異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

文字の大きさ
415 / 1,121

新たな問題 6

しおりを挟む
 壊されていたら……?

 はじめサヤは、なんて言っていた?
 すぐに助けが来たから、カナくんが来てくれたから、たいしたことはされていないと、そう言っていたのに?

「そンなン……何がたいしたことかは、そいつ次第だろ」

 呆然と考えていたことに、ジェイドが視線を逸らして返事を返す。

「だいたい、大概なことでも、たいしたことないって、言うしかねぇンだ」
「サヤは孤児じゃない!    ジェイドのいた環境とは、大きく違う。そんな、そんなこと⁉︎
 サヤの世界はここなんかよりずっと豊かで、夜道だって女性が一人出歩けるような、平和な所で!」

 だけどそんな平和な場所で、彼女は…………。

 ぐるぐると頭の中を、出会った時からのサヤが巡っていく。

 怯えていた……。夜着を着た俺を見ただけで、肩を抱いただけで、背中を晒す礼服を着せられただけで。
 震えていた……。ほんの些細なことで……記憶を手繰るだけで、慕う相手すら、受け入れられないほどに……。

「そりゃ、理由にはなりますけど……辻褄は合いますけど…………」

 マルが、彼にしては珍しく、現状から視線を逸らすような言葉を吐き、狼狽えた様子を見せる。

「……その……、それは可能性の一つとして、心に留めておくとして。
 他の理由を、探りませんか……そうとは、限らないですしね?」

 俺に視線をやて、困ったみたいに、そんな風に言うから……。
 マルにも否定できないのだと、分かってしまう。

 それを、知られたくなくて、ああ言ったのか?
 俺が、サヤ以外を娶る気がないと言ったから?
 サヤには正妻としての責務が、果たせないから?
 なら、子は別で作ると言えば、サヤは考え直してくれるのか?

 そんな馬鹿みたいなことを考えて、自分の思考に吐き気がした。
 子供を産むためだけの、都合の良い女性を、用意すればと考えた、自分に。
 そんなこと、できるわけがない!
 なら、他にどんな方法がある?
 もしこの仮定が正しいのだとしたら、俺はサヤに何もしてやれない……。
 無理やり彼女を娶ったとしても、ただ苦しめるだけ……子を成せないかもしれない彼女を、役割を果たせないことで、更に追い詰めるだけになる。
 じゃあ俺は、どう足掻こうと彼女を手に入れるなんてできない……。彼女を幸せになんて、できないってことなのか?

 結局、俺は、こうなのか……。
 望んではいけない、手に入れてはいけない……………………それが、俺の、罰。絶望だ……。

 頭がうまく、働かなかった。
 だっておかしい。サヤは俺に罪なんて無いって、そう言ったのに。
 それを証明するために戦うって、そう言ってくれたのに。
 そのサヤを失うなら、やっぱり俺は…………。

「すまない……しばらく、一人になりたい…………」

 なんとかそう、口にした。
 もう、何も考えたくなかった……。

 世界が違う。
 はじめから、分かっていた…………。

「分かっていたけど…………」

 手に入れたと思えば、零れ落ちる。
 初めから、そう決まっていたみたいに……。

 もう、疲れた…………。


 ◆


 その日はその後、何も手につかず、俺はただひたすら、出会った時からの、サヤとの時間を思い返していた。
 五の月の終わりの頃から、もう十二の月の終わりだ……半年以上が過ぎた。
 過ぎてしまえばあっという間……。その中でサヤは、どんどん俺の中で、比重を占めていった。

「子ができるかどうかなんて……どうだって良い……」

 俺一人の気持ちで済むなら、そんなことは、どうだって良かった。
 ただサヤと共にあれたらそれで良い。
 本心からそう思ってる……。
 でもそう言うことは、父上への裏切りだし、貴族としての責任放棄になる。
 好きで得た後継という立場ではないのに…………それが苦しい。
 子供なんて……そんなものは、神の恵みだ。誰と婚姻を結んだところで、できるときはできるし、できないときはできない。
 サヤの世界では、違うのかな……。
 彼女には、我々では到底及ばない知識がある。だから、子ができるかどうかすら、彼女には分かるのだろうか……。

 だけどそんなことより……。

 サヤがこれからの人生も、一人その苦しみを抱えて生きていくのかと思うと、その方が苦しくて、気がおかしくなりそうだった。

 彼女がカナくんを拒んでしまった理由は、ここにもあったのだろうか……。
 求められても、応えられない。
 だから彼女は、拒むしか、できなかった?

 だけどそれは、なんだかしっくりとしない気がした。

 彼女は、カナくんを受け入れられない理由を、自分でも分からないのだと、そう言って泣いていた。
 あれは心からの叫びだった。背を丸めて、苦しそうに、泣いていたのだ。
 だからサヤは、乗り越えようと足掻き、自分を虐めるように鍛えた。
 つまり、カナくんを拒んだ理由は、俺とは違う…………。

「俺が、駄目な理由…………」

 かんにん……って、サヤは俺に、何故か謝った。
 ふさわしい人と幸せになれと言いながら、涙を零した。
 捧げた魂すら、返すと言った。
 あんな風に、無理矢理な口づけを、拒まなかった。
 はじめから、先を求めていなかった。
 それでも、俺の気持ちを受け止めてくれた。
 身体を、許そうとすらしてくれた。
 それは、何故なんだろうか……。

 何度考えてもそれは……サヤの気持ちがそこにあるようにしか、思えなくて……。
 なのに拒まれた現実が、俺には理解できなくて……。
 ひたすら、考えて、時間だけが過ぎた。
しおりを挟む
感想 192

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...