俺の婚約者(♂)、実は敵国のスパイでした。

しおむすび

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裏切りの条件

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夜の王宮は、静まり返っていた。
俺の部屋にはルシアンと俺、そして重苦しい沈黙だけが満ちていた。

「……本当の任務って、なんだよ」

重ねた問いに、ルシアンは少し視線を落とした。
まるで、覚悟を決めるように。

「俺が君に近づいたのは──君を“暗殺”するためだった」

時が止まった気がした。

「……は?」

「ザカリア帝国の上層部から、そう命じられていた。君をこの王国の後継者から外し、ユリシアの内政を混乱させる。それが“和平”という仮面をかぶった、本当の目的だ」

「ふざけるな……っ」

俺は咄嗟に立ち上がり、剣の柄に手を伸ばした。
だが──その手を、ルシアンが静かに取った。

「……けれど、俺は命令に背いた。君を見て……俺は変わってしまった」

「何を……言って……」

「アレン。俺は君に命令を実行できなかった。できるはずがなかったんだ」

目を見れば、わかる。
この男は本気で……俺を裏切らなかった。

「だが、その代償は大きい。今、俺はザカリアから“裏切り者”として追われている。君に手を出さなかった俺は、処分対象になった」

「処分……?」

「この王城のどこかに、俺を始末する刺客が潜んでいる。王家に気づかれず、俺一人を“事故”で殺す──それが、あいつらのやり方だ」

なんてことだ。
俺の婚約者は、敵国のスパイで、そして今は──敵国に命を狙われる裏切り者。

「だから、アレン。……お願いがあるんだ」

「……は?」

「俺と、逃げてくれないか?」

静寂を破るその言葉に、心臓が跳ねた。

「お前、正気か?」

「君を巻き込むのはわかってる。でも、もう時間がない。俺は、君の傍にいたいんだ。王子としてじゃなく、ただの“アレン”として」

──そんなの、ずるいだろ。

どうして、俺に「王国」を捨てさせるんだよ。

でも……心が揺れる。
初めて「婚約者」として見つめ返された気がした。

「……俺は……」

その時、部屋の窓ガラスがパリンと割れた。

「下がれッ!!」

ルシアンが俺を抱き寄せると同時に、黒ずくめの刺客が窓から飛び込んできた。

俺たちの静かな夜は、音を立てて壊された。

「……時間切れ、か」

ルシアンは苦く笑いながら、腰の短剣を抜いた。

──こうして、
俺たちは「愛する者」として、
「国の裏切り者」として、
命を賭けて夜を駆ける。

選ぶのは──王子としての未来か。
それとも、婚約者としての覚悟か。
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