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救出2

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 コルネリアたちが法国の国境を越え、自国の村に帰る頃には辺りは薄っすらと日が沈み始めていた。

「不思議だわ」

 国境を越えると、あれほど激しかった雨がぴたりと止んだ。びしょ濡れの状態で村へ入ると、村人たちが慌てて村長を連れてきてくれる。

「ヴァルター様!王妃様!何があったんですか?」

 目を丸くして驚く村長の後ろから、乾いた布を持った村長の妻が走ってくる。コルネリアたちは礼を言って体を拭く。

「すまないが、1泊泊まらせてもらいたい」

「もちろんそれは大丈夫です。質素な寝床と食事になってはしまいますが、それでよろしければ。それよりも!奥で着替えてください」

 村長の家に案内をされ、コルネリアとリューイは2階の部屋に通される。すぐに村長の妻が、着替えの服を持って部屋に来てくれた。

「上等なものではないので、申し訳ないのですが」

「貸していただけるだけで、とてもありがたいですわ。ありがとうございます」

 コルネリアが微笑んでお礼を言うと、村長の妻は飛び上がらんばかりに驚く。

「王妃様。お声が出るようになったのですね」

「ええ」

 返事をしたコルネリアが寒気を感じ、ぶるっと震えると村長の妻は慌てて部屋から出ようとした。

「すぐに出ますので、着替えてください」

 ぱたん、と村長の妻が出ていくと、コルネリアが受け取ったワンピースをリューイに手渡す。ざらりとした手触りの服は確かに質は高くなさそうだが、質素に暮らしてきた二人にとっては特に気にならない。

「さあ。リューイ。着替えたら話を聞かせて」

 コルネリアから服を受け取ったリューイが頷く。アイボリー色のワンピースに袖を通し、借りた布で髪の毛を拭く。

 簡単に身支度を整えたコルネリアとリューイが階段を降りると、1階にヴァルターたちが集まっていた。

「レオンハルト様!お気づきになられたのですね!」

 椅子には第三王子のレオンハルトも座っており、リューイが駆け寄る。

 村長のこぢんまりとした部屋の居間は、兵士たちがいるととても窮屈だ。ヴァルターがクルトの方へ目配せをすると、クルトが5人の兵士を連れて外に出た。

 これから大切な話が始まる、と気がついたら村長とその妻も、頭を下げて自分の家から出ていった。

「コルネリア。ここに座ってこれを飲むといい」

 ヴァルターが隣の椅子をひいて、コルネリアを手招きする。テーブルの上には、温かそうに湯気が立つコップが置いてあった。

「村長の奥さんが湯を入れてくれた。温まるぞ」

「ありがとうございます」

 まだ体の芯が冷えているように感じていたコルネリアは、コップのお湯をそっと口に含んだ。

「さて。自己紹介がまだだったな。私はネバンテ国の国王をしているヴァルターだ。コルネリアについては、説明はいらないだろう」

「初めまして。ネバンテの国王。僕は法国第三王子のレオンハルトだよ。今回は僕たちを救ってくれてありがとう」

 レオンハルトがそう言って軽く頭を下げる。

「コルネリアの意思に従っただけだ。礼ならコルネリアに」

 ヴァルターの無愛想とも取れる返事にコルネリアが慌てると、レオンハルトはコルネリアにウインクをして笑顔をみせた。

「コルネリア。どうもありがとう」

(――相変わらず、何を考えているか分からない方ですわ)

 コルネリアが少し顔を引き攣らせてそう思うと、ふざけていたレオンハルトが真剣な表情を浮かべた。

「兄であるパトリックがクーデターを起こしたよ。共犯者で支援者は、我が国の宰相さ」

「宰相といえば、パトリック様のお祖父様に当たる方ですわね」

 パトリックとレオンハルトは、母親が違う。パトリックの母は現王妃で宰相の娘だが、レオンハルトの母は側室で子爵家の娘だ。しかも、レオンハルトの母はすでに亡くなっている。

 水色の髪と目を持つレオンハルトは、生まれながらに次期国王が決まっていた。しかし、王宮内で権力を持つ王妃は、パトリックを王にしたかったのだ。

「父と二番目の兄さんは、一緒に牢屋に捕まっていると聞いた。反対派の貴族や神官も、おそらく抵抗してなければ捕まっているんだと思う」

「聖女たちは?」

 コルネリアの言葉には、リューイが答えた。

「不穏な気配を感じていたユーリエ様が、修行と偽って全員を領土へ避難させてくれています。国にとどまると危ないから、みんなを連れてカタリーナ姉さんの国に行くって言ってました」

 リューイの言葉にほっと胸を撫で下ろす。

(――みんなでカタリーナ姉さんの国まで移動するのは大変だけど、きっと女神様が私を導いてくれたように助けてくださるわ)

「これからのことだが。どうするつもりだ?」

 ヴァルターの言葉にレオンハルトが黙る。なんとかパトリックからは逃げ切ることができたが、今法国に戻れば確実に殺されるだろう。また、リューイは帝国へ無理やり嫁がされるはずだ。

「ヴァルター様。よろしいでしょうか?」

 コルネリアが発言をすると、ヴァルターが頷き全員がコルネリアを見た。

「レオンハルト様は、女神様が認めた法国の次期国王ですわ。女神様は必ず第三王子を保護するように、と言われるはずです。私たち聖女は女神様の意思に従いたいと思っていますわ」

「私もコルネリアさんと同意見です。付け加えるならば、レオンハルト様が万が一にでも亡くなると、女神様の怒りは世界中に及ぶと思います」

 リューイの言葉にコルネリアがぞっとして、身を震わせる。女神をよく知る二人の聖女は、第三王子が死ねば世界中に神罰を行う女神の姿が容易に想像できた。

「今は公にレオンハルト殿を支援するとは言えない。だが、内密に保護することはできる」

「ヴァルター殿。感謝する」

 レオンハルトがそう言うと、彼の隣で静かに座っていたホルガーが安堵のため息を漏らした。

 コルネリアたちは村で一泊すると、次の日には無事ヴァルターの屋敷がある首都へと帰ることができた。
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