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第1話:ヒート・ブレード
しおりを挟む万能のアイテム屋がある。
そんな噂がまことしやかに囁かれていた。
なんでもその店ではドラゴンの肌をも断ち切る剣があり、ベヒーモスも一撃でノックアウトするハンマーがあるという。
武器だけではなく、魔物の吐く火炎を完全にシャットアウトする鎧や、魔法を弾くマントなど、防具類も揃っている他、傷を治癒する特注製の薬草や状態異常を回復する治癒薬が一通り揃っているという。
誰もがそんな店は有り得ない、と眉唾話だと口にする。しかし、その店は確かにあった。
赤髪の店主の店と言われる店。
コーラル王国の王都の外れ。森にやや踏み入った所でその店は営業していた。
噂をアテに店を訪れたのは冒険者のカークスである。カークスには長年の悩みがあった。
「スライムを倒せる武器をくれないか?」
店に入るなりカークスは言う。店主はそれを聞くと「スライムか」と考え込んだ。
赤髪をした店主であった。髪の毛は肩まで垂らしており、年齢は不詳。外見から年齢をおし測るのは難しい。若くも見えるし、年を取っているようにも見える。そんな男であった。
さて、カークスがスライム相手に手間取っていることを笑うことはできない。スライムは強力な魔物だ。その弾力性のある肌を跳ねさせての突撃は人の腹になど直撃すれば肋骨が折れるし、何より厄介なのはその不死性である。
スライムを斬っても、スライムは死なないのだ。
プラナリアのごとく、2つに分かれたスライムは二匹のスライムとなり、それを斬っても再び2つに分かれる倍々ゲーム。
剣や槍、斧といった物理攻撃には圧倒的な耐性を誇るスライム。
これを防ぐには魔法を行使し、一気に倒すしかないのであるが、カークスには魔法の才能は無かった。
それ故にこの店を訪れたのだ。この店はどんな魔物に対する武器も揃うという伝説のアイテム屋。
ここならカークスも望みのものを手に入れるかもしれない。
そんな期待を持って、カークスは店に訪れた。店主はカークスを一瞥すると、口を開く。
「スライム狩りのための剣ならいい剣がある」
「ほう。それは是非とも欲しいものだな」
「ああ、いいだろう。金貨3枚だ」
剣一本の値段としては高すぎず、安すぎずである。
それくらいなら冒険者のカークスは払える。しかし、その剣が本当にスライムを倒せるかが疑問であった。
「先に剣を見せてくれるか?」
「いいだろう」
そう言い、店主は一本の剣を持ってくる鞘に収められていた剣を抜き放つと、その刀身は赤く染まっていた。
タダの剣ではない。それを分かる程度にはカークスも修羅場をくぐって来ていた。
「注意事項だ。刀身に触るなよ」
赤い刀身が気になっていたカークスに店主はそう言い、カークスは伸ばしかけていた手を慌てて引っ込めた。
何にせよ、この剣ならスライムに対抗することができそうだ。
そう思い、カークスは金貨3枚を出し、剣を買うことにした。
「ヒート・ブレードだ。スライム相手ならこれで楽勝だ」
金貨3枚を受け取りつつ、剣の名を言う店主。カークスはヒート・ブレードを受け取りつつ、「ヒート・ブレード」か……とオウム返しにしてみせた。
ともあれ、これで目当てのものは手に入った。後はこの剣、ヒート・ブレードがスライム相手に力を発揮してくれることを願うばかりである。
カークスは店主に一礼すると店を出た。早速、スライム相手に試してみる必要がある。
そう思い、王都の冒険者ギルドに行くとスライム退治に依頼が張り出されていた。カークスは早速、それを受けた。
「え、カークスさん。スライム退治の依頼受けるんですか? 魔法使いでもないと厳しいと思いますけどねぇ……」
ギルドの受け付け職員はそう言って渋ったが、カークスは強引に押し切り、依頼を受ける。
スライムが大量発生した場所とやらに行くとなるほど確かにゼリー状の生物が大量に湧いて出ている。
カークスはヒート・ブレードを鞘から抜き放った。
赤色の刀身を見て、頼むぞ、と内心に語りかける。
スライムたちはカークスに気づき、襲いかかってきた。
一匹のスライムが弾力性のある身体を跳ねさせ、カークスに飛びかかる。
カークスはヒート・ブレードを一閃。その体を斬り裂いた。
普通ならこれでは倒せない。スライムは真っ二つになり、地面に落ちたが、この後、2つに分かれた体がそれぞれ別個の個体となり、スライムは再生するのだ。しかし。
「燃えている……?」
カークスは自分がやったことなのに驚きを覚える。
ヒート・ブレード。それが断ち切ったスライムの断面には熱が灯り、
斬り裂かれたスライムの体を溶かし始めたのだ。二匹に分かれたスライムは二匹ともヒート・ブレードによる断面からの熱で溶けていき、消えてなくなった。
これがスライム対策の剣。ヒート・ブレードの真価であった。
「こいつは凄い」
それに満足しつつ、カークスは次々に襲いかかってくるスライム相手にヒート・ブレードを振るう。
ヒート・ブレードが斬り裂いたスライムたちは次々にヒート・ブレードの熱で溶けていき、こうなれば分裂も意味がない。
分裂した先で熱で溶けることに変わりはないのであるのだから。
これまで普通の剣では苦戦していたスライムたちを楽々倒せる。
カークスはあの店の店主に感謝をしつつヒート・ブレードを振るってスライムを次々に蒸発させていった。
そうして気が付けば、スライムたちは全滅している。
赤髪の店主の店にまた後でお礼を言いに行こうと思いつつ、カークスはスライム退治を終えて、帰路につく。
ヒート・ブレードを鞘に収め、大事そうに腰に挿して。
それにしても斬り裂いた断面から熱を発生させスライムを蒸発させるとは。
刀身に触るな、と言う言葉は刀身が熱を持っているからだったのだろう。
一種の魔法剣か。カークスは自分のものになったヒート・ブレードにそんな感想を懐きつつ、いい買い物をしたな、と確信する。
スライム相手はもう余裕の戦いであろう。そう思いつつ、カークスは行きつけの酒場でそんなことを語る。万能のアイテム屋がある。赤髪の店主の店。その噂はさらに広まるのであった。
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