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卒業パーティー④
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映写機に王立学園の階段が映る。エリーナがアナベルに突き落とされたと主張している現場となった場所だ。
「これ、王立学園の階段ですわね」
「エリーナ嬢が突き落とされたところじゃないか?」
ひそひそと様々な会話がなされる中、映像の中にエリーナと黒いローブを着た人物が現れた。
『あなた、ここから私を突き落としてちょうだい』
『エリーナ嬢、それはいくらなんでも危険です。命を危険に晒すような真似は私にはできません』
『だから、死なないように調節して上手く突き落としてと言っているのよ』
『そんなことは不可能です。階段から落ちるなんて危険な真似はおやめください』
『危険だから意味があるのよ。私がこんなに頑張ってありもしないいじめの証拠をでっち上げているのに、イーサンったら私を慰めるばかりでいつまで経ってもアナベルとの婚約を破棄しないんだもの』
『それはアナベル嬢があなたより優秀だからでしょう。彼女よりも勉強を頑張ってあなたの能力を認めてもらえば済む話では?』
『何言ってるのよ。そんな面倒臭いことできるわけないじゃない。そんなことしなくても今だってイーサンは私に骨抜きだし、聖女は国民の人気も絶大だもの。だから、罪を被せてアナベルさえ追い出すことができれば私はイーサンの一人だけの妻になれるのよ。そっちの方が簡単でしょう。ふふ』
『だからといって私にそのようなことはできません』
『何よ。臆病者ね。いいわ。私が自分で落ちるから、あなたは目撃者になってちょうだい。エリーナがアナベルに突き落とされるところを見た、って言うだけの簡単なお仕事よ』
『だめです、危険です!』
『うるさいわね、黙りなさい! あんたは目撃証言だけすればいいんだから簡単でしょう!? 痛い思いをするのは私なんだからね。わかった!? これは命令よ。逆らったらアナベルの命はないから』
『……』
『じゃ、そういうことでよろしく』
そこで映像は切れた。
その後のことはこの会場にいる全員が知っている。
みながおそるおそるイーサンとエリーナの様子を窺うと、二人は対照的な様子でいた。
イーサンは怒りを通り越して恥ずかしさに顔を真っ赤にしており、エリーナは茫然自失して真っ白になった顔から表情が抜け落ちていた。
「この、私を、侮辱するとは……!」
イーサンはエリーナを睨みつけていたが、エリーナは全てが白日の元に晒されて観念したのか、虚な表情で無言を貫いていた。
「これで私の婚約者の無実は証明されましたね。全てはエリーナ嬢の自作自演だったというわけです。証人はこの会場にいらっしゃる皆様全員です。本人の自白に大勢の目撃証言。誰も文句はないでしょう」
「待って! どうして!? どうしてエリオット殿下がこんなものを……!」
エリオットを諦めきれないのか、エリーナが真っ白な顔のまま必死の形相で追いすがる。
「決まっているじゃないですか。私の『推し』がアナベルだからですよ」
そっと囁かれたその言葉を聞いて、エリーナは察した。婚約破棄を手伝うと言ってエリーナに手を貸してくれた人こそがエリオットだったのだということを。
「あ。あ、あ、ああぁぁぁぁーーー!」
エリーナは欲をかいて自滅したことを理解して、絶望に突き落とされた。エリーナは大人しくしていれば、側妃のアナベルと夫を分け合うことにはなるが、間違いなく王妃になれたはずだった。
イーサンはエリーナの前世において二番目の推しであったが、実物を目にしたら思いのほか素敵だったので、この素敵な人と結婚できるのなら独り占めしたいと思ってしまったのだ。
欲を出してしまったがために、卑怯な手を使ってでもアナベルを排斥したいと願ってしまったがために、エリオットの逆鱗に触れてしまったのだ。
エリオットはそんなエリーナの様子を冷たい目で睥睨した後、一転満面の笑みでアナベルに優しく声をかけた。
「アナベル様。約束通り、私と一緒に隣国へ逃げましょう」
アナベルはかつて愛していた元婚約者に目を向けた。彼は婚約者であったアナベルを蔑ろにして、恋人を作ってうつつを抜かした挙句、その恋人の嘘を真に受けて、罪もない婚約者との婚約を一方的に破棄した上に捏造された証拠によって衆人環視の中断罪しようとしたのだ。
実は、アナベルにとってこのような待遇は初めてのことではない。
アナベルはもう、何度も何度も人生をループしていた。けれど、アナベルにとっての幸せが訪れたことは一度としてなかった。
もう、心は疲弊しきっていた。
アナベルが好きだったイーサンはいないのだ。
アナベルは何度も裏切られ続けた自分の恋心と、今やっと決別できる気がしていた。
アナベルは今日、人生で初めてイーサンから解放されるのだ。
一方、イーサンは『さようなら』と呟かれたアナベルの唇を読み、目を見開いた。
イーサンは確かにアナベルを愛していた。
けれど、愛してはならない立場であるのだと己を戒めていた。
アナベルとの婚約破棄は初めから決められていたことなのだから。経緯は決められていたものとは異なっているが、結果的には予定通りなのだ。
それなのに、実際アナベルに別れを告げられた今、裏切られたような気持ちになっている。この矛盾はどこから来るものであるのか、その正体を掴みかねていた。
「アナベル嬢……私の、妃に……」
イーサンは何を言ってもすでに手遅れであるとは理解していたが、それでも何か言わなければと震える口を動かそうとした。
ようやく出た一言は、自分でも不可能であると何度も確認して納得したはずのものだったが、一番叶えたい願望でもあった。
これは、アナベルへの恋情から目を背けるため、エリーナを利用した自分への罰なのかもしれないと思った。
婚約破棄をするにしても、もう少し穏便にできたかもしれないのに。婚約破棄をせずともアナベルを救う手立てがあったかもしれないのに。イーサンはアナベルとの未来を諦め、努力をせずとも愛を囁き寄り添ってくれる、心地よいエリーナの隣から離れられなくなってしまっていた自分を猛省した。
アナベルらしくないと思ったのに、なぜ、エリーナの言い分を全面的に信じてしまったのか。なぜ、アナベルを責めたてるようにしてしまったのか。なぜ……
今になって反省しても遅いというのに、後悔ばかりが頭を巡る。
イーサンの口から思わず零れ落ちた切なる願望は、掠れていて聞き取れる状態ではなかったのが救いだったかもしれない。
アナベルに追い縋るようなその呟きが彼女の耳まで届くことはなかった。聞こえていたら、エリオットが激怒していたであろうことは想像に難くない。
「はい。エリオット様。約束通り、私を連れて行ってください」
アナベルは、何回目かもわからない繰り返しの人生の中で、やっと現れてくれたエリオットの手を取った。
エリオットとアナベルは、お互いを見つめて微笑み、幸せそうに会場を去って行った。
◆◆◆
実はエリオットは隣国の女王陛下とこの国の王弟殿下との子であり、この国でも王位継承権があることがわかった。
イーサン王太子が廃嫡されたため、エリオットとアナベルはまたこの国に帰ってくることになるのだけれど……それはまた別のお話。
Fin.
「これ、王立学園の階段ですわね」
「エリーナ嬢が突き落とされたところじゃないか?」
ひそひそと様々な会話がなされる中、映像の中にエリーナと黒いローブを着た人物が現れた。
『あなた、ここから私を突き落としてちょうだい』
『エリーナ嬢、それはいくらなんでも危険です。命を危険に晒すような真似は私にはできません』
『だから、死なないように調節して上手く突き落としてと言っているのよ』
『そんなことは不可能です。階段から落ちるなんて危険な真似はおやめください』
『危険だから意味があるのよ。私がこんなに頑張ってありもしないいじめの証拠をでっち上げているのに、イーサンったら私を慰めるばかりでいつまで経ってもアナベルとの婚約を破棄しないんだもの』
『それはアナベル嬢があなたより優秀だからでしょう。彼女よりも勉強を頑張ってあなたの能力を認めてもらえば済む話では?』
『何言ってるのよ。そんな面倒臭いことできるわけないじゃない。そんなことしなくても今だってイーサンは私に骨抜きだし、聖女は国民の人気も絶大だもの。だから、罪を被せてアナベルさえ追い出すことができれば私はイーサンの一人だけの妻になれるのよ。そっちの方が簡単でしょう。ふふ』
『だからといって私にそのようなことはできません』
『何よ。臆病者ね。いいわ。私が自分で落ちるから、あなたは目撃者になってちょうだい。エリーナがアナベルに突き落とされるところを見た、って言うだけの簡単なお仕事よ』
『だめです、危険です!』
『うるさいわね、黙りなさい! あんたは目撃証言だけすればいいんだから簡単でしょう!? 痛い思いをするのは私なんだからね。わかった!? これは命令よ。逆らったらアナベルの命はないから』
『……』
『じゃ、そういうことでよろしく』
そこで映像は切れた。
その後のことはこの会場にいる全員が知っている。
みながおそるおそるイーサンとエリーナの様子を窺うと、二人は対照的な様子でいた。
イーサンは怒りを通り越して恥ずかしさに顔を真っ赤にしており、エリーナは茫然自失して真っ白になった顔から表情が抜け落ちていた。
「この、私を、侮辱するとは……!」
イーサンはエリーナを睨みつけていたが、エリーナは全てが白日の元に晒されて観念したのか、虚な表情で無言を貫いていた。
「これで私の婚約者の無実は証明されましたね。全てはエリーナ嬢の自作自演だったというわけです。証人はこの会場にいらっしゃる皆様全員です。本人の自白に大勢の目撃証言。誰も文句はないでしょう」
「待って! どうして!? どうしてエリオット殿下がこんなものを……!」
エリオットを諦めきれないのか、エリーナが真っ白な顔のまま必死の形相で追いすがる。
「決まっているじゃないですか。私の『推し』がアナベルだからですよ」
そっと囁かれたその言葉を聞いて、エリーナは察した。婚約破棄を手伝うと言ってエリーナに手を貸してくれた人こそがエリオットだったのだということを。
「あ。あ、あ、ああぁぁぁぁーーー!」
エリーナは欲をかいて自滅したことを理解して、絶望に突き落とされた。エリーナは大人しくしていれば、側妃のアナベルと夫を分け合うことにはなるが、間違いなく王妃になれたはずだった。
イーサンはエリーナの前世において二番目の推しであったが、実物を目にしたら思いのほか素敵だったので、この素敵な人と結婚できるのなら独り占めしたいと思ってしまったのだ。
欲を出してしまったがために、卑怯な手を使ってでもアナベルを排斥したいと願ってしまったがために、エリオットの逆鱗に触れてしまったのだ。
エリオットはそんなエリーナの様子を冷たい目で睥睨した後、一転満面の笑みでアナベルに優しく声をかけた。
「アナベル様。約束通り、私と一緒に隣国へ逃げましょう」
アナベルはかつて愛していた元婚約者に目を向けた。彼は婚約者であったアナベルを蔑ろにして、恋人を作ってうつつを抜かした挙句、その恋人の嘘を真に受けて、罪もない婚約者との婚約を一方的に破棄した上に捏造された証拠によって衆人環視の中断罪しようとしたのだ。
実は、アナベルにとってこのような待遇は初めてのことではない。
アナベルはもう、何度も何度も人生をループしていた。けれど、アナベルにとっての幸せが訪れたことは一度としてなかった。
もう、心は疲弊しきっていた。
アナベルが好きだったイーサンはいないのだ。
アナベルは何度も裏切られ続けた自分の恋心と、今やっと決別できる気がしていた。
アナベルは今日、人生で初めてイーサンから解放されるのだ。
一方、イーサンは『さようなら』と呟かれたアナベルの唇を読み、目を見開いた。
イーサンは確かにアナベルを愛していた。
けれど、愛してはならない立場であるのだと己を戒めていた。
アナベルとの婚約破棄は初めから決められていたことなのだから。経緯は決められていたものとは異なっているが、結果的には予定通りなのだ。
それなのに、実際アナベルに別れを告げられた今、裏切られたような気持ちになっている。この矛盾はどこから来るものであるのか、その正体を掴みかねていた。
「アナベル嬢……私の、妃に……」
イーサンは何を言ってもすでに手遅れであるとは理解していたが、それでも何か言わなければと震える口を動かそうとした。
ようやく出た一言は、自分でも不可能であると何度も確認して納得したはずのものだったが、一番叶えたい願望でもあった。
これは、アナベルへの恋情から目を背けるため、エリーナを利用した自分への罰なのかもしれないと思った。
婚約破棄をするにしても、もう少し穏便にできたかもしれないのに。婚約破棄をせずともアナベルを救う手立てがあったかもしれないのに。イーサンはアナベルとの未来を諦め、努力をせずとも愛を囁き寄り添ってくれる、心地よいエリーナの隣から離れられなくなってしまっていた自分を猛省した。
アナベルらしくないと思ったのに、なぜ、エリーナの言い分を全面的に信じてしまったのか。なぜ、アナベルを責めたてるようにしてしまったのか。なぜ……
今になって反省しても遅いというのに、後悔ばかりが頭を巡る。
イーサンの口から思わず零れ落ちた切なる願望は、掠れていて聞き取れる状態ではなかったのが救いだったかもしれない。
アナベルに追い縋るようなその呟きが彼女の耳まで届くことはなかった。聞こえていたら、エリオットが激怒していたであろうことは想像に難くない。
「はい。エリオット様。約束通り、私を連れて行ってください」
アナベルは、何回目かもわからない繰り返しの人生の中で、やっと現れてくれたエリオットの手を取った。
エリオットとアナベルは、お互いを見つめて微笑み、幸せそうに会場を去って行った。
◆◆◆
実はエリオットは隣国の女王陛下とこの国の王弟殿下との子であり、この国でも王位継承権があることがわかった。
イーサン王太子が廃嫡されたため、エリオットとアナベルはまたこの国に帰ってくることになるのだけれど……それはまた別のお話。
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