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第四章 逆行の真相

結果

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――よし。今日の私もばっちりだ。

 そう暗示をかけて出かける準備を終えた。

 今日は先日受けた試験の結果が掲示される日である。順位は学年別に総合と教科別に分けて発表されるが、いずれも上から十位までしか記されない。したがってそこに名前が載ることは学生にとって大きなステータスとなるのだ。それと同時に奨学生の表彰もその場で行われるので、試験結果の掲示は学生生活の中でも重要なイベントとなっている。
 
 提出した各教科の解答用紙は既に各自返却されているので、皆自分の点数はもちろん把握している。
 私の点数はとてもよかった。どの教科もほぼ満点だった。ルイ様の最後の指導で、的を絞って学んだところがピタリと嵌り、気持ちよく解答することができたことが最大の要因だと思う。

――あとは、奨学生に選ばれれば完璧だわ。ルイ様にたくさん協力してもらったから、絶対選ばれて、ルイ様に誇らしく思ってもらいたい……!
 
 考えてしまうのは、ルイ様はいつも何をしても完璧で、どこまで私をときめかせるのだろうかということ。私は毎日のようにきゅっと絞られるように甘く痺れる胸の上に手を置く。痛い。こんなふうに相手を想うだけで痛みを伴う恋をしたのは初めてだ。

――でも、全然嫌じゃない。
 
 ルイ様のことを考えると胸が苦しくなる感覚も、ルイ様が私に教えてくれたものだと思えば途端に愛おしくなる。このまま私はこの先も毎日ルイ様に恋をして過ごすのだろう。

 ドレッサーの鏡に映った私を鏡越しに眺める。そこには、ルイ様のあの美しい瞳に「私らしい私が映るように」と試行錯誤しながら仕上げた自分がいる。

――ルイ様は決して外見に左右されるような方ではないけれど……。

 だから、難しかった。
 今までは「きみは淡い色の服が似合う「かわいらしい雰囲気が似合う」「髪は下ろしているほうが似合う」……。そう言って自分の好みを伝えてくれるクラウスの言う通り、私を着飾ってきた。今はもう彼の好みに合わせる必要はないから、自分が好きな私になろうと決めた。けれど、物心ついたときには既にクラウスの好みに合わせていたので、どういう私が「私らしい」のかがわからなくなってしまったのだ。
 だから、今までは化粧や髪のアレンジなど、身支度は全て侍女のシエンナにお任せしていた。それでいいと思っていた。けれど、ルイ様への気持ちを自覚した今は違う。

――私が、私自身で創り上げたリリアーヌを、ルイ様に好きになってもらいたい。

 そう思って、試行錯誤した結果が今の私。

 毎朝いつもより少しだけ早起きして、自分で化粧やヘアアレンジをするようになった。まずは私が好きになれる私を探して。いつも私の身支度を手伝ってくれる侍女のシエンナは頑なに「私がやります」と言ってくれたけれど、「私がそうしたいから」と説得して渋々役目を譲ってもらった。もちろんお給料を減らしたりはしないから心配は無用なのだけれど。
 数日すると、だんだんそれが楽しくなってきた。義務のように感じていた身支度が、趣味を楽しむようにわくわくする時間に変わった。こうして自分の手入れを自分でして、ルイ様に会いに行けるのが嬉しかった。会うたびに髪型や化粧が変わる私に、いつもルイ様は気づいてくれた。いつも褒めてくれるから、一週間たってもルイ様の好みは傾向すら掴めず仕舞いだったけれど。

 
 その日はこの一週間を振り返っても一番好きだと言える仕上がりだった。元々クラウスのために美容の勉強は人一倍していたのだから、知識だけは豊富にある。その中からいろいろチョイスして試してみたけれど、この私が一番私好みだ。自分で好きになれる自分を探すなんて笑ってしまうけれど、ルイ様はそう話したら柔らかく笑って肯定してくれた。

「大事なことだね。応援してるよ。私にはどんなリリアーヌも魅力的に見えるだろうけどね」

 ルイ様にもらった大切な言葉を思い出しながら、いつも以上に気合を入れて迎えたその日。中庭で行われた試験結果掲示の場で、私は総合一位として発表されるとともに、奨学生としても表彰された。その場にいた多くの学生が私の功績を拍手でたたえてくれて、涙が溢れそうになった。
 
 少し離れた木陰で存在を隠すようにして佇むルイ様を、私は多くの人の中からすぐに探し出していた。

「おめでとう」
 
 遠目からでも、ルイ様が微笑んでそう口を動かしているのが見えた。お陰様で私の目に溜まっていた涙のダムは決壊した。けれど、表情は喜びでいっぱいだったと思う。呟いた「ありがとうございます」も、ルイ様にちゃんと届いていればいいなと思う。

 ルイ様とのデートはその翌日の予定だった。

――部屋に戻ったらすぐに目を冷やさないと。

 目が腫れて戻らなくなってしまうから、「涙よこれ以上出てくれるな」と願いながらその日を終えることになった。

 この日の私は、全てが順調で浮かれに浮かれていた。それこそ自分が物語の主人公にでもなったみたいに気分が高揚していた。
 
 このあと現実を突きつけられることを、このときの私はまだ知らなかったのだ――。
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