異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

文字の大きさ
126 / 1,121

命の価値 6

しおりを挟む
「でだ。もう一つ、大問題が発生している様に、俺には思えるんだがな」

 俺の血流が正常に働き出してから、ギルにはもう一度細かく状況を報告した。
 話を聞き終えたギルが、そう言って腕を組み、溜息。

「ハイン、大丈夫か」
「……やばい」
「だよな」

 あの状態のハインを工事の現場にやると人が死にかねない気がしている。
 だからルカたちに工事の全部を任せているのだ。
 今あいつは、俺の襲われた現場を探索しているはずだ。
 足掛かりは見つからなかった。そう、結論は一度出ているのだが、諦めていない。必ず見つけ出し、必ず始末する。その気迫のみで探し続けている。
 それはもう、鬼気迫る様子……を、通り越して、鬼と化している。

「昨日は一睡もしていない……俺に護衛で張り付いてたから」
「うん、まあ、サヤが俺に言ってくるってことは、そうだわな」

 頭を掻きつつ、それも心配だったから慌てて来たんだとギルは言う。
 つい世話を焼いてしまう性分のギルは、結局いつも俺たちの尻拭いに奔走する羽目になるのだ。

「店の方はワドとルーシーがしばらく預かると言ってくれたんでな、問題が起きない限り、俺も暫くここに居る。
 後はマルが早く目星をつけてくれるのを願うしかないな……。じゃないと、手当たり次第斬って回りかねん……」
「一応マルも釘を刺していってくれたんだけどな……。
 人足たちとは別件の可能性が高いって。
 俺もそれは疑っていない。俺たちがあんな辺鄙な場所に行ったのはたまたまだったし、思いつきの行動だったから、誰も知らなかった。……襲撃は、本当に、奇跡的なくらいの偶然なんだと思うよ……」

 本当に、奇跡的な偶然だ。
 あの場所に行こうと思えたのは、はじめてだったのだから。

「お前、なんでのこのこ、あんな村の外れに行ったんだ?」
「うん……決意を固める為……かな。皆に、話す前に……自分の目で見ておこうと思ったんだ」

 俺がそう言うと、ギルが固まった。
 何を話す……なのかは、言わずもがなだな。

「あの場所だから、特にだったと思う……どうあってもサヤを犠牲にしたくなかった……。
 だからそのことしか考えられなくて……自分のことが、全く視野に入らなかった。ごめん……」
「……特別な場所だったのか」
「そうだね。はじめて行ったけど……」
「………………何があった場所か、聞いてもいいのか」
「いいよ。俺を守ってくれた人の……最後の場所」

 そう言うと、ギルが歯を食いしばって、何かを堪えたのが分かった。

「……全部片付いたら、俺も連れて行け。その人に、礼を言わなきゃなんないから」

 そう言って、もう一度頭をぐしゃりとかき回す。
 もういない人なのに、礼を言いに行くと言ってくれるギルに、胸が熱くなる。

「サヤとハインが戻ったら……話すよ。
 なんか無関係じゃなくなってしまった感じがするし……」
「無理しなくて良いんだぞ?」
「ああ、無理だったら止める。けどまぁ……今かなって気がしてる」

 なんだか不思議なくらいに、落ち着いているから、大丈夫だと思う。
 状況はこれ以上ないくらいゴタゴタとしているけれど、未だ嘗てないほどに、俺の気持ちは凪いでいた。一瞬前の混乱すら嘘みたいに。
 なんだろうな、これは……。どう表現したら良いものか……?
 深く突き刺さっていた棘が、引き抜かれた後のような?   枯れていた荒野に、雨が降った後のような?   うーん……うまく表現できない。ただ、澄んだ気持ちでいられてる感じなのだ。

 冷静になれたから、今の状況についてもじっくり考えることができる。
 誰かが俺を始末したいと思っている。
 それは多分、あの氾濫対策絡みなのだ。
 ここ最近の、目につく大きな変化は、あれしかない。
 しかし、工事の妨害ではなく、俺の存在を処理したい。……となると、工事は切っ掛けで、俺を始末しなければ終わらない何かがあるということだ。
 なら、やはり異母様や兄上ではないな……。
 あのお二人なら、俺の周りを標的にする。
 工事のこともまだ知られていないはずだし、動機は皆無だ。
 館の使用人達は、今までと違う何かが行われていることは知っているだろうが、知らせを出した形跡は無い。俺たちに、下手に関わることはしない、避けるのが無難な行動だろう。
 では。
 工事について知っていて、動くことを厭わない者がいるとすれば、やはりメバックとなる。
 すると当然、大店会議と、その周辺の諸々が目について、結局エゴンに行き着く。
 だがエゴンなら……マルがもう結論を出しているだろう。

「けど……その周辺だと思ったから、ウーヴェも視野に入れた……?」
「ん?   ウーヴェがどうしたって?」
「んー……。兇手の雇われ先がね。
 マルが、どの辺りに見当をつけてるんだろうかって、ちょっと考えてて……」

 錯綜している……エゴンからの指示と、そうでない雰囲気の指示が、入り乱れている……。マルはそう表現していた。そして、エゴンが黒幕ではない……はじめはエゴンだったのか?   とも、言っていた。

「昨日、襲われる前に、マルと、人足達の中に虫が二匹居るって話をしてたんだ。で、ウーヴェは黒幕とは違うぞって話をしたところだったんだけど……。
 けど、やはりどう考えても、エゴンの周辺に目が行くんだよな……。
 ウーヴェではない。別の誰か、エゴンの周りにそんな人物いたかな……?    それとも、俺たちの勘違いで、やっぱりエゴンが中心なのか?    俺を疎ましく思ってそうな人物…」
「まあ、あからさまに一番損を被ってて、お前への敵意も隠してねぇしな、あのおっさん」

 ギルがそう言って胡座をかく。
 そうだよな。俺が大店会議を開くことにして、損を被ったのはエゴンと、同じ蜜を吸ってた役人くらいで、だけどそこはすぐに目につくから……。

 ……役人の先って、ことは?

 何か閃いたような気がした。
 が、馬の嘶きと、ドタドタとした音、ばん!   と、扉を開閉する音等が聞こえたと思った矢先「レイ様どこだー!」と、ルカの大声が耳に届き、俺の思考は中断された。
 相変わらず訪いを問う音はしないなと感心しながらも、立ち上がる。

「待てって、サヤに護衛頼まれてんだから、勝手に一人で行くな」

 ギルに止められて、連れ立って廊下に向かった。
 階下から、バタバタと走り回る音がしているが、ルカの姿は視認できない。俺は、階下に向かって声を張り上げた。

「ルカ!   二階だ。どうしたんだ?」

 ガタン!   と、大きな音がした。
 そして慌てたようにバタバタした足音が戻ってくる。

「レイ様ヤバいんだ来てくれ!   サヤ坊があんた呼べって、ハインの兄ちゃんがウーヴェ殺しちまう‼︎」

 ‼︎⁉︎    一体何がどうなってる⁉︎

 なんでウーヴェがセイバーンに居るのかとか、疑問は多々あったが、とりあえず階段を駆け下りる!

「場所は⁉︎」
「橋のたもとだ!」

 俺の横をギルが先に走り抜けた。
 外に飛び出したと思ったら「馬で行くぞ!」と、声だけが飛んで来た。

「ルカ、後で来い。先に行ってる!」

 外に出ると、ギルが乗ってきた馬に跨って、待っていた。

「後ろ乗るぞ」

 そう断ってから、空けてくれていた鐙を借りて飛び上がる。後ろに跨りギルに捕まると、即座に走り出した。
 大の大人が二人だから、思い切り駆けるのは無理だが、それでも自分で走るよりはよっぽど早い。

「兇手が出なきゃいいけどな……いい的だぞ」
「無いさ。そこまでの手練れじゃない。弓の腕が良かったのは一人だけだったしな」

 それに、一度失敗しているのだから、次があるなら相当慎重に動くだろう。
 もう幸運には縋らないんじゃないかな。そう思っている。

 村の中を突っ切って橋まで来ると、対岸に人だかりがあるのが見えた。あそこだ。
何故かシンと静まり返った人垣。その内側から、獣の唸り声が聞こえていた。
しおりを挟む
感想 192

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...