2 / 80
第2話:竜落としの弓
しおりを挟む万能のアイテム屋がある。
赤髪の店主の店にはどんな魔物に対抗する武器も防具もアイテムも揃っていて、金さえ出せば、どんな魔物にも対抗できる。
その噂をアテに、一人の狩人が赤髪の店主の店を訪れた。
店はコーラル王国の王都の外れ。やや森に踏み入った所にある。
狩人シュートが店を訪れると赤髪を肩まで垂らした店主が出迎えてくれた。
「いらっしゃい」
赤髪の店主は口にする。シュートは少しの戸惑いを覚えつつも要件を口にした。
「ワイバーンを撃ち落とせる武器はないか?」
シュートは弓の名手であった。弓矢を武器に魔物を狩る。
それが狩人シュートの日常であった。しかし、弓矢も通じない敵はいる。
その代表例がワイバーンである。空を駆ける亜竜は矢を弾く龍鱗を持っており、シュートの放つ弓矢では撃ち落とすことはかなわない。
かといって山まで登って魔物を狩る都合上、ワイバーンとの遭遇は不可避のものである。
シュートにはワイバーンに対抗しなければならない理由があった。
それを聞いた赤髪の店主は店の奥に入り、一つの弓を持って帰って来た。
一見すると何の変哲もないただの弓にしか見えないが、その弓には呪術の紋様が複雑に書き込まれており、それを見ればただの弓、と思うことはシュートにはできなかった。
「この弓は魔術で放たれる矢を強化する弓だ。ワイバーン相手にも効果はあるさ」
「そうか。それはありがたいな」
ワイバーンをも射落とせる弓があるのなら弓を武器に戦うシュートとしても申し分はない。
シュートは店主に値段を訊ねた。
「金貨2枚と銀貨10枚って所だな」
高くもなければ安くもない。そんな値段であった。これくらいならそこまで金を持っている訳ではないシュートにも払うことができる。
シュートは代金を取り出すと赤髪の店主に渡す。代わりに魔法の紋様が刻まれた弓を受け取る。
「名は『竜落としの弓』だ」
「『竜落としの弓』……」
その名をオウム返しにする。その名に相応しいだけの力があるといいのだが。
シュートは半信半疑気味にその弓を見て、店から外に出る。
この弓でワイバーンを落とせるのだろうか。未だ信じられなかったが、赤髪の店主の店の評判は絶大である。
どんな魔物にも対抗できるアイテムが揃っている店。そこで買ったのだからワイバーン相手も楽勝に決まっている。
そう思い、シュートはいつものようにギルドで依頼を受け、山を登った。
ワイバーンに遭遇する前の魔物たちとの戦いでも竜落としの弓を引き絞り矢を放つ。
放たれた矢の勢いはこれまで使っていた普通の弓の比ではなく、弓に刻まれた魔術的な紋様が力を強めてくれているのだと思わされる。
矢を放ち魔物たちを退け、山の上層に登ると耳障りな鳴き声と共にそれらは現れた。
ワイバーンだ。
空飛ぶ亜竜。竜の中では下位に位置する存在とはいえ、人間にとっては厄介極まりない魔物。
シュートは舌打ちしつつも竜落としの弓に矢をつがえる。
「これでも喰らえ!」
シュートは竜落としの弓を引き絞り、矢を放った。
それはワイバーンの体に命中し、龍鱗を貫き、その体を撃ち落とした。
「お、落とせた……!?」
自分がやったことながらシュートは驚いていた。
あのワイバーンを、こうも簡単に。
あれだけ苦戦させられた今まではなんだったのかという思いとワイバーンを楽に撃ち落とせた喜びが同時に体の中から湧き上がって来て、シュートはしばし呆然とするしかなかった。
だが、呆然としている暇はない。現れたワイバーンは一匹だけではないのだ。
残りのワイバーン相手にも矢をつがえ、竜落としの弓から矢を放っていく。
弓に刻まれた魔術的な紋様により威力を強化された矢はワイバーンの龍鱗をも貫き、軽々、その躰を射落としてみせた。
ワイバーンの大群相手なら普通は死をも覚悟する状況であるのだが、そんな危機感とは全く無縁にシュートはワイバーンたちを落とし続けた。
「竜落としの弓……凄い!」
感嘆せざるを得ない。竜落としの弓は文字通り、ワイバーンの大群をも楽に撃ち落とすことができる代物であった。
こんな武器を取り扱っている赤髪の店主の店はどういうものなのだ、と気になりはしたが、今は自分に得な買い物ができたことを喜ぼう。
ワイバーンたちを全滅させ、短剣でその身を剥ぎ、肉をえぐり出す。
ワイバーンの肉は人気で高く売れるのだ。
ワイバーン自体の強さもあって中々手に入らない高級品であるのだが、これだけワイバーンの肉があればしばらく生活には困らないだろう。
持参したバックパックに肉を積めるだけ詰めて、山を後にする。
シュートは手に持つ弓、竜落としの弓の凄さを実感していた。
ギルドに帰ると、こんなにワイバーンを倒せたんですか!? ……と驚愕された。
無理もない。自分も竜落としの弓がなければあれだけのワイバーンを前にしては逃げ帰るしかなかったであろうから。
シュートは酒場に行き、祝杯を上げながら店主や酒場の客たちに語る。赤髪の店主の店。そこに行けば望むものは手に入る、と。
竜落としの弓があれば、これからワイバーンに怯える必要はない。この弓ならワイバーンとて楽勝で射落とせる。これからのことを考え、シュートは心が弾む思いであった。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる