9 / 12
9.ガーデンパーティー 阿鼻叫喚の闘い(一方的)編
しおりを挟む無事に王族方との面談が終わって、正直、俺はぐったりしてしまった。
王様は優しかった。「よく来た」といってくれ、俺の髪を優しくすいてくれた。
一方の王妃様。こちらはジョシュア様の兄上だ。お顔はジョシュア様と似ておられるけど、雰囲気が違う。ジョシュア様が「王妃様、よくいらっしゃってくださいました」と言ったら、ちょっと顔が引きつっていたような。もしかしてジョシュア様が苦手なのかなと思った。
隣の天使が「王妃様は母上に任せておけば大丈夫でしゅ」と耳打ちしてくれたので、ほっ。
王太子のユーリオ殿下は、とても人懐っこくて「マヌーシュはほっとする感じでいいね」と、よく分からない褒め方をされた。すかさず「ユーリオ殿下はガヴィ兄上に任せておけば大丈夫でしゅ」と、これまた天使が耳打ち。ガブリエル様とユーリオ殿下はとても仲の良い雰囲気だったから、俺はそっと傍を離れられた。
そんなこんなで気を張り続けた俺は、本日のメインイベント、天使目当ての150人の子供たちと会うべく、大ホールの大扉の前にいる。
横には天使。後ろには心強い味方のゲオルグさんだ。16歳で伯爵家の次男。一重の切れ長の目はするどくて怖そうなんだけど、笑うとその目が一本線になる。その落差がいい。
「小賢しいお子ちゃまモンスター全員の頭脳を合わせても、ゲオルグの足元にも及びましぇん」
「身に余るお言葉。必ずやリチャード様の御期待に添えるように致します」
「ん、期待している」
「さあ、ご入場でございます」
レイモンドさんから声がかかった。
4歳以下の子供たちの目当ては天使一択。であるならば、最初から子供たちを集めて、面談(訳:振るい落とし)をして、気持ちよくお帰りいただきましょう(訳:現実を突きつけ二度と顔を出すな)という天使の考案で、子供たちだけ大ホールに集めたわけだ。中には1歳児もいるから、乳母も含まれるものの、3歳以上の子は侍従侍女を伴わず、このホールに集められた。
ホールの大扉が開く。
天使は俺の手を取って、右手をあげて入場。どんな大物だよ!
「みなさん、ようこそ。リチャードでしゅ」
どよめきと歓声に、単なるぐずる声や泣き声まで混じって場内は騒然。しかしそんな雰囲気はものともせず、天使は堂々としたもの。
子供たちに椅子は用意していないので、全員が起立したままだ。定例会議で「椅子を用意しなくて大丈夫でしょうか?」という意見が出たが、天使は「どうせすぐに退出してもらうのだから、無駄は省きましゅ!」と一刀両断。「すぐ退出させるんだ~」と、その会議に出席していた全員が思ったものだ。
天使が少し高い演台に登る。俺は手を放そうとしたけど放してくれないので、俺も登った。
そこから見る景色は、はっきりいって怖かった。1歳児もいるため、ちらほら大人が混じるものの、それ以外は全部子供!どこを見ても子供!しかも全員が興奮していた。思わず遠くを見る俺。いかん、現実から逃げてる場合じゃない。
最前列には高位貴族の子息が並び、後ろにいくほど爵位が下がる。一番最前列に陣取るのはモンゴメリー侯爵家の次男と、テスターニャ侯爵家の次男だ。
モンゴメリー侯爵の次男・アイダ様は4歳、テスターニャ侯爵の次男・ガリオン様は2歳で、二人ともオメガだ。アイダ様は薄い銀髪の可愛らしい容姿で、自分が可愛いということをよく知っているという顔をしていた。つまり自信満々な顔だ。このアイダ様が「自分こそリチャード様の婚約者に相応しい」と言っているらしい。
でもね、うちは美形が揃っているから、俺的には「ふーん」という感じで特に驚きはない。
対してガリオン様は2歳なのに侍従もつけずに立っておられた。顔立ちはおとなしそう。父である侯爵が、うちと縁を結ぶために愛人に産ませた子。実の親から「ハニートラップ要員」などと呼ばれる子。なんて可哀そう。こんな場所で、こんな出会いじゃなかったら、仲良くできたかもしれない。
「まず改めて、ようこそグランフォルド家へ。僕はリチャード、3歳でしゅ。ここに集まったのは我が国を支える貴族家の子息令嬢でしゅ。国のため、家のために我が身を捧げる覚悟をもった子息令嬢でしゅ。であるならば僕も同じ覚悟で臨みましゅ。
はっきりいいましゅ!僕との婚約を望むのであれば、僕にだって希望はある!
まず、これ!」
いきなり天使はジャケットをあげ、お尻をプリっ!場内に悲鳴が!
なんで?だたの可愛いお尻じゃない!
「僕はオムツをしてましぇん!オムツは大大大きっらいーーーー!」
泣き声さえ静まった。恐るべし天使の雄叫び。
「よって、オムツしてる子は、婚約者など言語道断!問答無用!論外中の論外!今すぐ退出すべし!」
凄まじい悲鳴が上がるも、それ以上に「大公爵家御令息、リチャード様の御前である!これ以上、騒ぐのは不敬とみなす!」というゲオルグさんの一喝に、今度は水を打ったかのような静寂、そして絶望。そんな彼らを粛々と誘導するうちの優秀な侍従侍女たち。その顔に同情はない。
場内に残ったのは三十人ほど。テスターニャ侯爵の次男ガリオン様は2歳だが、残っていた。2歳なのにオムツしてないんだ、すごいな。4歳のアイダ様は当然、残っている。4歳だもんな。
「よろちい!やっと会話ができるメンバーになったということでしゅ。次に、我々貴族が当然、ちっているべきこととちて、我が国全ての貴族家の名前と爵位!これを覚えていないものは、この場を去るべし!」
そして天使はスラスラと王家から男爵家までを暗唱した。これを聞いて真っ青な顔の二十人が退出。残った十人には実際に暗唱してもらうという念の入れよう。十人のうち三人は子爵男爵のところでしどろもどろになって退場。結局、残ったのは七人だ。
2歳のガリオン様がなんと暗記しておられた!すごい!アイダ様は余裕の表情。
「七人でしゅか。思ったより多いでしゅ。優秀でしゅね」
天使がにっこり。七人は真っ赤になった。
「まあ、でもこんなの当然でしゅけどね!ここからが本番でしゅ!我が国の主要産業である農業!我が国は農産物輸出額で世界一!これを維持するため、一昨年、施行した干ばつ対策の法令の問題点を述べよ!」
「はい!」
手を上げたのはブラウンの髪の美少年だ。
「干ばつ法、第1条。干ばつが発生した領地に対しては王家として24時間以内に緊急対策室を設け、72時間以内に緊急対策チームを派遣するです!」
自信満々に応えた少年に対して、「ブー!法令はちってまちゅ!僕は問題点について述べよと言ったんでしゅ!はい、退場!」と、そっけなく対応して一人脱落。これで六人。
「はい!」
アイダ様が手をあげた。
「問題点は、干ばつの基準です。これまで干ばつは『長期間にわたって降雨のないこと』と定義づけられ、長期間という曖昧な定義を用いていました。今回の法令改正で、これを『1年』としたのですが、1年はあまりにも長い。1年も雨が降らないのに放置していたら、領民は生きていけません」
「あったり!でも、他にもあるでしゅよ。誰か応えられるちと!」
「はい!」
今度は金髪の美少年が手をあげた。
「もう一つの問題点は、緊急対策チームの構成メンバーです。その中に国土維持大臣が入っていません。干ばつの場合、起きた地域に水路を引き、水を引き込む方法を取るのですが、そのために工事を施工するとなると、真っ先に国土維持大臣の認可が必要です。しかし緊急対策チームのメンバーに大臣が含まれていないので、情報共有ができず、結果、緊急対策とは名ばかりになっております」
「あったり!はい、答えられなかった人は退出!」
俺はガリオン様を見ていた。彼は俯きながら退出。表情は分からない。2歳にはあまりにもハードルが高かった!
天使が俺の手を握る。その手は「同情は禁物!」と言っているようだ。
「残ったのはお二人でしゅか。モンゴメリー侯爵家の御令息アイダ様4歳と、バーデット伯爵家の御令息ミッチェル様4歳でしゅね。お二人とも優秀でしゅね」
「いや、とんでもございません」
「まだまだでございます」
「うん、そうだね」
謙遜した二人の言葉をあっさり切り捨てた天使。二人は目を見開いて天使を見た。
「ゲオルグ」
「はっ!」
ここで天使がゲオルグさんを呼ぶ。俺はなんとなく唾を飲み込んだ。
「古の哲学者ソクラ―はなんといっちゃ?」
「『我らは無知の知、無知ゆえに知を求め、知を求め続けねば人でなし』」
「それに対して弟子のプラーは?」
「『知を求め人となるも、無知を知るべき手段なし。我が師ソクラ―は神に対して人は無知とす。しかし師ソクラ―は神との対話なし。なにゆえ師は神を基準すべきや。無知とすべき基準なき無知など横柄な人間の乱暴な理論である』」
「ありがちょ。ここで問題。プラーの理論の欠点を述べよ!しゅごい簡単でしゅよ」
俺は何を言ってるのか、さっぱり分からなかった。それは俺だけなかったようで、アイダ様、そしてミッチェル様も同じらしい。二人とも顔色が悪い。
長い沈黙。その後でまずアイダ様が口を開いた。
「も、申し訳ありません。学んでいるはずではありますが、答えられません」
次に項垂れたミッチェル様。
「わ、私も同じです。学んでおりますが、答えられません」
「ふーん。じゃマヌは?」
俺?なぜに俺?
「き、聞いたこともないから分かりません」
天使はにっこり笑う。満面の笑顔だ。
「さっすがマヌ!ね、ゲオルグ!」
「はい!さすがマヌーシュ様です!」
はい?
「古の哲学者ソクラ―なんて、いねーよ」
「はい、おりません」
はぁ??
「今、即興で私めが思いつくまま申し上げた理論でございます」
「つ・ま・り、マヌの答えが正解!『聞いたこともない』。これは知ったかぶりをあぶりだすテストでしゅ!知らにゃいものは知らにゃい、聞いたことにゃいものは聞いたこがにゃといって、正直に答えるのが正しいでしゅ。婚約っていうのは、結婚しゅるっていうことでしゅよ。知ったかぶるような不正直なちととは、一緒にいられにゃいもんね、ねー、マヌ!」
「リチャード様のおっしゃる通りでございます」
ものすごく機嫌の良さげなレイモンドさんが、「さ、お二人とも出口はあちらでございます」と、さっさとアイダ様とミッチェル様に退場を促した。
項垂れて出て行った二人を見送った後、大ホールから子供たちが消えて、天使と俺だけが残った。いつの間にかゲオルグさんも消えていた。
「こ・れ・で、マヌが僕の婚約者でしゅ!」
えーーー???
どこからともなく表れたレイモンドさんが大きな薔薇の花束を持ってきて、天使に渡す。
それを恭しく受け取った天使は、なんと膝をつき「マヌ、マヌーシュ。どうか、僕と結婚しち、あ、結婚しちぇ、くっそ、結婚しちぇ、うーん、結婚しちぇ、もう!結婚しちぇくだしゃーい」と、すっごい噛みながらいった。
「僕は永遠に終わらない手紙をマヌに書き続けたいでしゅ!」
返事しなきゃ。でもどうして、俺…。
「『俺なんか』は、これから禁句でしゅ。僕はマヌがいいでしゅ。僕は将来、クレイトン公爵になるでしゅ。未来のクレイトン公爵夫人はマヌしかいないでしゅ!マヌじゃなきゃ、いやでしゅ!」
天使の目が真っ赤だ。こんなのだめだ。だって俺は、俺は何も持ってないし、そのうえ俺は…。
それなのに俺はこういったんだ。
「…はい!」
その瞬間、「よっしゃー」という大歓声が広間の大扉の外で沸き上がった!
うっそー!!みんな扉の外で聞いてたの???
53
あなたにおすすめの小説
不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)
婚約破棄を傍観していた令息は、部外者なのにキーパーソンでした
Cleyera
BL
貴族学院の交流の場である大広間で、一人の女子生徒を囲む四人の男子生徒たち
その中に第一王子が含まれていることが周囲を不安にさせ、王子の婚約者である令嬢は「その娼婦を側に置くことをおやめ下さい!」と訴える……ところを見ていた傍観者の話
:注意:
作者は素人です
傍観者視点の話
人(?)×人
安心安全の全年齢!だよ(´∀`*)
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
30歳まで独身だったので男と結婚することになった
あかべこ
BL
※未完
4年前、酒の席で学生時代からの友人のオリヴァーと「30歳まで独身だったら結婚するか?」と持ちかけた冒険者のエドウィン。そして4年後のオリヴァーの誕生日、エドウィンはその約束の履行を求められてしまう。
キラキラしくて頭いいイケメン貴族×ちょっと薄暗い過去持ち平凡冒険者
悪役令嬢と呼ばれた侯爵家三男は、隣国皇子に愛される
木月月
BL
貴族学園に通う主人公、シリル。ある日、ローズピンクな髪が特徴的な令嬢にいきなりぶつかられ「悪役令嬢」と指を指されたが、シリルはれっきとした男。令嬢ではないため無視していたら、学園のエントランスの踊り場の階段から突き落とされる。骨折や打撲を覚悟してたシリルを抱き抱え助けたのは、隣国からの留学生で同じクラスに居る第2皇子殿下、ルシアン。シリルの家の侯爵家にホームステイしている友人でもある。シリルを突き落とした令嬢は「その人、悪役令嬢です!離れて殿下!」と叫び、ルシアンはシリルを「護るべきものだから、守った」といい始めーー
※この話は小説家になろうにも掲載しています。
神子は二度、姿を現す
江多之折(エタノール)
BL
1/7外伝含め完結
ファンタジー世界で成人し、就職しに王城を訪れたところ異世界に転移した少年が転移先の世界で神子となり、壮絶な日々の末、自ら命を絶った前世を思い出した主人公。
死んでも戻りたかった元の世界には戻ることなく異世界で生まれ変わっていた事に絶望したが
神子が亡くなった後に取り残された王子の苦しみを知り、向き合う事を決めた。
戻れなかった事を恨み、死んだことを後悔し、傷付いた王子を助けたいと願う少年の葛藤。
王子様×元神子が転生した侍従の過去の苦しみに向き合い、悩みながら乗り越えるための物語。
※小説家になろうに掲載していた作品を改修して投稿しています。
描写はキスまでの全年齢BL
贖罪公爵長男とのんきな俺
侑希
BL
異世界転生したら子爵家に生まれたけれど自分以外一家全滅という惨事に見舞われたレオン。
貴族生活に恐れ慄いたレオンは自分を死んだことにして平民のリオとして生きることにした。
一方公爵家の長男であるフレドリックは当時流行っていた児童小説の影響で、公爵家に身を寄せていたレオンにひどい言葉をぶつけてしまう。その後すぐにレオンが死んだと知らされたフレドリックは、以降十年、ひたすらそのことを悔いて生活していた。
そして十年後、二人はフレドリックとリオとして再会することになる。
・フレドリック視点は重め、レオン及びリオ視点は軽め
・異世界転生がちょいちょい発生する世界。色々な世界の色々な時代からの転生者の影響で文明が若干ちぐはぐ。
・世界観ふんわり 細かいことは気にしないで読んでください。
・CP固定・ご都合主義・ハピエン
・他サイト掲載予定あり
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
※第33話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる