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21話

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 外から大歓声が聞こえ、アルゼリアがみんなの前に姿を見せたことがビオラにも分かった。

「そろそろ馬車の方に行っておこうかな」

 短時間だけ姿を見せ、その後は屋敷に帰る予定だと聞いていたので、ビオラは部屋から出て馬車へと向かった。

 門のところには既に馬車が待機しており、しばらくするとアルゼリアが馬車の方へ歩いてきた。

「お嬢様!すごい歓声でしたね」

 にこにこと笑顔で近づくビオラに、アルゼリアも笑みを浮かべたが、ビオラの顔を見て顔色を変えて走り寄ってきた。

「ビオラ!その顔、どうしたの?」

「腫れてますか?」

 頬に貼ってある白いガーゼ、その周りの皮膚が少し赤くなり腫れてきていた。痛々しいその姿に、アルゼリアが涙目になる。

「いったい誰に?どこで何があったの!」

「お、落ち着いてください。説明します」

 馬車の中に誘導して、ビオラが先ほどクレアと遭遇したことについて説明した。アルゼリアが心配しないように、とビオラはなるべく淡々と短くまとめて話した。

「私一人で来ればよかったわ。ごめんね、ビオラ」

 ぎゅっとビオラを抱きしめてアルゼリアが謝罪する。そして、すぐにぱっと体を離すと

「今すぐ抗議してくるわ!」

 そう言って馬車から降りようと扉を開けた。

「待ってください!見た目ほど痛くありませんし、大丈夫です」

 今にも馬車を降りそうなアルゼリアの腕を掴んで、ぶんぶんと首を振りながら言う。

「私の大切なビオラに、手をあげるなんて!殿下も殿下だわ。別室に連れて行ったのに、ちゃんと守ってあげないなんて!」

 ぷんぷんと怒るアルゼリア。そんな姿も可愛い、と思いながらビオラが必死でなだめる。

「すまない。今大丈夫だろうか?」

 外に出ようと馬車の扉を開けたまま話をしていると、外から気まずそうな男性の声が聞こえる。そちらの方を見ると、慌てて走ってきたのか、中年男性が肩で息をしながら話している。身長が高く、身なりから高位貴族だとすぐにビオラは分かった。

「どちらさまでしょうか?」

 アルゼリアの前に出て、ビオラが用件を尋ねる。

「アルゼリア殿に娘を診てもらいたいんだ。今回の眠り病のように、隣国の知識で娘の病気も治せないだろうか」

(――隣国の知識?)
 
 どういう意味だろう、とビオラは振り返ってアルゼリアを見つめる。

「そうですね。我が子爵領は隣国と面しており、今回はたまたまそちらの薬学で見つかった治療法ですが、お嬢様の病気を治せるかはわかりません」

 アルゼリアがビオラに説明するように言った。今回の病については、隣国からラスウェル子爵領に来ていた薬師が、眠り病に似た病気を治した、ということにしたのだ。これらの筋書きはジェレマイアが全て口裏を合わせて、準備したものだった。

「それでも、少しでも可能性があるなら診ていただきたい。この通りだ」

 そう言って深々と頭を下げる男性に、ビオラとアルゼリアは顔を見合わせた。この国の貴族はプライドや面子を重視するため、第二王子の妃とはいえ、自身よりも位が低い女性に頭を下げることは滅多にないことだった。

「頭をあげてください。一度お嬢様をビオラに診させましょう。それで、あなたはどちらさまなのでしょうか?」

「ありがとう!」

 ぱっと顔を上げた男性は、笑顔で名前を告げた。

「申し遅れた。私はウドルフ・ブルクハルトだ」

(――ブルクハルトってことは、公爵だ)

 ブルクハルト公爵は由緒正しい貴族であり、王族を除くと最も尊い身分だった。

「失礼いたしましたわ。公爵閣下」

「いやいい。娘の看病ばかりで、全く表舞台に出ていなかったからな。それよりも、ご都合のよろしい日を教えてほしい。できれば、早い方が私は助かる」

「それでしたら、明後日にお伺いをいても?」

「もちろん!公爵家から馬車を送ろう。そちらに乗ってきてくれ」

 想定していた日程よりも早かったのだろう、ブルクハルト公爵は破顔した。

「止めてすまなかった。それでは、失礼する」

 そう言うとブルクハルト公爵は、城の方へ戻って行った。

「ビオラ。勝手に決めちゃったけど大丈夫だったかしら?」

「もちろんです。公爵家とのつながりができれば、お嬢様にとっても利益ですから」

 にこっとビオラは微笑み、口角を上げると痛みに顔をしかめた。

「いたた」

「帰ってしっかりと顔を冷やしましょう!馬車を出して」

 時間が経つにつれて痛みが増してきた頬をおさえて、ビオラは馬車で屋敷へと帰った。
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