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第61話:スネーク・ソード
しおりを挟むコーラル王国王都の少し外れ、森に踏み入った所にその店はある。
どんな武器防具アイテムも揃い、客の要望に必ず答えるというその店にこれまでにない珍客が訪れていた。
その少女は胸甲を付け、黒いパンツを晒した露出度の高い格好をしているが、何よりも目を引くのはその頭に生えた二本の角であろう。
それは少女が、リィルが魔族であることの何よりの証でもあった。
リィルは人間の癖に様々な魔術的な効果が施された武器防具アイテムを販売しているという店に興味を持って来店したのだ。
「いらっしゃい。まさか魔族の人がやって来るとはねぇ……」
赤髪を肩まで垂らした店主が応対する。流石の店主もこの来客には驚きを隠し切れていない様子であった。魔族の客など初めてだ。
「この店にはどんなものもあるって聞いたわ」
「それは言い過ぎだと思うが、まぁ、大概のものはある」
「アタシにもそれを売って欲しいの」
ニヤリと八重歯を見せて不敵に笑う魔族のリィルに店主は少し警戒して訊ねる。
「一応、訊いておくが、その品物で人間を殺す気じゃないよね? それだと流石に売れないよ?」
「安心して。アタシは人間には興味はないの。ただ、アタシ自身が強くなりたいだけ。この店に魔族が作った剣より優れた剣があるのならそれを頂戴」
どこまで信じて良いのか分からないが、この魔族の少女は人間には危害を加えないと言った。とりあえず信じるしかないか。そう思い、店主は店の奥に引っ込んでいき、一本の剣を持って帰って来る。
リィルが「これは?」と聞く。
「スネーク・ソードだ。この剣を振るえばどこまでも伸びていく。遠く離れた目標を斬り裂くことも容易になる」
「へぇ、それはいい剣ね。本当なら、だけど」
「嘘は言ってないさ」
店主は苦笑いする。リィルはその剣の柄を手に取り、観察する。
なるほど、確かに。魔力を感じる。この剣を振るえばどこまでも伸びていき、対象を切断するというのは嘘ではなさそうだ。そう思ったリィルはこの剣を買うことにした。
「アタシは人間のお金は持ってないの。だから物々交換でいきましょう」
「ほう?」
驚く店主に構わずリィルは自分の剣を差し出す。
「その剣は炎を自在に操る剣、フランベルジュ。対価としては妥当だと思うけど」
「本来はそんな商売はしてないんだけど……ま、いいさ、これを貰う代わりにスネーク・ソードは渡そう」
物々交換で商品を渡すのは店主にとって初めてのことであった。リィルは「決まりね」と笑みを浮かべる。
「それじゃあ、これは貰っていくわ。人間は斬らないから安心して。あっちから手を出してこない限りわ、だけど」
不穏なことを言ってリィルは店を出ていく。
「毎度あり」と言いつつも少しの不安を覚える店主であった。
店を出たリィルは早速、魔物のたまり場に行った。
リィルの力を使えば魔物を従えることもできたが、今回はスネーク・ソードの試し斬りがしたかった。
なので魔物との戦いを行う。血気盛んな魔物たちがいる所を選んだ。ここなら相手が魔族でも魔物たちは襲い掛かってくる。
「さて、じゃあ、試し斬りと行こうかしら」
リィルはスネーク・ソードを振るい、遠くの魔物に向けて斬り付ける。
伸びた剣はそのまま遠くの魔物の肌に喰い込み、斬り裂く。
さらに鞭でも振るうようにスネーク・ソードを振り回し、魔物たちに斬撃を次々に浴びせて行く。
いい感じ、とリィルは思う。
「きゃはは! 次々にかかってきなさいよ!」
スネーク・ソードの刀身が伸びて所々で曲がり、獲物の魔物たちを斬り裂いていく。
魔物たちは近寄ることもできずにスネーク・ソードに斬り裂かれ、倒れていく。
リィルは上機嫌に魔物たちを狩った。
魔族という立場上、魔物たちは使役する対象なのだが、リィルのように気まぐれな魔族もいる。
魔物たちを狩り悦に浸る魔族もいるということだ。
スネーク・ソードは対価として差し出した炎の魔剣フランベルジュに負けず劣らずの力を持っているようだと確信する。その剣で次々に魔物たちを斬り裂いて行く。
元々、炎属性の魔法が使えるリィルにとって炎の魔剣フランベルジュはあまりありがたみが薄い剣であった。
それをこの剣に変えれたのなら幸運だろう。
スネーク・ソードはまだ振るわれる。伸びた剣が鞭のようにしなり、魔物たちを斬り裂く。
リィルが意図したことではないが、ここにいる魔物たちはこの周辺の村を苦しめていて討伐に冒険者ギルドに依頼を出そうか、という話が出ている魔物たちであった。
それらをリィルは根こそぎ狩り尽くし、魔族ながら人間のための行動を行ったことになる。
勿論、リィルにそんな気はない。リィルは気まぐれな魔族であった。
「もっとこの剣を試したいわね。次の場所に行きましょう」
リィルは満足げに笑うと次なる獲物を求めて駆け出すのであった。
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