俺の婚約者(♂)、実は敵国のスパイでした。

しおむすび

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追撃の夜明け

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「アレン、起きて。……来た」

ルシアンの静かな声に、目が覚めた。

焚き火はほとんど消えかけていて、夜明けの光がうっすらと小屋を照らしていた。
けれど、その空気はどこか張りつめていて、本能が告げていた。

「……追ってきたか」

「ああ。恐らく、ユリシアの近衛兵。……そして、ザカリアの刺客も混ざってる」

「どうしてわかる?」

「音の立て方が違う。あれは“殺すために動く者”の音じゃない。警戒して動く、兵士の足取りだ」

-ルシアンの、スパイとしての勘だ。
心強いはずなのに、それが少し、怖い。

「逃げるか、戦うか、選べ。ここでなら、まだ振り切れる」

ルシアンが短剣を構え、俺に目を向ける。

俺は、拳を握った。

「……逃げない。俺は王子だ。王国に牙を剥いたスパイと逃げてる、裏切り者の王子だ。だったら、自分の手で真実を掴みに行く」

「真実……?」

「ああ。あんたがスパイだったこと、信じられたのは、目の前の行動が全部“本物”だったからだ」

「アレン……」

「俺は、この国の腐った真ん中を知りたい。誰が、お前をこんな風に使ったのか。そして、誰が、俺たちを追わせているのか」

すぐに小屋を出ると、周囲の森から複数の気配が近づいてくるのがわかった。

ルシアンがさっと前に出て、剣を抜く。

「くそ……やっぱり、ザカリアの追手だ。三人、全部プロだ。普通の兵士とは動きが違う」

「じゃあ、倒すしかないな」

「アレン、剣術は?」

「一応、王族の嗜みとして習ってたけど、実戦は初めてだ」

「俺の背中から離れるなよ」

-その言葉のあと、ルシアンの動きが変わった。

敵の一人が木陰から飛び出し、ルシアンの肩をかすめるが、返す刃で喉元を裂く。

二人目が背後から忍び寄る。
俺が叫ぶ前に、ルシアンが短剣を投げつけ、額に突き立てた。

「……強すぎるだろ」

「スパイだからな。君を守るのも仕事の一部だ」

「今は仕事じゃないだろ!」

「-違う。今は“好きな人”を守ってるんだよ」

ドクン、と心臓が跳ねた。
けれど、その一瞬の油断が、命取りになった。

「ルシアンッ!!」

三人目の敵の刃が、ルシアンの脇腹を深く貫いた。

「ッ……!」

倒れかけた彼を支え、俺は剣を振るう。
怖かった。震えてた。でも……この人を死なせたくなかった。

振り下ろした一撃は、我流の一太刀。けれど、敵の腕を切り裂くには十分だった。

「……アレン……お前……やるじゃないか」

「喋るな、血が止まらない……っ」

ルシアンの脇腹から、赤が溢れていた。

このままじゃ、死ぬ…

「……アレン、聞いてくれ」

「今は喋るな!!」

「違う、どうしても言わなきゃ……“この国の本当の裏切り者”は、俺たちじゃない」

「……?」

「君の、父上……国王陛下が、ザカリアと通じてる」

時が止まったような感覚だった。

「……は……?」

「俺の任務は、君を殺すことじゃなかった。本当は……“お前を味方に引き込め”って……」

「……!」

「王国は、既に内側から食い破られてる。王は、戦争の裏で、国を売ろうとしてる……!」

…父が?
この国を売った……? 俺に何も告げずに?

「アレン、君は、王として生きるべき人間だ。だから……俺は…」

「黙れ。……死ぬな。こんなところで終わるなよ……!」

ルシアンの意識が薄れていく。

俺は彼を抱き締めた。

「……お前がいないと、俺、正直無理だ」

涙が溢れて止まらなかった。

「だから、ルシアン……死ぬな。俺と一緒に、この国を変えるんだ。お前の命に、俺が意味を与える」

「……それが、俺の……願いだったよ」

…朝日が昇った。

その光の中で、俺は彼の手を握りしめた。

国を捨てた王子と、
国に捨てられたスパイ。

ここから始まるのは、
亡命者じゃない──
「新しい王の物語」だ。
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