異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

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信頼 6

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「……つまり、獣人の絡むことなんだな。
 彼らをどうしたいんだ」
「簡単な話です。彼らを人だと証明したい。我々が皆、人と獣人の混血であることを、世間に認めさせたいんですよ」

 さらりと告げられたことに、ああ、やはりか。と、思うと同時に、重くのしかかる重圧を感じた。
 白化の病を知った時、俺の中でもその結論は、出ていた。
 そしてなんとなく、マルが何を成そうとしているのかも、漠然と感じていた。

 サヤを純血と表現したり、遺伝という、人の設計図の話に食いついていたり、王家の系譜を見据えていたのも、何かしら意味がある行動なのだろうと思っていた。
 彼が、我を忘れるくらい一生懸命になる時は、いつも、彼らが絡んでいた。
 だから……言われたことに対しては、別段反対も何もない。
 むしろ俺だって、それには賛成だった。
 ハインも、ガウリィも、胡桃さんも人なのだと証明したい。幸せを諦めたり、死にたくなるほど自分を否定したりしてほしくない。幸せになってほしい……。だが……、それを証明するとなると、大きな問題に直面する。

「つまり……神殿を敵に、回すのか」
「そうなります。
 民心を得るためには、敵を作ることが一番手っ取り早いんです。獣人は、そのための贄にされているんですよ。
 悪魔だの、大災厄だの、全部とは言いませんが、結構な部分がでっち上げです。
 まあ、人と獣人が争った結果滅びかけたっていうのは事実で、お互い、もう二進も三進もいかなくなって、種を越えてまぐわうことで生き残ったのが、我々だってだけの話でね」

 さらりと軽く告げられる内容が、身に染み込む度に重くなる。
 神殿を敵に回すということは、一歩間違えば異端とみなされ、排除されるということだった。
 この世界では、無神の民は忌避される存在だ。
 世の中の大半は、神に縋って生きている……。

「サヤくんの話を聞いてね、色々合点がいったんですよ。
 たぶん、獣人の遺伝子は、劣性遺伝子だったんでしょう。まぐわった結果、一旦血に隠れてしまった。
 あの話で色々と疑問や問題が解決しました。
 大抵のことに理由が付きましたよ。
 だから確信を持って言い切ります。我々は、人と獣人の混血種ですよ。全員がね。
 純血の人、純血の獣人は、きっともう、存在しない。
 それこそ、サヤくんの設定よろしく、島に隔離されて世界と隔絶でもしてない限り、ね」
「……それを証明しようと思う、理由を、教えてもらえるか」

 マルは、今までずっと、一人でそれに、挑んできたのか……。
 奇人だ、変人だと言われながら、食べることも邪魔に思えるほどに没頭して、彼が全身全霊をかけているものが何なのか、知りたかった。
 そう思ったから、単刀直入に聞いてみたのだけれど、マルはガリガリに痩せ細った腕に視線を落とし、まるで懺悔するかのように、言葉を口にした。

「…………僕ね、人を一人、殺したんですよ。世間的に。
 暗黙の了解だったんです。だから知ってました。彼らが獣人であることは。
 なのにね……その特徴を、僕を救うために、晒しちゃった人が、吊るし上げられて、追われたんです。
 耳や尻尾が付いてたのは、初めから分かっていたのに、知らなかったことにして、石を投げて追いやったんですよ。
 その所業を受け入れて、その人一人を獣にして、難を逃れたその一族全体にも腹が立ちましたけどね、その一族がいなけりゃ、冬も越せない自分たちを分かってて、そんな中にいて、何の役にも立たない穀潰しを助けたせいで、その人が、人をやめなきゃいけなかったことが、僕は許せなかったんです。
 それを招いた役立たずの自分が、最悪でした」

 ……………………胡桃さんだ。

 それはもう直ぐに分かった。
 そんな風に特徴が露わな人は、そうそういない。
 マルは……胡桃さんの名誉を守るために、彼女を救い上げるために、ずっと戦っているんだ……。
 それこそ、世界を敵に回して……。 

「レイ様と同学年になるまで学舎に残ったのも、計算尽くですよ。貴方と僕に、縁を繋ぐためでした。
 貴方は人が良いし、勝算は高いと思ってましたよ。案の定でした。
 貴方が、僕が生きて、知ってきた中では、一番僕の目的に近かったんです。
 ハインを獣人だって、知りもしないで、接していた。感情の暴走をものともしないで、手放さない。
 びっくりするくらい上手く、彼を手懐けた。
 この子供はなんなんだろうってはじめ感心したんです。
 そうしたら、関わりたくないと思っていた、ジェスルの魔女に縛られていた子供でしょう?
 笑っちゃいますよね……一番近づきたくない場所に、求めるものがあったんですよ。
 そしたらどうです、その子供……男爵家の、妾腹の、嫡子でもないその子供が、王家にまで繋がってるんですよ?意味不明でしたよ」

 全部、偶然の産物なんですよねぇ……。それがまた、運命的でねぇ……。
 そう言ったマルが、どこか疲れた視線を俺に寄越す。

「あなたと縁を繋げていれば、王家との縁も繋がる。だから僕は、ここにいました。
 貴方をずっと、利用してたんです。
 貴方が姫様と結ばれてくれたら、それが一番手っ取り早いと思ってました。
 貴方はハインを手放さない。なら、彼の存在が王家との関わりでどう扱われるか……。そこから突破口が見えるのじゃないかって……。
 だけど……この時にはもう、貴方は僕が思い描いていた以上に、獣人を受け入れてしまっていて、一か八かの賭けに消費するのでは、もったいないって思えてしまったんです。
 だけど正直、落胆もしてました。また路が、遠退いた気がして……。
 なのに貴方、今度は、兇手の彼らを村に大量導入するなんて言い出すし……ほんと正気を疑いましたよ。
 僕の予想や推測なんてものともしないで、その上を行くんです。
 その予測できない行動ってつまるところ、サヤくんのせいなんですよねぇ。
 彼女が絡むと、僕の想定していないことが、起こる。彼女の知識が、行動が、貴方を左右する。
 もう、僕が裏で画策するのが、最善じゃないんだ。
 だからね……貴方の利益になりますよ、僕。身を粉にして働くって、約束します。
 その代わり、僕の役に立ってくれませんか。
 僕、貴方のためにとっておきの情報を用意したんです。それを……」
「そんなものは要らない」

 マルは、簡単に俺を意のままにできる手段を持っている。
 それはサヤだ。
 彼女の秘密を盾にされたなら、俺は従わざるを得なかった。
 彼はそれを分かっていたろうし、できたはずだ。なのにしなかった。
 そうして、命がけの情報を掴む方を、選んだのだ。
 なら、その行動だけで充分……。そう思った。

「交渉とか必要ないって、さっきも言った。
 マルが彼らを大切に思うのと同じくらい、俺だってハインが大切だよ。
 なら、それで理由は充分じゃないか。
 だいたい、今からやることだって何も変わらない。ただ意味が一つ加わるだけの話だろ。
 何の問題も無い」

 そう伝えると、何故か困ったように眉を下げる。
 長いこと一人で戦って、疲れてしまっているであろう彼が、死ななくて良かったと、本当に心からそう思った。

「マルは今まで通りで良い。俺は、それで充分満たされてる。
 それよりもな、今はまだ、焦るな。
 ただ事実を突きつけたって、世間は絶対にそれを認めはしないって、分かってるだろう?
 二千年もかけて、獣人は獣だという作られた常識が、世界に根を張っているんだ。
 それを覆すのは、簡単な話じゃない。時間が必要なんだよ。
 だから、まず礎を作ろう。彼らがただ人である証拠を、蓄える。
 俺がしようとしていたのはそれだ。
 獣人である彼ら自身すら、自分たちを獣だって思い込んでる。そこを覆さなきゃ、始まらない」

 彼ら自身が、歯車に組み込まれ、動いている。そう信じ込まされ、その役割をこなしている。ここを覆さなきゃ、何を言ったって、きっと駄目なんだ。

「できるんですかね、それ……」

 か細い声で、マルが問う。
 こんな風に、本心を赤裸々に晒すマルは、初めてだった。
 ただ不安で、怖くて、だけど諦められなくて、必死で足掻いて、ボロボロになった。
 彼が胡桃さんにそこまでする理由も、今の俺には分かる。だから、強く、頷いた。

「やる。まずは拠点村だ。あそこを獣人の定住地にしよう。
 胡桃さんのように特徴がある人が、姿を晒していられるくらいにしようと思ったら、まだ時間はかかるだろうけど、一見分からない人たちなら、なんの問題もなく、それができると思う。ハインだって、九年バレずにやってきたんだから、実績はそれで充分だろ?
 だから、もうそんな風に、危険な手段を無断で選ぶな。
 お前自身が俺に言ったんだよ?    他を頼れって。お前だってそうすべきだ。    
 マルは俺に、もう沢山与えてくれてたよ。今度は俺が報いる。
 それに……これからもサヤのことを、守ってもらうんだから」
「……分かってます?    それ、貴方が一番危険なんですよ?
 全てが明るみになった時、言い逃れなんてできない。貴方が今度は、晒されるんです」
「そんなの、はじめからそれが、俺の役割だろう?」

 貴族である以上、責任を担う立場だ。それは初めから、俺の役割だよ。
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