異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

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九の月のはじめ 1

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「もうすぐサヤさんの誕生日です」

 とても真剣な顔のルーシーが、重要事項を告げるかの如く、そう宣言した。

「うん」

 なんだろう……なんかとんでもないことを言われそうな予感……。

「私の祝いには、本当にとんでもないものを一式、いただいてしまいましたので、私、気合いを入れなければと思いまして!」
「……う、うん」

 ……うん。
 とんでもないは、確かに言われた……。

「領主様にご相談したところ」
「……へ⁉︎」

 なにとんでもない行動力発揮してるんだよこの子は! 父上に直談判⁉

「無事、承諾を勝ち取ることができました! だから、作ります! やるぞー!」
「いや、ちょっ、ちょっとルーシー、何を⁉︎」

 興奮のあまり、ただ思ったことを口にしただけになっている様子のルーシー。全くなんの説明にもなってないから、何を作るのかもわからない。
 嫌な予感しかしなくて、そこを問い正したら……。

「サヤさんの国の、花嫁衣装を作ります‼」

 っ⁉︎

「ま、待って待って! まだサヤ、誕生日来ても十八歳だから。婚姻は二年も先だから!」

 なんかルーシーが暴走してるっ、ぎ、ギルー⁉︎ 姪が暴走してるーっ!

 余計なことを口走らないようルーシーをハインに捕まえてもらい、ギルを探して回ったら、ヨルグの部屋だった。

 そこにルーシーを放り込んで、サヤの目がないことを確認。かくかくしかじかと説明すると……。

「あ、それか。いや、俺もそりゃいいやと思って承知した」

 ギルのその返事を受けて、俺の膝が崩れた……。
 お前……良識ある男だと思ってたのに……。

「いやおかしいだろ⁉︎」

 二年先だって知ってるじゃん!
 けれど俺の絶叫に、ギルは反抗的な態度。

「おかしくねぇわ馬鹿。
 見たことねぇもん手掛けるんだ。時間はいくらあったって困らねぇんだよ」
「あらぁ? なぁに、楽しそうなお話ね」

 ヨルグまで興味津々に首を突っ込んできて、俺は頭を抱えた。
 そこでルーシーから、近くサヤの誕生日が来ると説明がされることとなる。先程のとんでも発言も。
 そしてヨルグの反応も……。

「良いと思いますわ」

 ⁉︎ 

「何でみんなそんなに気が早い⁉︎」
「だから言ってんだろ。何も早くないんだっつーの。
 別に今すぐ使えって渡すんじゃねぇよ。今から準備するって意味。
 今年の誕生日当日に渡す祝いの品は、ちゃんと別の無難なもんにするけど、婚儀のための衣装を、二年掛けて俺たちで用意するって言ってんだよ!
 それにちゃんと聞いてねぇだろお前」

 呆れ顔のギルが、噛んで含めるみたいに俺に言ったのは……。

「サヤの、国の、花嫁衣装を、俺たちは作るんだよ」

 ニヤリと不適に笑って。

「ルーシーが領主様から勝ち取ったのは、お前とサヤとの婚儀を、サヤの国の方式で行う承諾を得たってこと!」

 …………えええええぇぇっ⁉︎


 ◆

「うん。承知したが?」

 父上は、至極あっさりとそう首肯した。
 この人まで二年先の準備を今からするって言うのか……。

「形式とか、その他諸々、あるでしょう? まずいんじゃないですか⁉︎」
「駄目だったか? お前も別段、この国の婚姻様式に拘りがあるわけではないと思っていたのが……」

 じゃあどうしようかなといった風に父上が言うから、ここでも頭を抱えた。

「確かにサヤの国の様式でもスヴェトランの様式でも、なんでも良いのですけどね、そうじゃなく!」

 では何が不満だとばかりに、父上は首を傾げる。
 寝台の上には、サヤ考案の文机が置かれていて、書類をしたためていた手を止め、硝子筆を定位置に戻した。

 少しだけ角度が付けてある机で、奥側が高くなっているのだけど、寝台にもたれかかった状態の父上でも、机の上が見やすいように施された工夫だった。
 墨皿と硝子筆は手前に、専用の置き場が作り付けてあって。倒れたり溢れたりしないよう、気を使った構造だ。

「どうした? お前もこの机が欲しいのか?」
「いや、そういうことではなく……」

 義娘が誂えてくれたと、ご満悦の父上なのだが……。

「あまり体調が思わしくない時は、言ってください……。無理に、仕事しなくても……」
「またそれか。
 無理はしておらぬ。というか、そうせぬようにとサヤがこれを誂えてくれたというに」
「いや、そうなんですけど……」

 言いにくそうにする俺を訝しげに見てから父上は「サヤの負担になりそうで懸念しているのか?」と、聞いてきたから、慌てて頷いた。
 そういうことにしておこう……。父上の体調について、あまりとやかく言うべきじゃない……。

「二年も前から、婚儀の準備だなんて……サヤにとって重圧になるのじゃないかと……。
 まだこう……お互い触れ合うことも、ままならぬ状態ですし……」

 襲撃事件の時、無体を働かれかけたせいで、サヤの恐怖心がまた強まってしまったことは、父上も承知している。
 お互いに触れられるのが髪だけという体たらく。更にサヤは、相当気合を入れなければ、俺の髪に触れることもままならない。

 気付いていないはずがないではないか……。
 サヤは滅多に、俺の髪にも触れない……触れるときは、相当気力を振り絞って、必死で腕を、伸ばしている。

 俺は自由にサヤの髪に触れて良いことになっていたけれど……俺が触れようとする度に身構えるサヤの緊張は、いつも伝わっていた……。
 それでも触れるのは、彼女自身に頑張らせる方が、酷だと思ったからだ。
 俺のその言葉に父上は、それも確かになと考えた様子。

「……では、当面の間は秘密にしておくか。
 サヤの国の婚礼衣装は、バート商会にしても初めての試みであるし、試行錯誤することになるだろうから、時間はあった方が良いだろうしな」

 そう言う父上に、いやそれは無理でしょう。と、正直思った。

「……サヤに聞かずに作れるものなのですかそれは……」

 そう聞いたら、作れるのだろう? と、また不思議そうに言葉を返される。いや、無理でしょう。
 サヤの頭の中にしかないものを、どうやって実現させれば良いんです?

「ルーシーは、図面を持ってきたぞ」
「は?」
「それを見て、私もサヤがこの衣装を纏った姿を、是非見たいと、そう思ったのだよ」
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