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第1話:第一皇女の私が最底辺貴族令嬢と精神入れ替わり!?
しおりを挟むここは神聖アルカディア帝国の宮殿。その一室で私は目を覚ます。
皇女たる私に与えられる部屋は大きく、ベッドも大人が四人は横に慣れるサイズだ。
ベッドの柔らかな感触で目を覚まし、天から垂れている天蓋の隙間を縫って差し込む陽光に目を眩ませる。
私の名はエルミリア・アークライト・アルカディア。このアルカディア帝国の第一皇女である。
鏡を見る。そこには絶世の美女の風貌が映りこむ。
自分で言うのも何だが、私は美人である。帝国中に私の美貌は知れ渡っているし、吟遊詩人たちはここぞと私の美貌を詩に歌う。
胸も大きくスタイルもいい。絶世の美女と言ってもバチは当たらないだろう。
そう思っていると侍女たちが部屋に入り込んで来て私の着替えをしてくれる。
私は寝間着の簡素なドレスから美しい装飾の施されたドレスへと着替え、侍女たちを控えて外に出る。
皇族一同が集まっての朝食の席で豪華絢爛な朝食をマナー良く食べる。そんな私に父上、アルカディア皇帝は口を開いた。
「エルミリア。お主もそろそろ嫁ぐ時だな」
「はい、父上」
そう私の嫁ぎ先は決まっていた。
帝国の中でも一番の大貴族とされるカーレル家。その嫡男であるランスロット・フォン・カーレルの元に嫁ぐ事が決まっている。
ランスロットとは何回も会った事があるが、容姿良く、女性に優しく、紳士的で、偉ぶりもしない。まさに理想の夫と言えるだろう。
そのランスロットの元に嫁げるのなら何も文句は無い。私はこの縁談を喜んで受け入れるつもりであった。
「お主が我が手元から離れていくのは寂しくもあるな」
父上がどこまで本気か分からない事を言ってのける。他の兄上たちや妹たちも同じように口を開く。
「エルミリア、幸せになれよ」
「エルミリア姉上もランスロット殿の元でなら幸せになれるでしょう」
「ありがとう、みんな」
皇室一家全員。この縁談を祝福してくれていた。私もそれに応え、笑みを浮かべる。
まさに満ち足りた人生だ。どこに不満があるというのか。
そう思いながら朝食を終えて、私は自室に戻る。昼食は家族では食べない。婚約者のランスロットと一緒に食べる事になっていた。
ランスロットの端正な美貌を思い浮かべると胸が躍る。
早く時間がこないかな、と思いつつ、部屋で過ごし、ついに昼食の時間になった。
宮殿内に設営された中庭を見渡せる一角で昼食の用意が整っていた。
そこに行くとランスロットが既に来ており、私はランスロットに挨拶をする。
「ランスロット。来て下さったのですね」
「当たり前ではないかエルミリア。私は君の夫となる男だからな」
笑みを浮かべるランスロット。それだけで女性の十人中九人は魅了されてしまうであろう。
ランスロットと共に昼食を食べながら他愛のない話をする。
「ふふふ、エルミリア。そなたは相変わらず美しいな」
「何を仰いますの。そう言うランスロットこそ絶世の美男子でありますわよ?」
「そう言ってくれるとありがたい。絶世の美女、エルミリアに釣り合いが取れるかどうか、常に不安視しているものでな」
そうしてランスロットと甘美なひと時を過ごす。
後の夫となるランスロットに文句などあるはずもない。
私は満足して会談を終え、自室に戻ろうとする。
その途上、階段で下級貴族たちの一団とすれ違った。何の目的があって宮廷に来ていたのだろう。
ここは上級の貴族ならともかく下級の貴族たちが容易に足を踏み入れていい場所はないのに。
そんな事を思っていたのが災いしたのか私は階段から足を踏み外してしまった。
下にいるのは下級貴族の女が一人、私はその女と頭をぶつけて気絶してしまった。
それからどうなったかは分からないが、私はベッドで目を覚ました。
大方、事故を起こして気を失った私を自室に誰かが運んでくれたのだろう。
そう思っていた。しかし、ベッドが狭い。ここは私のベッドなのか? そう思ってお起き上がる。
それまで来ていた豪華なドレスではなく質素なドレスを身に纏っている事に気付く。気を失ったから誰かが着替えさせてくれたのか?
しかし、寝間着用のドレスでもこんなものよりは高級なもののはずだが……。そう訝しむ私に声がかかる。
「ああ、目を覚ましましたか、エリカ様」
その声に不審の念を抱く。
エリカ? 何を言っているのだ。私はエルミリア・アークライト・アルカディアである。断じてエリカなんて名前ではない。
「貴方は……見慣れない侍女ね。新人?」
「何を仰いますか、エリカ様。エリカ様、お付きの侍女ではないですか」
「何を言っているのか分からないけど、私はエリカなんて名前ではないわ。エルミリア・アークライト・アルカディアよ」
私がそう言い切ると侍女は困ったような顔を浮かべた。
「何を仰っているのですか、エリカ様。貴方様の名前はエリカ・ルク・フォーンですよ」
「エリカ・ルク・フォーン?」
私は首を傾げる。フォーン家といえばアルカディア帝国でも最下級の貴族ではないか私がそのフォーン。
「何を言っているのか分からないけど……私はアルカディア帝国の第一皇女・エルミリア・アークライト・アルカディアよ」
「エリカ様。そのような事を仰っていられると不敬罪で斬首されてしまいますよ」
「何を馬鹿な事を!」
侍女の態度に苛ついた私だったが、鏡を見て呆然とする。
そこに絶世の美女の姿は映っていなかった。どことなく田舎臭い雰囲気の漂う茶髪の少女。
胸は小さくスタイルも平坦。絶世の美女と言えば十人中十人が異論を唱えるであろう姿。
「そんな……私、下級貴族の娘と入れ替わってしまったの……?」
そうとしか考えられなかった。
私は現実を受け入れる事が出来ず、しばらく呆然とするのであった。
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