俺の婚約者(♂)、実は敵国のスパイでした。

しおむすび

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スパイのくせに優しすぎる、

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「王子殿下。先ほどの騒ぎ、何があったのでしょうか?」

翌朝、侍女たちが心配そうに部屋を覗いてくる。
俺は平然を装いながら、ルシアンを横目で見た。

……昨日のこと。刺客、スパイ、そしてあの問い。

『もし俺がスパイじゃなかったら、君は俺を、愛せた?』

その言葉が、まだ耳に残っている。

「……夜風に当たっていただけだ。少し騒ぎすぎたかもしれない」

俺はそう答える。信じたわけじゃない。ただ、ルシアンの真意を見極めるまで、下手に動けない。

「ありがとう、アレン。助かった」

「黙れ。何も誤魔化せてない」

寝室に戻ると、ルシアンが少しだけ笑って、俺を見ていた。

「けど、君が俺を告発しなかった事実だけで、少しは希望を持っていいかな」

「勝手に持て」

「素直じゃないなぁ」

こいつはいつも、飄々としていて腹立たしい。でも、妙に懐に入ってくるのがうまい。
それがまた、やっかいだ。

それから数日間、俺はルシアンを監視するように日常を送った。

・毎朝、俺より早く起きて部屋を整える。
・昼は俺の護衛と名目をつけて常に付き添う。
・夜は俺が寝つくまで近くの部屋で控える。

……スパイにしては、真面目すぎるくらい真面目だ。

「なあ。お前、スパイって……本気か?」

「本気だよ。生まれた時からそう教えられてきた。ザカリアのために、王家に近づいて、王子の心を掴めって」

「それで、掴んだと思ってるのか?」

「思ってないよ。……でも、君に近づくうちに、命令なんてどうでもよくなってきた」

ルシアンの声は、真剣だった。
そして俺は、内心困っていた。

お前が敵なら、俺は安心して憎める。
けど、そんな顔で、そんな声で、俺に「君を守りたい」なんて言うなよ。

「俺に情けをかけてるなら、やめろ。俺は王子だ。情で生かされるほど落ちぶれてない」

「違う。情けじゃない。……俺が欲しいのは、“君自身”だ」

.........一瞬、空気が変わった。

「……は?」

「君を見ていて思ったんだ。こんなにまっすぐで、誇り高くて、どこか孤独な君を……放っておけなかった」

「……嘘つけよ。どうせそれも作戦だろ」

「それでもいい。たとえそう言われても……君の命を狙う奴がいれば、俺はまた迷わず殺す」

「スパイが何言ってんだよ」

「……スパイだからこそ、命の重さも知ってるんだ」

ルシアンは俺をまっすぐ見ていた。
あの赤い瞳が、夜空よりもずっと静かで熱い。

俺は言葉を失った。

……スパイのくせに。
……敵国の人間のくせに。

なぜ、お前は──そんなに、俺を揺らすんだ。

「もうすぐ、“任務の期限”が来る。……その前に、俺の本当の目的を話すよ、アレン」

「……は?」

「俺が王子に近づいた理由。俺の本当の任務。それと、君を巻き込んだ罪について」

ルシアンの表情が、初めて“スパイ”のものに変わった。

俺は気づいてしまった。

この政略結婚の裏には、まだ知らない“もっと大きな陰謀”がある。
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