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サヤの口から溢れる酷い言葉。その視線の先で、トゥシュカと思しき背の高い影が、背の低い方の手を払った。
「あんたはまだ十四じゃない……だから、そんな甘っちょろいこと、平気で言ってられるんだ。だけどあたしにはもう、時間なんてない! 勉強する時間なんて、もとからあたしには残されてなかった!
バレたらおしまいだったんだ! なのにもう無理、もう隠せない。もうあたしはおしまいなの!
スティーン、あんたは知らないから、一緒に行くなんて簡単に言うけどね、あそこに行ったら、そんなの、なんの助けにもなりゃしないんだからね!」
サヤの顔からは血の気が引いていて、壁に縋るようにして立ち、彼女らの言葉を紡いでいた。
彼女にとってもそれは絵空事ではない。下手をしたら、身に降りかかっていたかもしれない事柄だった。
たった独り、この世界に放り出されていたら……それはサヤの未来だった。
言葉の途中でつっかえ、零れそうになる涙を震える手で拭って、縋るように俺を見る。
そのサヤを一度抱きしめてから、離した。
「……ここにいて」
首を横に振る。そうして手を、キュッと握られた。
冷たくなって震える手が、あの子たちのところへ共に行くのだと、そう言っている……。
だからその手を握り込んだ。
「大丈夫。あの子たちをそんなところにやりはしないよ」
サヤが安心できるようにそう言うと、分かっていると、震えながらも濡れた瞳で、なんとかにこりと笑う。
時間は無いけど、後回しにできる問題じゃない。ダウィート殿には、後で謝ろう。
そう腹を括ったら、俺はサヤの手を引き、外に向かった。
降りしきる雨が、俺とサヤの上に降り注ぐ。
「トゥシュカ、スティーン」
こちらに気付いていない二人の背後で声を掛けたら、ギクリと、両方が身を固め、恐る恐る振り返る……。
とっさにスティーンは、トゥシュカの手にあったものを、奪い握り込んだ。
小さな布切れ。そう見えたものは多分、下着……。
必死で擦ったところで落ちはしなかったのだろう。それは…………。
あぁ、男の俺じゃ、理解してやりにくいことだって……一年前にもサヤに、言われたんだったな……。
十四ならば、迎えてもおかしくなかった。まして十六ならば、もうそれは、巡ってきていたろう。
だけどそれが、起こらないようにしていたのか……。食事を極限まで減らし、ガリガリに痩せ細ってまで、十四だって偽ってたのか……。
そうまでして逃れたい道。
それがまた、自分を捕まえに来るのだと、トゥシュカはここに来てからもずっと、日々怯えていたのだ……。
握っていたサヤの手が離れた。
二人に駆け寄ったサヤは、そのまま両腕に二人を抱き込んで、呆気にとられた彼女らの頭を、自らの肩に抱き寄せた。
俺を警戒していた二人も、サヤがまさかそんな風に動くとは思っていなかったよう。
サヤの腕を逃れられず、どうして良いか分からぬ手が、虚空を彷徨った。
その三人に向かい俺も、足を進める。
瞳を絶望の色に染める少女二人に、声を掛けるために。
「娼館になど、やるものか。
お前たちに……我が子と定めたお前たちに、俺が、そんな道を歩ませるはず、ないだろう?」
分かっている。孤児の全てに手を差し伸べることができるほど、俺の手は強くもなく、大きくもない。
それでも、手の届く場所にいるお前たちくらいは、守ると決めた。
だから、そんな心配はしなくて良い。
もう腹いっぱい、食べて良いんだ。
「もう隠さなくて良い。
今日まで気付いてやれなくて、すまなかったな……」
◆
孤児院に戻ると、ずぶ濡れになってしまっている俺たちに、皆が慌てた。
「すまない、あー……とりあえず三人は、湯に浸かって温まる方が良いな。風邪を引く。
サヤも、着替えは誰かに取りに行ってもらうから、ここを使わせてもらおう」
女の子三人には、孤児院の風呂を利用してもらうことにし、何事かとワイワイ寄ってくる子供らは全員大部屋に集め、手拭いだけ借りた俺は、まず犬笛を吹いた。
現れた吠狼の者に、事情を説明して、サヤと俺の着替えを取って来てもらう。
トゥシュカとスティーンの着替えは職員にお願いした。そのついでに、トゥシュカが月の穢れを迎えたこともそれとなく……。
あー……うん……なんともいえない顔をされてしまったが……いや、先にサヤまで風呂に向かわせてしまったから、仕方なくだな……。
そうして色々を待つ間に、集めた子供らには、今一度説明を行うことにした。
何故かずぶ濡れの俺に、皆は注目。まぁ手拭いで拭いたくらいではね……。けどそれよりも今は、重要な話がある!
「前にも言ったんだけどね……まだちゃんと……きちんと全員に伝わってないみたいだから、もう一度説明する。
お前たちは、ここで食べて、健康になって、育つ。それがまず一番初めにしなきゃいけないことだ。
次は、勉強。文字と計算を覚える。そう伝えたな? それはもう、皆分かっているよな?」
それに子供らは顔を見合わせ、こくりと頷いた。
うん。ここまでは伝わってたな……。
「で、その先だけどな……。
真っ当な仕事に就いてもらうって、俺は前も言ったよ!
だけど真っ当な仕事っていう部分の説明ができてなかった……ごめんな。俺の思う仕事と、お前たちの思う仕事に、結構な差があるみたいだって、もっと早く気付けばよかった。
俺が言った真っ当な仕事っていうのは、お前たちが嫌じゃない仕事だ!
例えば、し、娼館……の、色女とか、下町のごろつきとか、そういうのは違うから!
職人や、料理人や、農家や、役人や、女中。俺が言っていたのは、そういう仕事……。自分が、胸を張って、誰はばかることなく名乗れる。そういう仕事のことだ」
急に何の話を始めたんだ? と、不思議そうにする子供達。
だけど、幼い子らより、年が上の子らの方が、反応は大きかった。
そうだよな……十五になればここを出なければならない。それが目の前にある者は、きっと不安も大きかったことだろう……。
「…………こういう言い方をしたら変だけど……本当は何でも良いんだ……。色女であったって、傭兵であったって、なりたくてなるなら、良いんだ……。
なれて良かったって、思えるなら……それを誇りにしてくれるなら……。
俺はね、お前たちに、これしか選べなかったのだと、思ってほしくないんだよ。
この道しか無いのだと、思わないでくれ。自分は何にだってなれるのだと、理解してくれ。お前たちには、俺は、夢を持ってほしいんだ。
沢山の大人を見て、仕事を見て、こうなりたいって思う未来を見つけてほしいんだ。
死んだ方がマシだと思うような…………そんな仕事なんか選ぶな。
……ごめんな、急にこんな話しされたって、訳が分からないと思うけど……お前たちは…………お前たちは、セイバーンの希望であってほしいんだよ、俺は」
覚えてもいない前世の罪を償うことより、誰にも恥じない、立派な人生を歩んでほしいんだ。
苦労したけど、幸せだと、そう思う人生を、手に入れてほしい。
「孤児は、不幸を約束され、苦難の道を歩むべしと神に定められている……。
確かに経典には、そう書かれている……。
でもな、それは、幸せになっちゃ駄目って意味じゃない。不幸でいろって意味じゃないんだ!
親を失った分、苦労をするけれど、それでも立派な大人になってほしい。幸せになってほしいって、そういうことなんだ!
だからな……誰かがお前たちに、孤児であることを理由に何かを強要してきても、聞かなくていい。嫌なことは嫌って言えばいい!
無理やり従わされそうになったら、その時は俺に言え! うちの子に勝手を言うなって、俺が言ってやる!
あぁもう、ちょっと纏まってないな、ごめん! だけどな、とにかく……お前たちは、嫌なことを我慢しなくていい……やりたくないことは、やりたくないって、言って良いんだ!」
感情のままにそう叫び、頭を抱えた。
あああぁぁぁ、絶対理解できないよな。俺がまず頭の整理できてないのに、感情に任せて言葉を吐き散らかしてしまった!
だけど、トゥシュカの我慢が、それだけ俺には、悲しかったのだ。
全ての流民や孤児を救えるなんて思っていない。そんな財力も、力も持ち合わせていない。それは俺が、一番よく分かってる!
でも俺は、領民の皆を幸せにするための地位を持ち、そのための職まで賜ったのだ。
皆を大切にしたい、幸せにしたいって思える心を、サヤや皆に貰ったのだ。
何も持ってはいけないと言われ続けてきた俺を、皆が守り、支えて、違うって教えてくれた。持って良いのだと、幸せになって良いのだと、教えてくれた。
それを俺も、皆に、教えたい。そうあってほしいのだ。
「えーっと、まぁつまりだな、レイ様は、お前たちが楽しー、幸せーって笑うのが一番大事って言ってんのね。
王都でもさぁ、孤児虐める貴族とかいたんだよ。偉い人でもそういうことするんだ。
それがこの人ほんと嫌だったんだよね。怪我してボロボロにされた孤児拾って帰っちゃうくらい嫌だった。
あ、それがハインね。
でぇ、ハインも立派に大人になって従者してるだろ? あれはハインがやりたくてやってんのね。レイ様大好きなんだよハイン。
だからお前たちもさ、大好きなこと見つけて、楽しく暮らして欲しいんだってさ。
やなこと言う奴なんか気にするなってさ。
それで了解? 分かったら手を挙げてー!」
頭を抱えてしまった俺の代わりに、テイクが簡単に話をまとめてくれて、みんなにそう聞いた。
そうしたらまぁ、分かってるかどうか分からないけれど、はーい! と、元気な返事が返る。
「僕はさー、親が料理人で、そのまま僕も料理人になったけども。
お前らは親いないもんな。だからなんでも好きなことやっていいんだってさ。
親の仕事継ぎたくねーって言ってたやつも結構知ってるんだよな。そいつらからしたら破格の待遇」
「そうなの?」
「そうそう。例えば騎士したいって思っても、親が宿屋だったら宿継がなきゃいけないしさ、やらせてもらえないわけ。
まぁね、家庭持ってる奴は大抵そうよ。普通は決まってる」
「何してもいい……って、僕が料理人になりたいって思ったらなれるの?」
「おおぅ、好敵手出現⁉︎ いいぜ、受けて立つ。だけどまずは僕を師と呼びたまえ。修行は結構厳しいぜ?」
「……ユミルが先生の方がいい」
「……え、ちょっと待って、優しく教えるよ?」
手のひら返したテイクに、あははと笑う子供たち。
その子らに、いろんな仕事があるよーと、今度は次々と職名を挙げていく。
もう話そっちのけで、テイクが旅する中で見てきた、世界の珍しいお仕事たちを語っているのに群がる子供たち。
とりあえずもういいやと思って眺めていたら、横手からズイッと、手拭いが差し出された。
「それもうビショビショだろ」
「……あぁ、ありがとう」
トゥーレ。
元々窃盗団の一員であった彼は、自分の将来をどう思っているのだろう……。
初めは結構な問題を起こした彼だけど、最近は下の子らの面倒を見てる姿をよく見かける……。
何とはなしに……手を伸ばして頭を撫でたら、驚いた顔をされてしまった。
「……ありがとうな」
優しさを見せてくれる姿が、俺の心を救ってくれる。あの時の選択は間違ってなかったと思えるんだ。
受け取った手拭いを頭に被って、皆がキャッキャとはしゃぐ姿を眺めつつ、サヤたちが戻るまでの、残りの時を過ごした。
「あんたはまだ十四じゃない……だから、そんな甘っちょろいこと、平気で言ってられるんだ。だけどあたしにはもう、時間なんてない! 勉強する時間なんて、もとからあたしには残されてなかった!
バレたらおしまいだったんだ! なのにもう無理、もう隠せない。もうあたしはおしまいなの!
スティーン、あんたは知らないから、一緒に行くなんて簡単に言うけどね、あそこに行ったら、そんなの、なんの助けにもなりゃしないんだからね!」
サヤの顔からは血の気が引いていて、壁に縋るようにして立ち、彼女らの言葉を紡いでいた。
彼女にとってもそれは絵空事ではない。下手をしたら、身に降りかかっていたかもしれない事柄だった。
たった独り、この世界に放り出されていたら……それはサヤの未来だった。
言葉の途中でつっかえ、零れそうになる涙を震える手で拭って、縋るように俺を見る。
そのサヤを一度抱きしめてから、離した。
「……ここにいて」
首を横に振る。そうして手を、キュッと握られた。
冷たくなって震える手が、あの子たちのところへ共に行くのだと、そう言っている……。
だからその手を握り込んだ。
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サヤが安心できるようにそう言うと、分かっていると、震えながらも濡れた瞳で、なんとかにこりと笑う。
時間は無いけど、後回しにできる問題じゃない。ダウィート殿には、後で謝ろう。
そう腹を括ったら、俺はサヤの手を引き、外に向かった。
降りしきる雨が、俺とサヤの上に降り注ぐ。
「トゥシュカ、スティーン」
こちらに気付いていない二人の背後で声を掛けたら、ギクリと、両方が身を固め、恐る恐る振り返る……。
とっさにスティーンは、トゥシュカの手にあったものを、奪い握り込んだ。
小さな布切れ。そう見えたものは多分、下着……。
必死で擦ったところで落ちはしなかったのだろう。それは…………。
あぁ、男の俺じゃ、理解してやりにくいことだって……一年前にもサヤに、言われたんだったな……。
十四ならば、迎えてもおかしくなかった。まして十六ならば、もうそれは、巡ってきていたろう。
だけどそれが、起こらないようにしていたのか……。食事を極限まで減らし、ガリガリに痩せ細ってまで、十四だって偽ってたのか……。
そうまでして逃れたい道。
それがまた、自分を捕まえに来るのだと、トゥシュカはここに来てからもずっと、日々怯えていたのだ……。
握っていたサヤの手が離れた。
二人に駆け寄ったサヤは、そのまま両腕に二人を抱き込んで、呆気にとられた彼女らの頭を、自らの肩に抱き寄せた。
俺を警戒していた二人も、サヤがまさかそんな風に動くとは思っていなかったよう。
サヤの腕を逃れられず、どうして良いか分からぬ手が、虚空を彷徨った。
その三人に向かい俺も、足を進める。
瞳を絶望の色に染める少女二人に、声を掛けるために。
「娼館になど、やるものか。
お前たちに……我が子と定めたお前たちに、俺が、そんな道を歩ませるはず、ないだろう?」
分かっている。孤児の全てに手を差し伸べることができるほど、俺の手は強くもなく、大きくもない。
それでも、手の届く場所にいるお前たちくらいは、守ると決めた。
だから、そんな心配はしなくて良い。
もう腹いっぱい、食べて良いんだ。
「もう隠さなくて良い。
今日まで気付いてやれなくて、すまなかったな……」
◆
孤児院に戻ると、ずぶ濡れになってしまっている俺たちに、皆が慌てた。
「すまない、あー……とりあえず三人は、湯に浸かって温まる方が良いな。風邪を引く。
サヤも、着替えは誰かに取りに行ってもらうから、ここを使わせてもらおう」
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あー……うん……なんともいえない顔をされてしまったが……いや、先にサヤまで風呂に向かわせてしまったから、仕方なくだな……。
そうして色々を待つ間に、集めた子供らには、今一度説明を行うことにした。
何故かずぶ濡れの俺に、皆は注目。まぁ手拭いで拭いたくらいではね……。けどそれよりも今は、重要な話がある!
「前にも言ったんだけどね……まだちゃんと……きちんと全員に伝わってないみたいだから、もう一度説明する。
お前たちは、ここで食べて、健康になって、育つ。それがまず一番初めにしなきゃいけないことだ。
次は、勉強。文字と計算を覚える。そう伝えたな? それはもう、皆分かっているよな?」
それに子供らは顔を見合わせ、こくりと頷いた。
うん。ここまでは伝わってたな……。
「で、その先だけどな……。
真っ当な仕事に就いてもらうって、俺は前も言ったよ!
だけど真っ当な仕事っていう部分の説明ができてなかった……ごめんな。俺の思う仕事と、お前たちの思う仕事に、結構な差があるみたいだって、もっと早く気付けばよかった。
俺が言った真っ当な仕事っていうのは、お前たちが嫌じゃない仕事だ!
例えば、し、娼館……の、色女とか、下町のごろつきとか、そういうのは違うから!
職人や、料理人や、農家や、役人や、女中。俺が言っていたのは、そういう仕事……。自分が、胸を張って、誰はばかることなく名乗れる。そういう仕事のことだ」
急に何の話を始めたんだ? と、不思議そうにする子供達。
だけど、幼い子らより、年が上の子らの方が、反応は大きかった。
そうだよな……十五になればここを出なければならない。それが目の前にある者は、きっと不安も大きかったことだろう……。
「…………こういう言い方をしたら変だけど……本当は何でも良いんだ……。色女であったって、傭兵であったって、なりたくてなるなら、良いんだ……。
なれて良かったって、思えるなら……それを誇りにしてくれるなら……。
俺はね、お前たちに、これしか選べなかったのだと、思ってほしくないんだよ。
この道しか無いのだと、思わないでくれ。自分は何にだってなれるのだと、理解してくれ。お前たちには、俺は、夢を持ってほしいんだ。
沢山の大人を見て、仕事を見て、こうなりたいって思う未来を見つけてほしいんだ。
死んだ方がマシだと思うような…………そんな仕事なんか選ぶな。
……ごめんな、急にこんな話しされたって、訳が分からないと思うけど……お前たちは…………お前たちは、セイバーンの希望であってほしいんだよ、俺は」
覚えてもいない前世の罪を償うことより、誰にも恥じない、立派な人生を歩んでほしいんだ。
苦労したけど、幸せだと、そう思う人生を、手に入れてほしい。
「孤児は、不幸を約束され、苦難の道を歩むべしと神に定められている……。
確かに経典には、そう書かれている……。
でもな、それは、幸せになっちゃ駄目って意味じゃない。不幸でいろって意味じゃないんだ!
親を失った分、苦労をするけれど、それでも立派な大人になってほしい。幸せになってほしいって、そういうことなんだ!
だからな……誰かがお前たちに、孤児であることを理由に何かを強要してきても、聞かなくていい。嫌なことは嫌って言えばいい!
無理やり従わされそうになったら、その時は俺に言え! うちの子に勝手を言うなって、俺が言ってやる!
あぁもう、ちょっと纏まってないな、ごめん! だけどな、とにかく……お前たちは、嫌なことを我慢しなくていい……やりたくないことは、やりたくないって、言って良いんだ!」
感情のままにそう叫び、頭を抱えた。
あああぁぁぁ、絶対理解できないよな。俺がまず頭の整理できてないのに、感情に任せて言葉を吐き散らかしてしまった!
だけど、トゥシュカの我慢が、それだけ俺には、悲しかったのだ。
全ての流民や孤児を救えるなんて思っていない。そんな財力も、力も持ち合わせていない。それは俺が、一番よく分かってる!
でも俺は、領民の皆を幸せにするための地位を持ち、そのための職まで賜ったのだ。
皆を大切にしたい、幸せにしたいって思える心を、サヤや皆に貰ったのだ。
何も持ってはいけないと言われ続けてきた俺を、皆が守り、支えて、違うって教えてくれた。持って良いのだと、幸せになって良いのだと、教えてくれた。
それを俺も、皆に、教えたい。そうあってほしいのだ。
「えーっと、まぁつまりだな、レイ様は、お前たちが楽しー、幸せーって笑うのが一番大事って言ってんのね。
王都でもさぁ、孤児虐める貴族とかいたんだよ。偉い人でもそういうことするんだ。
それがこの人ほんと嫌だったんだよね。怪我してボロボロにされた孤児拾って帰っちゃうくらい嫌だった。
あ、それがハインね。
でぇ、ハインも立派に大人になって従者してるだろ? あれはハインがやりたくてやってんのね。レイ様大好きなんだよハイン。
だからお前たちもさ、大好きなこと見つけて、楽しく暮らして欲しいんだってさ。
やなこと言う奴なんか気にするなってさ。
それで了解? 分かったら手を挙げてー!」
頭を抱えてしまった俺の代わりに、テイクが簡単に話をまとめてくれて、みんなにそう聞いた。
そうしたらまぁ、分かってるかどうか分からないけれど、はーい! と、元気な返事が返る。
「僕はさー、親が料理人で、そのまま僕も料理人になったけども。
お前らは親いないもんな。だからなんでも好きなことやっていいんだってさ。
親の仕事継ぎたくねーって言ってたやつも結構知ってるんだよな。そいつらからしたら破格の待遇」
「そうなの?」
「そうそう。例えば騎士したいって思っても、親が宿屋だったら宿継がなきゃいけないしさ、やらせてもらえないわけ。
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「何してもいい……って、僕が料理人になりたいって思ったらなれるの?」
「おおぅ、好敵手出現⁉︎ いいぜ、受けて立つ。だけどまずは僕を師と呼びたまえ。修行は結構厳しいぜ?」
「……ユミルが先生の方がいい」
「……え、ちょっと待って、優しく教えるよ?」
手のひら返したテイクに、あははと笑う子供たち。
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「それもうビショビショだろ」
「……あぁ、ありがとう」
トゥーレ。
元々窃盗団の一員であった彼は、自分の将来をどう思っているのだろう……。
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何とはなしに……手を伸ばして頭を撫でたら、驚いた顔をされてしまった。
「……ありがとうな」
優しさを見せてくれる姿が、俺の心を救ってくれる。あの時の選択は間違ってなかったと思えるんだ。
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