桜の勇者~異世界召喚されたら聖剣に選ばれ、可憐な少女が自分を頼ってくるので守ることにした~

和美 一

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第6章:リアライド王国・入国編

第66話:剣鬼ルゼ その2

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 黄金の光刃と灼熱の紅蓮刀が真っ向からぶつかり合う。一合。そのぶつかり合いの結果は……。



「くっ……!」



 炎を纏った太刀に押されて聖桜剣が押し戻される。すぐさま追撃の二撃、三撃と太刀を振るってくるルゼの攻撃をなんとか聖桜剣で捌く。

 一合、二合と受け止める度に太刀に込められた力の強さが剣越しに伝わってくる。その重い一撃をルゼは超高速で放ってきた。

 速度はメリクリウスの短剣捌きよりも上、一撃一撃に込められた重みはメリクリウスの短剣と比べ物にならない。

 押し寄せる炎刃の嵐をナハトは必死で受け止めた。ルゼはそんなナハトの様子に口元を笑みの形に歪める。



「そうだ! もっともってくれよ、桜の勇者! あっさり死なれたんじゃつまらんからな!」



 その言葉と共に剣撃の嵐が再開される。凄まじい勢いの攻撃をナハトはなんとかしのぎきる。

 聖桜剣の想力は既に限界まで引き出している。それでも耐えるので精一杯だ。

 ルゼは再度、紅蓮の太刀を聖桜剣に叩き付けると、何を思ったか後ろに飛び距離を取った。

 ナハトが荒い息を吐く。ルゼは息一つ乱していないようだった。



「斬り合うだけではつまらんからな……こういうのはどうだ!」



 ルゼは炎を纏った太刀を振るう。そこから炎が吹き出し、ナハトに向かって飛ぶ。

 ナハトは慌てて聖桜剣を振るう。そこから黄金の波動が放たれ、真紅の炎と黄金の波動は宙空でぶつかり合い、消滅した。満足気にルゼは笑う。

 「次はこうだ!」と叫び、太刀を地面に突き立てる。地面から炎の壁のようなものが出現し、ナハトに向かって地を走る。

 地を走る炎はナハトを包囲するように地を走ると全方位から迫る。ナハトは聖桜剣に力を込めた。

 聖桜剣から、黄金の光刃から黄金の波動が全方位に向かって放たれ、迫り来る炎を全て掻き消す。

 自分の攻撃が防がれたというのにルゼは楽しげだ。



「ふははっ! そうではなくてはな! 流石だよ、桜の勇者!」



 自分を称賛する声もこの状況では苛立ちしか生まない。

 全く、メリクリウスといい、このルゼという男といい、戦うことの何がそんなに楽しいのだ? ナハトにはさっぱり理解できない。

 そんなナハトの思いにも関わらずルゼは再び距離を詰めてきた。

 紅蓮の太刀による連続攻撃が再び放たれる。慌てて聖桜剣で対応する。

 超高速の剣技になんとか速度を付いていかせて、必死で放たれる剣筋を受け止める。

 兎にも角にも隙を見つけて反撃を繰り出そうと虎視眈々と耐えるナハトであったが、この男、攻撃に全く隙がない。

 縦横無尽、自由奔放に太刀を振るっているように見えて、その実、その軌跡は全て計算づくのもの。付け入る隙というものが全く生まれていないのだ。どうする……?

 一旦、ルゼの攻撃が止んだ。その隙を見逃さずナハトは攻撃を仕掛ける。防戦に徹していたからいいようにやられたが、こちらから攻撃を仕掛けるのなら話は別のはずだ。

 ナハトは黄金の光刃と化した聖桜剣を振るい、ルゼの斬り掛かる。袈裟懸け、逆袈裟、横払い、突き。

 それら全ての攻撃をルゼは太刀で受け止め、あるいは弾き返してみせる。「フン!」とルゼが鼻を鳴らす。



「なかなか激しい攻撃だ。それくらいはやってくれないとな」



 ルゼは余裕の笑みを浮かべてナハトの振るう剣技を受け止めて見せる。この男が防戦だけに徹するはずはなかった。

 ナハトの攻撃の手が止んだ隙を見計らって炎の太刀を繰り出し、攻撃してくる。

 ナハトはそれを受け止め、攻撃と防御を同時に行い、ルゼと斬り合い続けた。

 どちらも相手に致命的なダメージは与えられていない。ともすれば戦況は互角に見えるが、ナハトは自分が押されているということを感じていた。

 このルゼという男の剣技は尋常なものではない。手にしている幻想具も相当に質の高い物だろう。圧倒的な力量と優れた幻想具の組み合わせが異常な力を生み出すのは以前のメリクリウスを見て分かっている。

 だが、この男はそのメリクリウスさえ遥かに上回る力量の持ち主なのだ。

 メリクリウスは聖桜剣のさらなる力を解放したナハトで倒すことができたが、この男は聖桜剣の想力を全開にして戦っているというのに拮抗を保っている。



「お前……何者だ……!?」



 剣と太刀がつばぜり合い、真っ向からぶつかり合った際にナハトはそう訊ねる。ルゼはフン、とつまらなさそうに鼻を鳴らし、しかし、答えた。



「言ったはずだ、オレはルゼ。ヴァルチザンのルゼだ」

「ヴァルチザンの……!? ゴルドニアース傭兵団じゃないのか!?」

「そういうことになる……な!」



 言葉と共にルゼは太刀を押し出してくる。勢いに負けナハトは後ろに下がる。

 ルゼは追撃を仕掛けては、こなかった。その場に立ち、ナハトに視線を向けてくる。



「ちまたのヤツらはオレのことを剣鬼だなんて呼ぶが、そんな称号はどうでもいい。オレは強いヤツと戦えればそれでいいんだ」



 剣鬼ルゼ、か。ナハトは内心で納得した。たしかにこの男の剣技はそれだけの称号で呼ばれてもおかしくないレベルのものだ。

 「さあ、それよりもさっさと続きをするぞ」と言ったルゼに急かされた訳ではないが、聖桜剣を構える。

 再びナハトとルゼは真っ向から激突した。ナハトが聖桜剣を振るう。だが、ナハトは剣の達人という訳ではない。これまでもずっと聖桜剣の力に頼った戦いを続けてきていた。

 勿論、これまでの戦いの経験はナハトに蓄積され、全くの素人と言う程、酷いものではない。しかし、ルゼという剣の達人を前にしては心許ないのも事実。

 大振りな軌跡を描いてルゼに振り下ろされる聖桜剣をルゼは余裕で受け止める。弾き返し、ルゼの太刀が迫る。

 それをナハトは引き戻した聖桜剣で払いのける。なんの手品か、払い除けた次の瞬間には再びルゼの太刀が襲い掛かってきた。

 この超高速の剣技。これがとにかく厄介なのだ。反撃の隙など与えない波状攻撃。

 長い太刀でそれだけの速度の剣撃を繰り出すことができるのはもはや称賛するしかない。

 何合か攻撃をさばいた後、聖桜剣を紅蓮刀が真っ向からつばぜり合った。その時にルゼはこれまでにしなかったことをした。



「炎よ、燃え上がり、そして、爆ぜろ!」



 ルゼのその叫びに答えるように紅蓮刀から想力が解放される。立ち上った炎が爆発に変わり、間近で起きた爆発にナハトは真後ろに吹っ飛ばされた。

 「ぐあ……!」と思わず苦悶の声が漏れる。爆発を受けて両手は火傷していた。

 爆発を巻き起こすこともできるのか。流石は炎を操る幻想具だ。立ち上がると火傷の痛みを堪えて、聖桜剣を構える。

 再びルゼがそこに襲い掛かってくる。これになんとか対応しようとして、手元を焼いた炎の傷跡がたたり、できなかった。

 聖桜剣を振るう手が鈍い。火傷の痛みが腕の動きを鈍くさせる。そんな状態でルゼの剣技に対応できるはずもなく、どんどん押されていく。

 超高速の剣技を次第に捌き切れなくなり、太刀がナハトの右肩を斬り裂いた。鮮血がしたたり、「ぐ……!」と声を漏らす。

 その瞬間、ナハトに最大の隙が生まれた。ルゼは太刀の軌跡を走らせる。それが狙うのはナハトの首……! ナハトは、それを察した。

 慌てて剣筋から逃れようとする。聖桜剣で受け止める……のは間に合わない。ならば避けるしかない。

 ナハトは体ごと倒れ込むようにして左側に転がった。ナハトの首は太刀の軌跡から外れ、太刀は空を斬る。ゴロゴロと転がったナハトは素早く立ち上がると再び聖桜剣を構えた。

 ルゼはそんなナハトを見て、つまらなさそうに鼻を鳴らす。



「フン。お前との戦いは結構、楽しめたがもう終わりだな。オレの勝ちは見えた。さっさと斬り捨てて終わりにしてやる」



 そう言って、ルゼがナハトに向けて太刀を振りかぶろうとし、ハッと何かに気付いたようにナハトのいるのとは別の方向を振り向き、太刀を振るった。

 宙空で太刀が何かとぶつかり合った音が響く。これは……。

 「風の刃……だと?」とルゼが呟く。不可視の風の刃。そんなものを放てるのは一人しかない。



「ナハト殿! 大丈夫か!」



 声がする。グレースの声。

 声の方向にナハトが視線を向けるとグレース、アイネ、イーニッド、イヴ、そして、ドラセナがこちらに駆け付けてくるところだった。

 衛兵が鳴らした鐘の音を聞いて異常を察してやって来てくれたのであろう。ルゼは無表情にそれを見ている。

 その隙にナハトは駆け出し、仲間たちと合流した。

 ナハトが火傷をしており、さらに右肩に刀傷を負っているのを見るとイヴが治癒杖キュアを使ってナハトの傷を癒やしてくれる。

 そうして、戦いに向いていないイヴとドラセナを除いた四人が前に出てルゼと対峙する。

 ルゼはそれを見て楽しげな笑みを見せた。



「お仲間のご登場か。面白い。もっとオレを楽しませてみせろ」



 一対四の圧倒的不利な戦いが始まろうというのにルゼは相変わらず余裕の笑みを崩しはしなかった。

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