異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

文字の大きさ
575 / 1,121

拠点村 2-5

しおりを挟む
 荷物を置きに一旦館に戻って、そのついでに昼食を摂った。そして昼からは工事中の箇所を巡るとクオン様が言い出し、お付きの一同が若干げんなりと顔色を曇らせる。
 付き合う方は大変だ……といった様子。だけど文句は口にしないところを見ると、もう諦めているのだろう。

「だってこの村、なんだか異国みたいなんだもの。
 構造だって特殊だし、ちゃんと見てみたいわ」

 工事に特殊な技術は含まれてませんよと伝えたのだけど、それでも構わないという。
 仕方がないなぁと、建設中の孤児院や幼年院から、見学してもらうこととなった。

「……前代未聞だわ……。庶民用の学舎だなんて……」
「職人の村なんですよ、ここは。しかも作られる道具ひとつ取っても特殊なものが多い。
 当然、神経を使う作業が増えるでしょうし、子供にとっても危険であったりもするんです。ならば、安心できるところに集めて、ついでに学んだり遊んだりしておいてもらえれば、色々と助かるじゃないですか」

 子が学舎に通うことは、サヤの国ではごく当たり前のことであるという。
 実際サヤは、一歳にも満たない時から六歳までを保育園、七歳から十二歳までを小学校、十三歳から十五歳までを中学校、十六歳からは高等学校……と、段階を追った学舎に進み、学んできていると話してくれた。
 それだけの学びの場が、国民の全てに当然のこととして用意されているからこそ、サヤほどの知識を有した者が存在しうるのだろう。
 逆を言えば、それだけ手厚く育てれば、サヤほど優秀な人材が当たり前のように育つ……ということになる。実現できれば国力の向上どころの話ではない。

「職人にだって読み書きは必要ですし、できて困ることはない。クオン様の草紙や読売だって読む者が増えれば、もっと価値が上がりますよ」

 そんな風に話しながら足を進めていると、指示を飛ばしている見知った顔を発見した。

「シェルト!」
「おう、年の暮れ以来だなぁ。ゴタゴタも片付いたみたいじゃねぇか」

 まだ年が明けて顔を合わせていなかった、石工兼、現場責任者のシェルトだ。
 元気そうで良かった。
 そちらに足を進めると、上から下まで俺を見たシェルトが「少し育ったか……?」と、聞いてくる。

「ははっ、この歳でもう育つわけないだろ。背だって殆ど伸びてないよ」
「いや、そりゃそうだがよ……なんかあんた……」

 そこで急に黙りこくったシェルトの視線が、俺の背後で釘付けになり、何故か驚きに見開かれる。
 お嬢様方……ではないよな。まだ彼方にいるし、シェルトの視線の先は、サヤが定位置としている場所だ。
 そこで振り返って、あ、サヤが今日は女性の装いだったと気付いた。

「シェルト、実は……」
「サヤ坊の身内、見付かったのか!」
「えっ、サヤ坊?」
「うわっ、ホントだ!」

 えっ、ちょっ……。

 シェルトが思いの外大きな声でそう言ったものだから、周りで作業していた他の者らまでサヤを見る。
 俺が声を張り上げてもかき消えてしまうくらいに、皆が口々に何か言いながら駆け寄ってきたものだから、サヤ本人が慌て、慄いてしまった。

「姉ちゃんか、美人さんだなぁ!」
「よく似てる。髪色同じだし間違いようがねぇけど」
「ところでサヤ坊どこ行った?」
「レイ様なんでサヤ坊の代わりに姉ちゃん引き連れてんだよ」
「そんなことよりサヤ坊の姉ちゃんってことはこの人お貴族様なんじゃ?    俺ら不敬じゃねぇの?」
「おまっ、そういうのはもっと早く言えよ⁉︎」
「だけどサヤ坊の姉ちゃんなら大丈夫だろ?    サヤ坊がああだしよ」
「ちょっと!    落ち着いてくれ、今説明するから!」

 わらわらと寄ってきた職人らに、サヤが明らか怯えているのが見て取れて焦った。
 そりゃそうだ。皆がサヤを少年だと思っていたのだから、女性の装いならば別人と思われても仕方がない。こんな反応になって然るべきだった。
 だけど久しぶりすぎて、そのことすら失念していたのだ。
 女性のサヤは当然魅力的だ。そうなれば、職人らが彼女をそういった目で見てしまうだろうと、考えておかなきゃならなかった。

「静まりなさい、お二人については今説明しますから!」

 ハインが慌てて駆けてきて、サヤを背に庇う。
 けれど、その声もやはり掻き消され……。

「黙れお前らぁ!    散れ‼︎」

 大音量の威喝に、一同がビクリと動きを止めた。

「近寄んな!    作業戻れ!    だいたい、ちと遅れ気味だって言ったばっかだろうが!」

 そんな言葉と共に手荒く追い払われ、皆が不満を述べながらも俺たちの周りから作業に戻り出し、その場にはシェルトと目立つ頭色の男だけが残る。
 いや、いるのは知っていたけれど、こんな状況になるとは想定していなくて……。

「あ、ありがとう、ルカ……」

 そう声を掛けると、不機嫌そうな視線がギロリと俺を睨み据えた。
 そうして、俺とハインに庇われた、サヤの方にそれは流れ……。

「……よう、久しぶり。もう、良くなったんだな」

 何が。とは、言わなかった……。

「うん……。もう、隠す必要は、無くなったから……」
「ふん。そうかよ」

 その後はもう聞いてくれる気がないらしく、そのまま彼自身も場を離れ、歩いて行ってしまう。
 シェルトが「おい、ルカ!」と、呼び止めたけれど、彼の足は止まらなかった。

「ったく、ガキが……。何があったか知らんが、冬からまだ引きずってやがるようでよ……。すまんな、あんな態度で」
「……いや、当然のことなんだ。……その……シェルト、お前にもずっと偽りを述べていたから、今、詫びるよ。
 サヤは……女性だ。彼女がサヤ。もう、性別を偽る必要がなくなったから、今からはこの格好が増えると思う」

 そう言うと、ぽかんと口を開き、サヤを見つめるシェルト……。

「…………マジか⁉︎」

 その声音に、また職人らの視線がこちらに集まるが、今度は寄ってくることは無かった。気にしている様子ではあったけど……。

「うん……。冬まではその……俺の身辺が色々きな臭かったから、彼女が女性であると知られることが、危険だった」
「…………そ、そうか……。いや、幽閉だ襲撃だってやってたからな、そりゃ……危険……いや、でもサヤ坊は……ええ?    ちょっと待てって、あいつべらぼうに強かったぞ?」
「うん。そこは元から、なんの偽りも無い」
「…………マジか……マジかあぁぁ」

 俺を嬢ちゃん呼びしていたシェルトだったけれど、サヤが嬢ちゃんとは想定していなかったようだ。
 それでルカが何故あんな風だったかも、なんとなく察しがついたのだと思う。

「…………あいつ知ってたのか」
「うん。図らずも、知ってしまった……。それで俺が、サヤに危険なことさせてることを、怒ってさ……」
「まぁなぁ……でもサヤ坊は……」
「はい。私の意思で、従者をしていました。これからもそうします」

 やっと落ち着き、そう決意を言葉にしたサヤに、シェルトはなんとも難しい顔をする。
 サヤは、これからも変わらず俺の補佐を続けていくし、今まで通り従者をする。けれど、もう性別は偽らないのだと、改めて伝えた。

「それから、サヤはレイシール様の婚約者でもあります。正式な婚姻はサヤの成人後となりますが。
 その辺りのことは、貴方の口から職人らに伝えておいてください。将来的には男爵夫人ですから、妙な詮索は無用に願いますと」
「ちょ、ちょっと待て、いっぺんに色々ぶち込み過ぎだろ⁉︎
 サヤ坊が女で、だけど従者で、将来は男爵夫人⁉︎」
「女性の従者はこの国でサヤただ一人ですからね。色々と風当たりも強い。
 せめてこの村でくらいは、快く祝ってやっていただきたいのですが」
「いや、別に文句はねえけどよ⁉︎」

 こちらの様子が気になるのだろう。慌てたり喚いたりするシェルトの反応に、いちいち職人が視線を寄越してくる。いや、なんかほんと、申し訳ない……。
 そうして、頭を掻きむしったシェルトだったけれど、結局最後は諦めたように肩の力を抜き「ま、世の中色々あらぁな……」と、どこか諦めた様子で呟いた。
 元から、前代未聞なこと尽くしだった現場である。今更増えたってそれがなんだ。

「分かった。職人らには俺から伝える。けど……その他は今まで通りで良いってこったな」
「うん。これからも、よろしく頼む」
「あ、もう一つ忘れていました。レイシール様は、晴れてセイバーンの後継となられ、国より地方行政官長という役職も賜ります。
 貴方がたにはあまり影響は無いでしょうが、一応伝えておきます」
「いや、そっちの方が本来は重要だろ⁉︎」

 結局終始慌てさせてしまい、もう現場が落ち着かねえから帰ってくれと追い出されるに至り、申し訳ないことをしたと反省したのだが、また顔を出すからと立ち去る俺たちの背に向かい、最後に「おめでとうさん!」という言葉が追いかけてきて……。
 俺たちは顔を見合わせて、笑い合った。

 おめでとうって、ただそう、言葉にしてくれたことが、嬉しくて。
しおりを挟む
感想 192

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...