婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます

葵 遥菜

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卒業パーティー②

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「大丈夫ですよ、お嬢様。私がついております」

 その言葉にアナベルは安心して、足から崩れ落ちそうになった。卒業パーティーで急に婚約破棄を言い渡され、身に覚えのない罪を認めて謝れと迫られ、それでも気丈に振る舞っていたが、もう限界だったのだ。
 エリオットが来てくれたならもう大丈夫だ。
 安心したら目に涙が浮かんできた。

 エリオットはそんなアナベルを守るように背に庇い、イーサンに訴える。

「か弱い女性をこのような公の場で好奇の目に晒しながら追い詰めて。これこそ王太子殿下が非難していた『いじめ』ではないのですか?」

 エリオットは今にもくずおれそうなアナベルを支えながらそう断じた。

「これは我が国の問題だ。他国の王族であるあなた様が干渉するおつもりなら正式に抗議をさせていただきますよ」
「一向に構いませんが。この国の王となられるお方は随分喧嘩っ早いご様子。こちらもきちんと国に報告させていただきますね」

 にこりと微笑んでエリオットが言うと、イーサンは羞恥に顔を赤くした。

「私は無関係ではないからここにいるのですよ。もちろん国にいる我が国王陛下には許可を得ていますし、貴国の国王陛下にも滞在許可をいただいていますよ。当然、今日この場に参加する許可もね」

 王太子なのに知らないのか、そんな含みを言外に読み取ってイーサンは憤慨する。
 プライドが高い男なのだ。

「全て父上から聞いている! だから、なぜ関係ないはずのあなたが私とアナベルの話に口を出されているのかを尋ねているのです」

 かろうじて丁寧な言葉は使っているが、無礼な物言いはエリオットに対する苛立ちを隠しきれていない。器の小さい男なのだ。
 エリオットは笑いを堪えながら質問に答える。

「それは、先程も申し上げましたが私に関係あるからですよ。私は今しがたをもってこちらのアナベル・ハワード侯爵令嬢の婚約者となったのですから」
「……! どういうことだ、アナベル! お前は私に隠れてこの男と情を交わしていたのか!」

 イーサンは自分より弱い立場であるアナベルに問いただした。プライドが高く器の小さな男なので。
 ちなみに、他国の王族を「この男」と称した不敬には気づいていない。

「違いますよ。婚約者がいながらエリーナ嬢と情を交わしたイーサン殿下とアナベル嬢を同列に扱わないでいただきたい」
「なんだと!?」

 イーサンはエリオットの方に顔を向けて激昂する。敬語が抜けている。相手は他国の王族なのだが……以下略。

「そう。いまあなたと話をしているのは私です。アナベル嬢を不必要に威圧しないでください」

 イーサンにこのように声を荒らげて怒鳴りつけられたことも、「お前」と憎しみを込めた口調で呼ばれたことも初めてだったので、アナベルは顔を真っ青にして、ぎゅっと目をつぶって一人恐怖に耐えていた。

「す、すまない……」

 イーサンはアナベルのその姿を目にしてやっと我に返ったようだった。

「ええ。非常に不愉快ですね。私の可愛い婚約者をありもしない罪で裁こうとした上にこのように怯えさせて。可哀想に」

 エリオットは震えるアナベルの身体をそっと抱き寄せる。もう婚約者なのだ。これくらいは許されるだろう。エリオットは幸せに打ち震えていた。

 冷静に戻ったイーサンはエリオットに問いかける。

「その、アナベルがエリオット殿下の『婚約者』とはどういう意味なのですか? アナベルは書類上はまだ私の婚約者のはずです」
「いいえ。アナベル嬢は書類上でも正真正銘、私の婚約者です。人の婚約者を呼び捨てにするのは褒められた行いではないと存じますが」
「……アナベル嬢は書類上はまだ私の婚約者のはずです」

 イーサンは言い直した。
 エリオットは、他の女性と恋仲になっているくせに、婚約者への執着心をも垣間見せるイーサンが滑稽に見えた。

「もしイーサン殿下がアナベル嬢に『婚約破棄』を申し出るようでしたら、私が婚約者となれるよう手配をしてあったのですよ。イーサン殿下のご両親とうちの両親、アナベル嬢のご両親も了承済みです」

 すべて根回しは終わっていたようだ。さすが頼れる従者、エリオットである。アナベルは頼もしい婚約者の腕から抜け出し、しっかりと自分の足で立ってイーサンに対峙する。

(エリオット、守ってくれてありがとう)

 アナベルの目礼に応え、エリオットは蕩けそうな笑みを浮かべる。
 周りの淑女たちはきゃあきゃあとちいさな歓声を上げていた。

「私もその内容で了承しました。王太子殿下が婚約破棄を言い渡されたその瞬間に、あなた様と私の婚約は効力を失い、私の婚約者はエリオット様になったのです」

 それまで黙ってイーサンの影に隠れて成り行きを見守っていたエリーナが、ここで声を上げた。
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