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51話
しおりを挟む「こちらでお過ごしください」
案内されたのは、地下に入ってすぐの牢屋だった。そこは絨毯が敷いてあり、ベッドや家具も揃っている小さな部屋のような牢だった。
「隊長。重罪人は最下層の牢に入れるのが規則では?」
「バカ言え。この方は公爵令嬢でもあるんだ。そんなところに入れて責任が取れるのか?」
そう言ってビオラを中に入るように促す。ビオラがそっと中に入ると、隊長と呼ばれた男はビオラに一礼をして部屋から出て行った。
「静かな場所。レグアンは大丈夫かな」
ベッドの上に座り、膝をギュッと抱え込んでビオラは目を閉じだ。押さえつけられて、自分とは違うところへ連れて行かれたレグアン。窓から飛び出したライ。そして、城外にいるジェレマイア。
全員の顔が脳内をよぎり、不安で胸がいっぱいになった。
座っているベッドはシーツも清潔で、虫もいないようだった。窓がない部屋で、ビオラは時間の感覚も分からずに、そのままじっと座っていた。
「号外!号外!王が崩御された!しかも、犯人はビオラ様らしい!」
「嘘だろう?1枚くれ」
新聞を配りながら声を張りあげる男に、その場にいた人が全員集まる。そして、手に取った新聞を読み、衝撃のあまりその新聞を落とす人さえいた。
「料理人に命令して毒を混ぜったって?しかも、処刑は明日行うって」
号外が皆の手に渡ると、辺りは静かになった。王都の人々は、ビオラが犯罪を犯して死罪になることを受け入れられないようだった。
「何て悪女だ!俺たちの王を殺したんだ。処刑は相応しいだろう!」
新聞を配っていた男が、にやりと笑ってそう叫んだ。彼は皇后からの使いで、ビオラの悪いイメージを植えつけるために叫んでいるのだ。
そんな、まさか。と信じられない思いで皆が黙っていると、嘘だ!と少女が叫んだ。
「そんなことしないもん。だって、私の病気を治してくれた人でしょう?王様を殺す理由だってないよ」
ぎゅうっとワンピースの裾を掴み、少女が泣きそうな顔で言った。彼女は眠り病を発症してしまったが、既にビオラが治療薬を発表していたためすぐに治ったのだ。
「そうよ。アルゼリア様と孤児院に来てくれた時も、炊き出しをしてくれた時も。あの方達はとても親切だったわ。聖女だって、皇后だって、私たちに会いに来たこともないじゃない」
「そうだ。俺たちを救ってくれた人が、そんなことをするわけがない。料理人か誰かが嘘をついているんだ。それなのに明日処刑なんて」
新聞を配った男が慌てて叫ぶ。
「王を殺す指示をビオラ様がしたと、王家が発表しているんだ。間違いはないさ!」
「今日亡くなって、今日犯人が分かるわけない。もっとちゃんと調査をしてもらおう」
男の声に同調する者はおらず、皆は口々にビオラの罪は間違いだと言い始めた。同様の光景は王都のあちこちで起きており、タキアナ皇后の思い通りには動いていない。
「おおーい!ブルクハルト公爵家の方が、全員で馬車に乗って城に抗議に向かっているようだ。俺たちも行こう」
「そうね。きっとみんなで言えば、何かが変わるかもしれない」
王都に暮らす人々は、常に眠り病に怯えていた。突然我が子を奪う眠り病は、王都の人たちの心に深い傷を残していた。そして、ビオラのおかげで治療薬の作り方が発表されたとき、暗闇で包まれていた王都の人々は救われたのだ。
治療薬の作り方を無償で提供したことも、ビオラやアルゼリアが崇拝されている理由でもあった。
王都の平民たち、商人たちが皆で城へと向かった。様子を見るようにしていた人たちも、つられるようにその列に加わる。気がつけば、長い長い行列が、城までずっと伸びた。
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