『こすぷれ』とは一体、何なのだ? 異世界から現代日本に転移した騎士、鎧姿のためコスプレ屋の看板男になる

和美 一

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第36話:メイドさんをはべらせて

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 プールに行った翌日。店頭でリリアと共に鎧姿で客引きのため立っていると、意外な恰好に身を包んだ人物が現れた。
 ルリだ。ルリはメイド服に身を包んでいた。
 メイド服は俺の世界にもあった。どうやらこの世界でもメイド服のデザインが大きく異なることはないようだ。
 ルリはメイド服に身を包み、甲斐甲斐しく俺に話しかける。

「ご主人様、喉が渇いておりませんか?」

 あのプールでの競争の罰ゲームとしてルリは俺にメイドとして仕えることになっている。あんな約束、反故にしてもいいんだぞ、と思いながら、俺は返事をする。

「ま、まぁ、渇いているかな」
「そうですか。リリア様はどうでしょう?」
「わ、私も多少、喉が渇いたかな?」

 そればかりが俺だけではなくリリアにもメイドとしてルリは仕えている。
 少々お待ちを、と言うとルリはこすぷれしょっぷイスルギの中に入っていくと二人分の麦茶を淹れて戻ってきた。
 色々と言いたいことはあるが、ここで喉を潤せるのはありがたい。礼を言い、麦茶を受け取る。

「ありがとう、美味いよ、ルリ」
「いえ、ご主人様が満足されたのなら何よりです」

 そうやってメイドになる必要もないんだけどなぁ、と思いつつ、俺はルリと接する。
 全く、サナめ。とんだ罰ゲームを提案してくれたものだ。リリアも麦茶を飲み、喉を潤したようだ。

「ご主人様、私に何かするべきことはありませんでしょうか?」
「い、いや、今はないかな」
「そうですか。私は店の中に控えているので御用の時はいつでもお呼びください」

 そう言いルリは店の中に入っていく。ふと視線を感じるとリリアが俺を白眼視していた。

「鼻の下を伸ばしているな、ご主人様」

 ご主人様、と嫌味全開で言われた呼称に俺は憤った顔で返す。

「俺が望んでメイドをやってもらっている訳じゃない」
「そうか? それにしては満更でもない表情に見えたが?」
「それは、そうかもしれないけど……」

 ルリのような美少女が自分にメイドとしてうやうやしく仕える。
 それに思わないことがない訳ではない。ちょっと浮かれてしまうのも仕方がないだろう。

「それにしてもメイド服のこすぷれで来るとはな」
「この世界のこすぷれは幅広いのだな」

 後で聞いた所によるとメイド服はナギサから借りたらしい。
 あのご令嬢はこすぷれ用品を一通り揃えているのだな、と呆れるやら感心するやらだ。
 そう思っているとルリがメイド服のまま店から出てきた。

「特に用はないけど……」

 俺はそう言ったが、ルリがはんかちという布地を持って俺に近寄る。

「ご主人様の汗を拭こうかと思いまして」
「い、いや、そんなに汗かいてないぞ?」
「それでもです。私にメイドらしいことをさせてください」

 強引に押し切られ、ルリが俺の鎧姿で素肌が露出している所にはんかちを当てて、汗を拭いていく。
 魔力で薄い壁を体中に張り巡らせているから暑くも寒くもなく、汗もそこまでかいてないのだが、その辺りはルリには関係ないようであった。

「ああ、ありがとう、助かった」

 とりあえず俺はそう言っておく。

「ご主人様のためになれたのなら何よりです。私はここで待機させてもらいますね」

 待機しなくてもいいのだが。そして、計算外の結果として、こすぷれしょっぷの前に鎧姿の男女とメイドさんがいることは大きく集客力を高めているようだ。普段より多くの客が入っていくのを感じる。

「ルリはメイド姿が板についているな」

 思わずそんな称賛がこぼれる。ルリは頬を赤らめた。

「ありがとうございます。お世辞でも嬉しいです」
「世辞なんかじゃないって。ルリによく似合っているよ、そのメイド服」
「そ、そうですか……」

 赤面してルリは俺から顔をそらす。視線を感じればリリアの鋭い瞳と店から出てきたサナの鋭い瞳が俺を見ていた。

「アドニスったらルリをメイドにして上機嫌、ってとこね」
「アドニス殿。あまりデレデレするのもどうかと思うぞ」
「デレデレしてないし、上機嫌でもない。単にルリにメイド服が似合っていると思って言っただけだ」

 サナとリリアの不本意な言葉に俺はそう言い返すもどうだか、とサナは言い、リリアも鋭い視線を止めることはしなかった。

「あの、ご主人様。お褒めいただき大変嬉しいのですが、私はあくまでメイドでしてご主人様にそういう扱いをされるのは……」

 しまいにはルリまでそんなことを言い出した。そういう扱いをした覚えはないのだが。

「い、いや、ルリも嫌ならいいんだぞ? 別に。あんな競争の罰ゲームなんて反故にしても……」
「い、いえ、私は嫌という訳では……」
「そ、そうか……」

 嫌じゃないのか。いや、ここで嫌だと言われれば多少はショックを受けるが、ともあれメイドを側にはべらせている騎士か。どんな騎士だ。

「一週間の間、メイドとしてご主人様にお仕えさせていただこうと思います」

 とりあえずはこの訳の分からない状況が一週間続くということか。俺は曖昧な笑みを浮かべるしかなかった。
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