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幼少期の推し編

静かな屋敷と妖精

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 しん、と静まり返った屋敷内。ベルるんをいじめるだけではなく、食事を奪い交際費を横領していたニナは逃げないために自室で軟禁をされている。その他の侍女や使用人は、最低限の人間のみを残して解雇された。

 さすが侯爵が来るまでの短い間といえど、犯罪を犯したものや加担した人を働かせる訳にはいかなかったようだ。そのため、屋敷内はとても静かだ。

 ベルるんは今、侯爵夫人の部屋にお見舞いに行っている。止めたり悪口を吹き込むニナもいないため、毎日お見舞いに行くことにしたようだ。

 ベルるんが話をしているうちに、様子見ておくか。

 私は今ニナの部屋の前に立っている。どんな様子かを見にきたが、外から頑丈な鍵がかけられている。いつものように扉の隙間からは入れないので、テレポートでニナの部屋の中に移動した。

「おかしい。おかしいわ。なんで誰も助けてくれないの」

 3日前にベルるんによって悪事を暴かれたニナは、椅子に座ってぶつぶつとつぶやいてる。食事は与えられているものの、お風呂には入っていないためか部屋の中は少しツンと悪臭がした。

「あああああ。ギルバート様にお手紙を書かなければいけないのに、閉じ込められてて出すこともできない」

 机の上を見ると、愛人のギルバートに当てた書きかけの手紙がいくつも散らばっている。

「大丈夫。侯爵様とギルバート様が来てくだされば、私のこと助けてくれるに決まってるわ」

 ふふふふふ、と笑い出したニナは、諦めていないようで瞳の奥が暗く光っている。

「それにしても、あの不義の子よ!相応しくないからお金も宝石も貰ってあげたのに」

 憎らしげにそう呟くと、ワンピースの下から数個の宝石を取り出す。

「これだけしか隠せなかった。ああ、全部私のだったのに!」

「あらま、なんて良いタイミング」

 私の目の前で横領した宝石を見せてくれるなんて、と思わず呟いてしまう。

「だ、誰なの?」

 私の声は聞こえたようで、宝石を隠すようにぎゅっと抱え込む。

 私は宝石に触れると、そのままアイテムボックスに閉まった。

「!!私の宝石!!」

 急に腕の中から消えたゴロゴロとした、大粒の宝石にニナが悲鳴をあげる。そして、辺りをキョロキョロと見ている。

 いやいや、これベルるんの宝石でしょ。

 これ以上見ていてもしょうがないな、と私は判断をして、ニナの部屋から侯爵夫人の部屋にテレポートをした。









「それでね、テオドリコと一緒に今度街に遊びに行くことになったんだよ」

 侯爵夫人の部屋に行くと、ベルるんがニコニコと笑顔で侯爵夫人へ話しかけている。侯爵夫人もぎこちない笑顔ではあるが、穏やかな表情だ。

 ニナから吹き込まれていた悪口も、きっと自殺の一因だったんだ。

 じっと様子を見ていると、ベルるんが私に気がついたようだ。

「お母様、ちょっと良いかな?」

 そう言うと侯爵夫人の耳元で、何かをそっと囁いている。その言葉に侯爵夫人が驚いて顔を上げるが、ベルるんはニコッと笑顔を返すだけ。

「それじゃあお母様、お大事に!また明日来るね」

 そう言って、私の元へ小走りで来てくれる。

「ごめんね。邪魔しちゃったかな?」

 ふわふわと飛んでベルるんの肩に止まると、申し訳なくてそう言う。せっかくの家族団欒を邪魔しちゃったような気がして、申し訳なかった。

「ううん。お母様の調子もそんなに良くないから」

「ベルンハルト様?」

 ベルるんが部屋を出ようとしながらそう言うと、大きな独り言だと思ったのか扉付近で待機していた侍女が反応した。

「君には関係ないから」

 ベルるんはそう冷たくて言い放つと、侯爵夫人の部屋を出る。

「べ、ベルるん?」

 冷たい声と表情にぎょっとして、声をかける。まさか闇堕ちした?

「なぁに、アリサ?」

 こてん、と首を傾げていう姿はまさに天使!闇堕ちしたなんて、私の勘違いに違いない。

「なんでもないよ!それよりも、明日私と二人で首都に行かない?」

「え?行きたい!」

 そう言うとぴょんぴょん、とその場で跳ねて「やった!お出かけ!」とベルるんが可愛く喜んでいる。

 侯爵が帰って来るまでに、叔父の悪事を暴く準備が必要だ。明日は、その準備の一環で情報ギルドへ行く予定だった。

 ベルるんの許可があれば、今日ニナからちょうど手に入れた宝石をギルドへ報酬として渡す予定だ。

「それじゃあテオドリコに、僕のお金もらってくるね!首都には美味しいものがいっぱいあるって聞いたから、アリサにも食べさせてあげる!」

 ベルるんは満面の笑みでそう言うと、テオドリコがいる部屋に向かって行った。
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