異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

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門出 4

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 昼の少し手前という時間帯に、アイルとウーヴェ、そしてロビンと、想定していなかったルーシーがやって来た。

「サヤさん!」

 大喜びでサヤに飛びつき、再開を喜び合う二人。見ていて微笑ましい限りだ。
 ルーシーは、サヤの頬に触れ、手を握り、サヤの無事を確認するかのように触れてから、心配そうに問いかける。

「大丈夫でしたか?    嫌な人には絡まれませんでした?」

 それに対しサヤは、柔らかい笑みを浮かべてこくりと頷いた。

「大丈夫。皆さんよくしてくださったので、全然平気でした」

 その言葉に、二人して笑顔になる。
 けれど、続いたルーシーの言葉に、サヤは凍り付いた。

「お土産はあります?」
「お、お土産?……お土産は……」

 助けて。という視線が俺を見る。
 街に出る時間など確保してなかったのでそんなものは無い。しまった、全く考えてなかった……。
 なので俺は、時間稼ぎに咳払いをひとつ。土産になりそうなもの……えーと……。

「あー……、近日中に、耳飾の受注が入る予定なんだけど……」

 これは土産になるのかな……。
 恐る恐るの問いかけだったのだけど、それによりルーシーは瞳を輝かせた。

「もう受注⁉︎    サヤさん流石です!    だからロビンさんをお呼びだったんですね!    ですって、ロビンさん!」
「ええええぇぇ、もう⁉︎    嘘っ⁉︎    貴族の方相手ってことですか⁉︎    おおおお俺には荷が重すぎます!」

 なんで呼ばれたんだろうとばかりに、隅っこで小さくなっていたロビンだったが、それにより混乱に突入。
 ルーシーとサヤが慌てて宥めに入る事態となった。
 そんな混乱の中、最後にウーヴェが苦笑してやって来て、俺に「おかえりなさいませ」と、言葉をくれる。

「拠点村は、恙無く、順調に作業を進めております。孤児院と幼年院の建設を急ぐ件も承りました。こちらも職人の確保は目処がつき、昨日より現場に入りました」
「ありがとう。……ウーヴェも、元気そうで良かった。越冬から直ぐにプローホルで、顔を合わせられなかったから」

 そう言うと、柔らかい笑みを浮かべて礼を述べるウーヴェ。
 彼は越冬をメバックで過ごしていたのだけど、その間もこちらで職人の確保に尽力してくれていたのだ。そして、俺たちのプローホル出発とすれ違う形で拠点村に戻った。

「ルカやシェルトは?    皆息災だったかな」
「ルカは元気以外ありませんから大丈夫ですよ。
 本日から数日留守にすることはシェルトに伝え、現場も預けてまいりましたから、拠点村は大丈夫です」

 そう言って、書類の束を俺に手渡してくるウーヴェ。

「越冬中に確保できた職人の名簿です」
「…………思っていたより随分と……多いな」
「越冬明けに急激に増えましてね。商業広場で作り溜めた商品の売買を開始しましたから。
 一番の売れ筋は洗濯板ですね。もう在庫が尽きかけてます。
 髪飾りも売り子に着用を義務付けたら、飛ぶように売れだしました」
「えぇ?    まだ街開きして間もないのに……朗報しか無いと怖くなるんだけど……。問題の方は?」

 そう問うと、苦笑と共にこんな返事が返ってきた。

「手続きの人手が足りないことくらいでしょうか」

 ……ウーヴェひとりでは手が回らないってこと?    それは、相当だな……。

「それで、勝手をするのもどうかと思ったのですが……ひとり助手を雇いました。……宜しかったでしょうか?」
「ウーヴェが店主なんだから、そこは俺の采配を仰ぐ必要無いって!
 ウーヴェの目は信頼しているよ。だから必要と思う人手はこちらの指示など求めなくて良い。
 あ、それでな、近々装飾品の職人の確保が必要なんだけど……」
「書簡にあった耳飾の件ですね。もう話は通してあります」

 打てば響く……。
 これ……俺のここでしなきゃならないこと、終わってしまってないか?

 言葉が続かずにいると、俺が報告を待っていると思ったのか、ウーヴェが確保した職人について話を始め、それを見咎めたハインが奥でやってくれと俺たちを応接室に促す。
 いや、びっくりした……。俺たちだけでやることに慣れすぎていて、誰かが勧めてくれているということがこんなにも凄いことだとは……。

「……ありがとう、ウーヴェ。なんか凄く、ホッとしたよ……」

 そう言うと、とんでもありませんと、またウーヴェは優しい笑みを浮かべた。…………うーん?

「とはいえ貴族対応に強い職人というのが、メバックにはあまおりません……。
 なので、バート商会の手を借りる方向で検討しておりまして」
「あ、うん。それを俺からもお願いしようと思ってたんだ。ギルには話を通してあるから。
 それで、仲介にアギーの方が挟まる形になるから……」

 なんとなくウーヴェの様子が違う気がしたのだけど、それ以上の変化を見つけることは叶わず……俺たちはそのまま今後の打ち合わせを済ませた。
 今日よりウーヴェもメバックだが、宿は別に確保してあるとのこと。

「明日、雇い入れた助手を伴いまして、また参ります」
「うん、頼む。……拠点村からわざわざ呼ぶの?」
「いえ、メバックにおります。こちらで受付窓口をひとつ設けまして。まずは予約を取っていただき、後日まとめて面会という方法に切り替えたので」

 助手はその窓口にて待機してもらっているのだという。
 それはつまり、こちらから必死で説得に回らずとも、職人の確保ができるようになってきつつあるということで、俺たちにとっては、ひとつの壁を越えたということでもあった。

「ウーヴェの尽力のお陰だな……。本当、貴方がいてくれて良かった」
「まだまだです。まだメバックだけですから。これからセイバーン中に手を広げ、他領や、国へと育てていかなければなりません」
「そうだな……引き続き頼む」
「誠心誠意、努めさせていただきます」

 そんな風にして今後の予定を話しているうちに、やっと気持ちが落ち着いたらしいロビンと、サヤにくっついてルーシーがやって来て、新たに確保した職人への指導を行いつつ、耳飾を製作していくことになると説明。
 当然、襟飾と対で作ることが肝要で、全て違う意匠でとなる。
 するとルーシーが、貴族方への対応は私が承りますよと言いだし、装飾師の職務だとやる気を見せた。

「慣れれば職人の方と直接のやり取りを行う方が良いのかもしれませんけど……初めて手がける装飾品ならば尚のこと、間に私が入るべきですわ。
 少なくとも私は、サヤさんの装飾品に関わった実績がありますし、その工程も目にしてきてますもの。お任せくださいな」

 そう言うから、お願いすることにする。
 ルーシーにとってもこれは、良い経験だと思ったし、バート商会本店の後継という立場が、彼女の武器になると考えたからだ。
 当然それはルーシーも承知していよう。

「……なんか急に大事業みたいだな……」

 ついそう呟いたら、ルーシーとロビンには呆れられてしまった。

「なにをおっしゃいますの?    元から相当な大事業ですわ!」
「土嚢壁から装飾品まで……相当手広くやってますよね……大事業ですよ、どう考えても……」

 ウーヴェとサヤが顔を見合わせてそれに苦笑し、ハインの呆れた溜息に俺は頭を掻く。

 そっか、元から大事業か……。思い至ってなかったよ……。
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