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35. マリ・オリン公爵の裏の顔と忍び集団?①
しおりを挟むマルコとレオナルドがオリン公爵邸に訪問する日の朝。
マルコは宿舎に併設する食堂で朝食を摂っていた。
平日より少しゆっくりした時間。
焼きたてのパンとポタージュスープ、新鮮な野菜たっぷりのサラダにデザート。
美味しい食事を堪能していたマルコだが、はっとした様子で急いで水を飲み、テーブルを立ってトレーを返却口に戻した。
「サファさん、エメさん、今日も美味しかったです。ごちそうさまでした」
マルコは厨房で働く二人の料理人に声を掛けた。
「おー、マルコぼん!しっかり食べたかい?」
皿を洗いながら返事したのがサファ。筋肉隆々で料理人というより兵士といった方が似合う男だ。
「今日は公爵様のおうちに行くんでしょ?」
そう声を掛けたのはエメ。サファの奥さんだ。この二人で厨房を切り盛りしている。エメは黒髪でブルーの瞳の美しい女性だ。年齢は30代後半くらいかなと、マルコは思っている。
マルコは宿舎に入った日からサファとエメに可愛がってもらっている。
「そうなんです!とっても楽しみ。でも手土産を用意してなかったから、マーケットで買ってきますね!」
「うん、そうかい?でもさ、あれ、見て」
エメが食堂の入り口を指した。マルコは釣られて振り返ると、そこに宿舎の責任者、寮監長が立っていた。
「あ、リンリンさん!」
リンリンは白い髭で毛髪も真っ白、やや曲がった腰に杖を持った威厳のある老人だ。マルコが急いでリンリンの元にいこうとすると、「走らんでいいぞ」と、リンリンが優しく声をかけた。
リンリンの後方には王妃とマジョリカ妃殿下付きの侍女二人が控えていた。彼女らは手に持っていた箱を近くのテーブルに置くと、「では失礼いたします」と、リンリンに恭しく礼を取っていなくなった。
「リンリンさん、これなんですか?」
マルコはテーブルに置かれた大きな二つの箱を見る。
「レオン閣下への手土産じゃと」
「え?」
「王妃様と妃殿下が用意して下さったようだ」
「…先輩と僕が用意しなきゃいけないのに」
マルコは申し訳なさそうに呟く。
「あのな、マルぼん!王妃様と妃殿下は、用意したかったんじゃて」
マルぼんとは、マルコぼん(マルコぼっちゃん)の略称で、こういうにふうに呼ぶのはリンリンだけだ。
マルコ、マルコぼん、マルぼん、叔父上…。マルコの愛称はどんどん増えていた。
「今度お会いした時に、お礼をいいます!」
リンリンはマルコの頭をくしゃっとしながら、「遠慮なく持っていけばいい。さて、手土産はあるから、マーケットに行かんでいいじゃろ」
「はい!」
「公爵家の馬車が来るまで、まだ時間がある。ゆっくり紅茶を飲もうか、マルぼん。そのうちレオナルドが起きてくるだろ」
肝心のレオナルドはまだ夢の中。昨夜、興奮して眠れなかったのだ。
気が付けば、エメが二人分の紅茶を用意してくれていた。
テーブルを挟んで座るリンリンとマルコ。その様はどうみても祖父と孫。
マルコはそっとリンリンの袖口を見る。今日は見えないが、実はリンリンには左手の手首の少し上に入れ墨があるのをマルコは知っていた。
日差しの強い日、何気なくリンリンが袖をたくし上げた時に、たまたま見たのだ。
それ以来、マルコはリンリンのことがもっと好きになった。
マルコ、入れ墨の呪い?は継続中。
マルコの師匠たちの入れ墨は、古代語か魔法円の写しのごとく、よく言えば曲線、正直にいえばミミズののたくった文字の連続技だ。
しかし、リンリンの入れ墨はちょっと違った。
マルコは「昆虫のように見えたんだよな」と思っている。
寮監長という役職には不釣り合いなほどの威厳、腰は曲がっているけど、意外と歩くのは早かったり。ほんとにリンリンさんは不思議、母方の祖父(70代)と同じくらいの年かなと、マルコは思っている。
実はとんでもなかった!
リンリンこと、リン・ダダン。なんと書類作成補助係の最高責任者、ダダン公爵の弟で公爵令息、陛下の甥で、レオン閣下の従兄弟。齢29。バリバリの現役。
王家の影の総責任者である。
王家の影とは、王家の暗部を担っている戦闘能力に優れた忍び?の集団だ。
徳川幕府に仕えた伊賀忍者のようと言えば分かるだろう。
変装して敵地に乗り込み情報収集、時には破壊工作や暗殺も是とする。主な活動地域は多岐に渡り、王家の命を受けたら国外でも活動した。
代々王家の影の総責任者は王族か公爵家から出す決まりだ。
責任者以外は、貴族の三男四男か、リサーチして能力ありと認められた平民が選ばれた。
幼少時より英才教育を受け、数か国語を話し、毒や火薬、剣に加えて飛び道具(短刀、手裏剣)、角手や手甲鉤、鉄拳、猫手、仕込み扇などの攻撃道具の習得、さらに変装技術、体術等を徹底的に教育された。「〇〇伯爵家の三男は、ほとんど社交の場に出ない」と言われる場合、たいていは王家の影だったりする。
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