14 / 17
第14話:迫り来る刻
しおりを挟む私、エリカ・ルク・フォーンを懸けて傭兵隊長ルグベドと大貴族の子息ランスロットが馬上試合をする。それはアルカディア帝国内で有名になりつつあった。下級貴族の娘を巡ってどうしてそんな争いをするのかという揶揄する声も勿論あるが、ルグベドもランスロットもそれらを気にした様子はなく、この勝負に勝ち、私と婚姻するべく意欲を燃やしているようであった。
どうしてこうなったのか、と私は思う。いや、全ては私のせい。私がルグベドとランスロットという二人の男性に心惹かれてしまったが故にどちらかを選べなかったからだ。それ故に二人の男性は私を懸けた勝負をするなどという事になってしまったのだ。
こうなった以上、私には見守る事しか出来ない。私がどちらの男性と婚姻するかを決められないのだから二人に決めてもらうしかない。そのための手段として馬上試合という勝負が選ばれたというだけの話だ。
剣術に長けるルグベドと馬術に長けるランスロット。条件はほぼ公平に思える。これなら勝っても負けてもお互いに悔いは残らないだろうか? そうであって欲しいと思う。悔いの残らない試合になればいいと思う。私は結果がどうであれ、その結果に身を委ねる覚悟を決めていた。
ルグベドが勝っても、ランスロットが勝っても、そこにケチを付けたりはしない。勝った方と結ばれる。それだけだ。私はその勝負の日まで落ち着かない日々を過ごす羽目になった。父はランスロットが勝つ事を望んでいるようであった。それはある意味、当たり前だろう。平民のルグベドより大貴族の子息のランスロットと婚姻した方が、後々得られる利益は計り知れない。しかし、そんな理由で結婚相手を決められるのは娘の私の立場からすれば容認し難い事なのである。
どうしてこんな事になってしまったのか。常々、自問する。私が、エルミリアがエリカと精神が入れ替わってしまったのが、そもそもの発端だ。そんな事さえ、なければ私はランスロットと婚姻を結ぶ事が出来た。そこに迷いはなかったはずだ。だが、エリカとなった後、ルグベドと接する内に彼にも好意を抱くようになってしまった。そうなった以上、それまでのように何も考えずランスロットと結ばれるなどという事は躊躇われる。
「ルグベド……ランスロット……私はどうすればいいの……?」
その二人の内、どちらかを選べない以上、二人に勝負してもらい、どちらが私を妻にするかを決めてもらうしかない。勝負の日まで心身穏やかではなかった。こうなった以上、この勝負で全てを決めてもらうしかないのであるが。
ルグベドも、ランスロットもお互いに相手と婚姻を結ぶべき、と私に主張している身であるが、本心では自分が私と結ばれたいという思いを持っている事だろう。それだけにこの勝負で手加減する事は有り得ないと思う。お互いに全力を出し、悔いのない勝負をし、その末に勝った方が私と結ばれる。そのための勝負なのだ。これはケジメというものか。
狂った運命。絡まり合った糸を解くための儀礼行為なのである。それなら私は黙ってそれを見ているしかない。どのような結果になろうともそれを受け入れる。その思いで勝負を見守るしかない。
運命の時は間近に迫っている。それを肌身で感じ取る。ルグベドが勝つのか、ランスロットが勝つのか。ルグベドと結ばれるのか、ランスロットと結ばれるのか。私には分からない。自分でも決められない。だからこそ、このような勝負をしてもらい、勝った方が私と結ばれるという事になっているのだから。
「選べる訳……ないじゃない……!」
ルグベドもランスロットもどちらも素敵な男性だ。個性に違いはあれど、どちらも夫として望ましい事に変わりはない。どちらかを選ぶなど私には出来なかった。そうである以上、この勝負をしてもらうしか方法はない。
勝負の日を、私は待つのであった。
0
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった私は、全力で死亡フラグを回避したいのに、なぜか空回りしてしまうんです(涙)
藤原 柚月
恋愛
(週一更新になります。楽しみにしてくださる方々、申し訳ありません。)
この物語の主人公、ソフィアは五歳の時にデメトリアス公爵家の養女として迎えられた。
両親の不幸で令嬢になったソフィアは、両親が亡くなった時の記憶と引き替えに前世の記憶を思い出してしまった。
この世界が乙女ゲームの世界だと気付くのに時間がかからなかった。
自分が悪役令嬢と知ったソフィア。
婚約者となるのはアレン・ミットライト王太子殿下。なんとしても婚約破棄、もしくは婚約しないように計画していた矢先、突然の訪問が!
驚いたソフィアは何も考えず、「婚約破棄したい!」と、言ってしまう。
死亡フラグが立ってしまったーー!!?
早速フラグを回収してしまって内心穏やかではいられなかった。
そんなソフィアに殿下から「婚約破棄はしない」と衝撃な言葉が……。
しかも、正式に求婚されてしまう!?
これはどういうこと!?
ソフィアは混乱しつつもストーリーは進んでいく。
なんとしてても、ゲーム本作の学園入学までには婚約を破棄したい。
攻略対象者ともできるなら関わりたくない。そう思っているのになぜか関わってしまう。
中世ヨーロッパのような世界。だけど、中世ヨーロッパとはわずかに違う。
ファンタジーのふんわりとした世界で、彼女は婚約破棄、そして死亡フラグを回避出来るのか!?
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体などに一切関係ありません。
誤字脱字、感想を受け付けております。
HOT ランキング 4位にランクイン
第1回 一二三書房WEB小説大賞 一次選考通過作品
この作品は、小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
悪役令嬢のビフォーアフター
すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。
腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ!
とりあえずダイエットしなきゃ!
そんな中、
あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・
そんな私に新たに出会いが!!
婚約者さん何気に嫉妬してない?
【完結】転生したら少女漫画の悪役令嬢でした〜アホ王子との婚約フラグを壊したら義理の兄に溺愛されました〜
まほりろ
恋愛
ムーンライトノベルズで日間総合1位、週間総合2位になった作品です。
【完結】「ディアーナ・フォークト! 貴様との婚約を破棄する!!」見目麗しい第二王子にそう言い渡されたとき、ディアーナは騎士団長の子息に取り押さえられ膝をついていた。王子の側近により読み上げられるディアーナの罪状。第二王子の腕の中で幸せそうに微笑むヒロインのユリア。悪役令嬢のディアーナはユリアに斬りかかり、義理の兄で第二王子の近衛隊のフリードに斬り殺される。
三日月杏奈は漫画好きの普通の女の子、バナナの皮で滑って転んで死んだ。享年二十歳。
目を覚ました杏奈は少女漫画「クリンゲル学園の天使」悪役令嬢ディアーナ・フォークト転生していた。破滅フラグを壊す為に義理の兄と仲良くしようとしたら溺愛されました。
私の事を大切にしてくれるお義兄様と仲良く暮らします。王子殿下私のことは放っておいてください。
ムーンライトノベルズにも投稿しています。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子
ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。
(その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!)
期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる