蔑まれた悪女は極上令息に溺愛される

葵 遥菜

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ヴァレンティーナとレオ

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 場所は変わってこちらはヴァレンティーナの私室。

 父親の配下の三人が屋敷の中でも常に護衛として付き従っているので、彼女はその護衛たちに本日の顛末を話して聞かせていた。

「おかしいわよねぇ? 私、間違っていないわよねぇ? だから、頭をかち割って差し上げたほうがいいのかしらと思って……」
姐御あねご……! 頭かち割って差し上げるのは私がいたします!」
「私が!」
「いえ、私が!」
「「どうぞ、どう……」」
「お黙りなさい」
「「「イエス、マァム!」」」

 どうやら、ヴァレンティーナの少し変わった物言いは、この護衛トリオが仕込んだものらしい。

 心根は優しいし、腕っ節はいいし、荒事にも慣れているのだが、そのためなのか少しばかり口が悪い。
 幼い頃から共に過ごした時の長さがヴァレンティーナの言葉使いに表れていた。
 
「『姉御』という呼び名は常識的には間違っていますわ。『お嬢様』とお呼びなさい。何度言えばわかるのかしら? お馬鹿さんたちね」
「「「イエス、マァム!」」」

 そして少し、なんだかズレているのがヴァレンティーナである。

「あと、あなたたちのさっきのやりとりは何かしら? ……常識?」


✳︎✳︎✳︎


 ここに常識にとらわれない男がいた。

 男の名は自称レオ・アダム。

 大規模な水害の被害を受けた穀倉地帯で復興支援を行っていたのだが、一ヵ月前に王都まで戻ってきたところである。
 
 彼は尋常ではない顔の良さのため、様々な女性と付き合っては別れてを繰り返していた。
 
「私のこと好きじゃなかったの!? じゃあ、どうして結婚しようなんて言うのよ……!」

 ひと月前に王都に帰ってきたばかりなのに、もうそこに住む女性と別れ話をしているらしい。
 
「もちろん好きだったし、結婚したいって本気で思ってたさ。君が僕じゃない誰かと浮気をしてるって知るまではね。不誠実な女性とは結婚できないから、別れてほしい」
「……だって、あなたが仕事ばかりしてるから寂しくてつい……あなたのせいよ。責任とって結婚してよ……私が好きなのはあなたなのよ……」
「いや、それは……。論理が破綻しているって自分でわかっているだろう? でも、仕事もあなたも大切だったのに、それを伝えきれていなかった僕にも反省するところはあるよね」

 女性はテーブルを見つめていた顔を上げて、男に期待の視線を寄せる。
 
「でも、ごめんね。あなたを妻にはできない。お互い、この失敗を次に活かそう。じゃあね。さようなら」
「…………」
 
 女性は泣き崩れていた。
 レオにとっては一度好きになった女性なので、心が痛まないでもなかったが、仕方ないと自分に言い聞かせた。

――僕は君との将来のために忙しくしていたし、そのことは伝えていたはずだけど。聞いてるようで聞いてなかったんだな。彼女のそういうふわふわしたところも可愛く思っていたけど、こうなってしまった今は、欠点にしか思えないなぁ。

 レオは女性と話していたカフェを出て、王都の街をあてもなく彷徨さまよい歩いた。
 
――女性たちはみんな揃いも揃って感情的で……もう少し理性的に話ができる人はいないものか……。

 レオは、実家から長男が結婚するから戻ってこいと言われていた。しかし、戻ってしまったが最後、家のための結婚をするしかなくなるだろうことが想像できた。
 
――そうだ。契約婚約なんてどうだろう? 好きな人ができるか期限がきたら解消できるように……。利害が一致する相手と契約を結べばいい。

 街を歩けば、「悪女がついに婚約者から婚約破棄を申し出られたけど、それを拒否した」とそこかしこで噂されている。

――そうだ。彼女なら……!
 
 レオは計画を練るため仮住まいへと戻ることにした。
 
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