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第37話:メイド最後の日
しおりを挟む「ご主人様、リリア様、今日も一日お疲れ様でした」
その日の仕事も終わり、日も暮れて俺とリリア、そしてメイド服のルリはこすぷれしょっぷイスルギ、サナの家に戻る。
ようやく一週間が経った。ルリのメイドとして俺に仕えるのも今日が最後だ。
「ルリのメイド服も今日で見納めか」
「あら、残念そうね」
そんなことを呟くとサナが食いついてくる。別に残念とか思って言った訳ではないのだが。
「そういう意味じゃない。単に思いついただけだよ」
「とか言って瑠璃に一週間、奉仕してもらって癖になったんじゃないの?」
「あのなぁ、サナ」
サナの言葉に俺は呆れる。
この一週間。ルリがメイドとして何かと尽くしてくれるのに助かった一面もあるが、どう反応していいのか、困った方が多いというのが正直な所だ。
これで解放される、という思いすらある。
そんなことをサナに語ったが、するとルリは肩を落とす。
「そうですか。私はご主人様に迷惑な存在でしたか」
「あ、いや、そういう意味じゃあないぞ。ルリは充分、俺を満足させてくれた」
「なんだ、やっぱり瑠璃に奉仕してもらって喜んでるんじゃない」
ルリを慰める言葉を発するとその言葉尻をサナに捕えられる。
「アドニス殿……」
リリアにも白眼視される。ええい、どうしろと言うのだ。困った俺は強引に話題を切り替えることにした。
「ルリはこのまま家に帰るのか?」
「いえ、今日はメイドとしての最後の日なのでこの家でちょっとしたご奉仕をさせていただきます」
「へぇ」
よこしまな心ではない。純粋に好奇心が刺激された。ちょっとしたご奉仕、ねぇ。
「今晩の食事は私が皆様に作らせていただきます。お口に合えば良いのですが……」
「ルリが料理を? そりゃ、楽しみだな」
「ふむ。サナも料理はできるが、ルリもできるのか」
俺とリリアの言葉にルリは自信満々といった様子で頷く。
リリアの言う通りサナの料理の腕前は知っているが、ルリもまた料理ができるというのか。
「瑠璃の料理の腕前は私に匹敵するほどよ。期待していいはずよ」
自分のことではないのになぜか自慢げにサナが言う。
ともあれ、それなら期待させてもらおう。そうして、ルリが厨房に入り、しばらくして、美味しそうな臭いが漂ってきた。早くも期待が持てる。
「いやぁ、瑠璃ちゃんにそんなことまでさせて悪いねぇ」
この家の家主、ヨーイチ殿もそう言いつつ、期待感を隠せない。
そうして、ルリは料理をテーブルに配膳した。
メインディッシュはホイルヤキという料理らしい。あるみほいるとやらに包まれた中で白身魚やシイタケが美味しそうに置かれている。
その脇を固めるのは鶏肉の塩焼きに野菜を合わせたもので、ワカメと卵で構成された美味しそうなスープも油断なく置かれている。
これに白米を合わせ、文句の付け所のない晩餐であった。
「おお! 凄いな、ルリ! これだけのものが作れるのか」
「いえ、ご主人様。こんなの大したことありません」
「過度の謙遜は嫌味だぞ? ともあれ、美味そうだ。早速、食おう」
俺の言葉を合図とするようにその場にいる面々はいただきます、と言うとオハシを手に取り、料理に手をつける。
オハシの扱いもだいぶ慣れたものになっていた。
俺もリリアも。まずはホイルヤキの中の魚に手をつける。
美味い。口の中で魚の白身が溶けるようにうま味を溢れさせ、最高の感触を口内に残し、飲み込まれていく。
これは美味い。ケチの付けようもない。
「うん。最高だ!」
「そんなご主人様……」
俺の誉め言葉にルリは頬を赤らめる。
「流石は瑠璃ね。非の打ち所がないわ」
サナもルリの料理には満足したらしく舌鼓を打つ。リリアも黙々と食べており、文句がないのは明らかだ。
「この一週間の締めくくりには丁度いいかもな」
「あら、アドニス。やっぱり、この一週間、楽しんでいるじゃないの?」
「そ、そんなことは断じて……」
迂闊な発言もできやしない。サナにニヤリとした笑みを向けられ、俺は曖昧に笑って誤魔化す。
「まぁ、でもルリには感謝しているよ。この一週間、ありがとな」
「いえ、ご主人様……もうアドニスさんでいいですかね。私としても貴重な体験でした」
そりゃあ、メイド服着てメイドをやるなんてのは貴重な体験だろう。
貴族に奉公に行く際には役に立つ経験かもしれない。
「悪いわね、瑠璃。私の罰ゲームのせいで色々苦労かけちゃって」
「いえ、アドニスさんに仕えるのはそう悪いものでもありませんでした」
何故かルリはサナの言葉に頬を赤らめて返す。何故だ。
ともあれこれでルリの俺への一週間のメイド奉仕は終了だ。名残惜しいようなホッとしたような気分を抱く俺であった。
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