臣暗殺事件」などで活躍し、元は難民の身ながらマリの後見を得て子爵位を賜った。
マリが殺された時、サファは別の任務で他国での諜報活動中だったが、任務放棄で懲戒を受けても構わないと覚悟して帰国、マリの遺体に縋って号泣。
それからサファの心中はゴビ砂漠。吹き荒れるのは黄砂のみ。新たに総責任者に就任したリンの元、淡々と任務を遂行し、気が付けば組織ナンバー2の地位へ。しかし心は殺伐としたまま。
そんな日常がマルコの入社式以降、一変。サファの目の前に広がるのは目に鮮やかな新緑に様変わり。
マリから「サファの変装技術は天下一だな」とお墨付きを得たほど、サファはあらゆる職業人に変装できた。ある時は薬草売り、またある時は手品師や農民、さらに役者まで。実年齢は36歳で、今はマルコの住む宿舎の料理人という体で、常にマルコを守っている。
伊賀忍者には服部半蔵を含む三人の上忍がいたという。
リンが服部半蔵なら、サファは百地丹波。
三人目の上忍・藤林長門守は誰か。
それはエメだ。
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