29 / 46
第三章 偽装婚約?
唯一の存在 side イアン②
しおりを挟む
婚約者に浮気をされて傷心しているリリアーヌ様の信頼を勝ち取り、自然に自分のペースに巻き込んでいくルイナルド殿下の手腕は見事だった。
恋愛に慣れているのかと疑いたくなったが、ルイナルド殿下がリリアーヌ様以外の女性を口説いている姿を見たことはないので、彼女限定で発揮される才能が開花したのだろう。やはりリリアーヌ様はすごいお方だ。
私はなるべく二人の邪魔をしないよう、存在感を消して空気に徹していたが、助けを求められたら適宜サポートさせていただいた。
これも全て無事リリアーヌ様をルイナルド殿下の伴侶として迎えるためである。
しかしその過程で驚くべき事実が判明した。リリアーヌ様は学業面でも非凡なる才をお持ちであることがわかったのだ。
それなのになぜ「ハリボテ令嬢」と呼ばれるに至ったのか……整合性が説明できない。これは調査が必要そうだ。
かくして、ルイナルド殿下はリリアーヌ様を自らの「婚約者」とすることに成功した。名目上でも一度手に入れたのだ。もう二度と逃すつもりはないだろう。私もリリアーヌ様に逃げられないように力を尽くす所存ではあるが、私の出番はなさそうで安心している。
その理由は、ルイナルド殿下御自らを除いたら、国王陛下と王妃陛下も強い味方になってくださっているからだ。
我が国の最高権力者たちがこぞって外堀を埋めにかかっているのだから、リリアーヌ様には王太子妃に収まっていただくほかないだろう。
きっと両陛下もルイナルド殿下にはリリアーヌ様がいないとだめだとご存じなのだ。全力で囲い込みにかかっていて、迫力が怖いほどだ。
リリアーヌ様がルイナルド殿下の砂糖を吐きそうな誘惑にわかりやすく頬を染め、満更でもなさそうなことだけが救いである。
今回、わざわざリリアーヌ様にとって大事な試験の前日にこの婚約披露パーティーを開いたのには明確な理由がある。
その理由もルイナルド様を思って、外堀を埋めてリリアーヌ様を囲い込むために国王陛下が考えられたことだったが、私も気持ちは陛下と同じなので微笑ましく見守ることにした。
ルイナルド様は面白いほど国王陛下の予想通りの行動をとっていて、国王陛下は「狙い通り!」と高笑いなさっていた。王妃陛下も「うまくサポートできてよかったわ」と満足そうに微笑んでいらしたし、平和でなによりだ。
様々な思惑が絡んだ婚約披露パーティーが終わり、その翌朝。
どうなっただろうか、とルイナルド殿下の寝室に向かおうとすると、使用人たちの会話が聞こえてきた。
「ルイナルド殿下とリリアーヌ様、よかったわねぇ」
「ええ。殿下もあの溺愛っぷりですものね。リリアーヌ様もいつもお可愛らしい反応をなさるから……可愛くて仕方ないのでしょうね」
「あのお二人がいらっしゃるならこの国の将来も安泰ね」
「お二人とも穏やかで使用人に対しても平等に接してくださるものね」
「初夜も無事過ごされたみたいですしね……」
「えっ! そうなのですか……?」
「だって……ねぇ」
「殿下がパーティーが終わったら『ご褒美』がほしいってリリアーヌ様にねだっていらしたし……」
「そうそう! リリアーヌ様も恥ずかしそうに承諾されていましたよね!」
「ええ! パーティー会場でも常に二人ご一緒で、一時も離れずに見つめ合っていましたよ!」
「俺、給仕に行くときに聞いてしまったんだが、リリアーヌ様に『今夜はずっと一緒』って流し目する殿下、最高に色っぽかったよ……」
「はいはいはい! 私はさっき部屋から出てきた『事後』っぽい感じの気怠げな殿下見ちゃいました……」
「「「「…………」」」」
「将来安泰ね」
「ええ。将来安泰!」
「お二人のお子さま、楽しみだわぁ……」
「我が国の明るい未来のために、今日も楽しくしっかりお仕えしよう!」
ふふふふ……という幸せそうな含み笑いがそこかしこから聞こえてくる。
確かに正式な婚約者となれば、婚前交渉も容認される。
当の本人たちには全くその気はないし、なんなら徹夜で勉強していたのだが……
婚約披露パーティーのあと、王太子殿下の寝室で、婚約者同士二人きりで夜通し行われたのが翌日の試験対策だというその事実を知る者はわずか。
誤解されたまま、この慶事に王宮中が湧いた。そして国王陛下と王妃陛下が率先してお祝いムードを盛り上げていったため、噂が真実であると皆が思い込んだ。
噂は驚くほど速度を増して貴族たちまで伝わり、一週間もしないうちにほぼ全ての貴族が知るところとなった。
ここに国王陛下の計画は見事完遂された。
ちなみに、あとから聞いた話。リリアーヌ様が入学してきて真っ先に準備していた眼鏡については、彼女から「かけているとかっこいいと以前褒められたことがある」そうだ。
きっと昨夜は眼鏡姿でリリアーヌ様と過ごされただろうことが予想される。私の主君は意外とかわいいところがある人なのである。
恋愛に慣れているのかと疑いたくなったが、ルイナルド殿下がリリアーヌ様以外の女性を口説いている姿を見たことはないので、彼女限定で発揮される才能が開花したのだろう。やはりリリアーヌ様はすごいお方だ。
私はなるべく二人の邪魔をしないよう、存在感を消して空気に徹していたが、助けを求められたら適宜サポートさせていただいた。
これも全て無事リリアーヌ様をルイナルド殿下の伴侶として迎えるためである。
しかしその過程で驚くべき事実が判明した。リリアーヌ様は学業面でも非凡なる才をお持ちであることがわかったのだ。
それなのになぜ「ハリボテ令嬢」と呼ばれるに至ったのか……整合性が説明できない。これは調査が必要そうだ。
かくして、ルイナルド殿下はリリアーヌ様を自らの「婚約者」とすることに成功した。名目上でも一度手に入れたのだ。もう二度と逃すつもりはないだろう。私もリリアーヌ様に逃げられないように力を尽くす所存ではあるが、私の出番はなさそうで安心している。
その理由は、ルイナルド殿下御自らを除いたら、国王陛下と王妃陛下も強い味方になってくださっているからだ。
我が国の最高権力者たちがこぞって外堀を埋めにかかっているのだから、リリアーヌ様には王太子妃に収まっていただくほかないだろう。
きっと両陛下もルイナルド殿下にはリリアーヌ様がいないとだめだとご存じなのだ。全力で囲い込みにかかっていて、迫力が怖いほどだ。
リリアーヌ様がルイナルド殿下の砂糖を吐きそうな誘惑にわかりやすく頬を染め、満更でもなさそうなことだけが救いである。
今回、わざわざリリアーヌ様にとって大事な試験の前日にこの婚約披露パーティーを開いたのには明確な理由がある。
その理由もルイナルド様を思って、外堀を埋めてリリアーヌ様を囲い込むために国王陛下が考えられたことだったが、私も気持ちは陛下と同じなので微笑ましく見守ることにした。
ルイナルド様は面白いほど国王陛下の予想通りの行動をとっていて、国王陛下は「狙い通り!」と高笑いなさっていた。王妃陛下も「うまくサポートできてよかったわ」と満足そうに微笑んでいらしたし、平和でなによりだ。
様々な思惑が絡んだ婚約披露パーティーが終わり、その翌朝。
どうなっただろうか、とルイナルド殿下の寝室に向かおうとすると、使用人たちの会話が聞こえてきた。
「ルイナルド殿下とリリアーヌ様、よかったわねぇ」
「ええ。殿下もあの溺愛っぷりですものね。リリアーヌ様もいつもお可愛らしい反応をなさるから……可愛くて仕方ないのでしょうね」
「あのお二人がいらっしゃるならこの国の将来も安泰ね」
「お二人とも穏やかで使用人に対しても平等に接してくださるものね」
「初夜も無事過ごされたみたいですしね……」
「えっ! そうなのですか……?」
「だって……ねぇ」
「殿下がパーティーが終わったら『ご褒美』がほしいってリリアーヌ様にねだっていらしたし……」
「そうそう! リリアーヌ様も恥ずかしそうに承諾されていましたよね!」
「ええ! パーティー会場でも常に二人ご一緒で、一時も離れずに見つめ合っていましたよ!」
「俺、給仕に行くときに聞いてしまったんだが、リリアーヌ様に『今夜はずっと一緒』って流し目する殿下、最高に色っぽかったよ……」
「はいはいはい! 私はさっき部屋から出てきた『事後』っぽい感じの気怠げな殿下見ちゃいました……」
「「「「…………」」」」
「将来安泰ね」
「ええ。将来安泰!」
「お二人のお子さま、楽しみだわぁ……」
「我が国の明るい未来のために、今日も楽しくしっかりお仕えしよう!」
ふふふふ……という幸せそうな含み笑いがそこかしこから聞こえてくる。
確かに正式な婚約者となれば、婚前交渉も容認される。
当の本人たちには全くその気はないし、なんなら徹夜で勉強していたのだが……
婚約披露パーティーのあと、王太子殿下の寝室で、婚約者同士二人きりで夜通し行われたのが翌日の試験対策だというその事実を知る者はわずか。
誤解されたまま、この慶事に王宮中が湧いた。そして国王陛下と王妃陛下が率先してお祝いムードを盛り上げていったため、噂が真実であると皆が思い込んだ。
噂は驚くほど速度を増して貴族たちまで伝わり、一週間もしないうちにほぼ全ての貴族が知るところとなった。
ここに国王陛下の計画は見事完遂された。
ちなみに、あとから聞いた話。リリアーヌ様が入学してきて真っ先に準備していた眼鏡については、彼女から「かけているとかっこいいと以前褒められたことがある」そうだ。
きっと昨夜は眼鏡姿でリリアーヌ様と過ごされただろうことが予想される。私の主君は意外とかわいいところがある人なのである。
123
あなたにおすすめの小説
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
結婚前夜に婚約破棄されたけど、おかげでポイントがたまって溺愛されて最高に幸せです❤
凪子
恋愛
私はローラ・クイーンズ、16歳。前世は喪女、現世はクイーンズ公爵家の公爵令嬢です。
幼いころからの婚約者・アレックス様との結婚間近……だったのだけど、従妹のアンナにあの手この手で奪われてしまい、婚約破棄になってしまいました。
でも、大丈夫。私には秘密の『ポイント帳』があるのです!
ポイントがたまると、『いいこと』がたくさん起こって……?
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。
ねーさん
恋愛
あ、私、悪役令嬢だ。
クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。
気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる