3 / 7
七~十
しおりを挟む七
「以上がアルバーロさん……、というか、まぁ、はい。ほぼウィルフレッドさんからの報告です」
うんざりとしていても、常と変わらぬ美青年が告げる。眠そうな顔をしながらもメルヴィンは「へぇそうなの」と呟いた。「あまりもたもたしてたらアルバーロに怒られるなぁ」とも。
「……もうとっくにもたもたしてるんですよあなたは。アルバーロさんに、結果はまだかまだかと毎日言われるボクの気持ちを考えてくださいよ……。昨日なんてウィルフレッドさんにも言われて、……この職場辛い……」
メルヴィンへの愚痴から、職場への愚痴へと変わったディオを素通りして、メルヴィンは自分の机の中を開いた。開けて欲しいデータは、いつもこの中に入れられているのだ。その中から几帳面な字でMTと書かれているものを取り出す。MT事件。はてさて、犯人はなにを伝えたかったのか。
八
メルヴィンが数日かかっても結句開けなかったデータと比べれば、犯人からのパスワードの要求など赤子の手をひねるようなものだった。
まぁ、アルバーロ達にはまず無理だろうけどなぁと思いながらメルヴィンは職場を見渡した。アルバーロがいれば話は早いのだが、彼はひとところにとどまれる質ではなく、やはり姿は見られなかった。
最初から彼がいるとは期待していなかったので、本命のウィルフレッドを探す。彼は、自分のデスクの前にある資料の整理をしていた。
「ウィルフレッド、データ開けといた」
メルヴィンが声をかけると、見慣れた微笑みでウィルフレッドが振り向いた。職場の同僚達に苦い顔をされがちなメルヴィンだが、彼にまで苦い顔をされた記憶はなかった。
「ありがとうメルヴィン、アルに渡しておくよ」
「あいつ、今度はどこいったの?」
メルヴィンがそう問いかけた瞬間、ウィルフレッドは笑顔を少し歪ませた。
「うーん、わかんないなぁ。アルがこうなのは元からだからねぇ。まぁ僕の力が必要になれば声がかかるとは思うんだけどね」
……多分。と小さな声でウィルフレッドが付け足したのには気が付かないふりをする。
「そっか。じゃあなにか仕事があったら言って。僕は家に戻るよ。壊したデータの復元できるか試したいし」
先日の、彼の頭を悩ませた例のデータへの興味はまだ失われていなかった。
「メルヴィン。君の机の中には仕事としてまだ開くべきデータが他にも入っていたと思うけど?」
「……催促されてないからなぁ。気付かなかったってことで」
そう言うと、メルヴィンはまだ出勤してから三十分も経っていないのにもかかわらず、机に叩きつけていたあのデータを手に取って、部屋を出た。
「あっ、ちょ、メルヴィンさん! マルセロさんから言われてるデータも開けてってくださいよ!」
眉目秀麗な例の青年が叫ぶも、メルヴィンが戻ってくることはない。「もういやこの職場」と呟くディオの肩をウィルフレッドが優しく叩いた。
九
数時間後。ふらりと職場の扉を開くアルバーロに、ウィルフレッドが鍵の開けられたデータを手渡した。寝癖のついたままの彼は、欠伸をしながらそれを受け取る。一瞬なんなのかわからないといった顔をしてから。
「……あぁ、なんだ、メルヴィンの奴やっと開けたのか。遅いっつの」
伸びをしながらツカツカと正面まで来たアルバーロは、呆れたように言う。
「まぁまぁ、とりあえず中見てみない?」
今ここにはいないメルヴィンに文句を言っても始まらないので、ウィルフレッドは彼を引っ張って自分のデスクのパソコンの前に座らせる。彼は小さくため息をつくと、マウスに手を置いた。
「――なんだこれ、地図の画像しか入ってねぇじゃんか。……ッ地図だと?」
そこに映し出されたのは、たった一枚の地図の画像。ある一カ所だけに印が付けられており、数字も添えられていた。
「そうか、あの部屋には元から地図なんてなかったんだな……。それで困った奴さんはこんなもんを用意した。……適当に買ってきて冷蔵庫にでも貼っておきゃいいのに、変なとこ几帳面なやつだなぁ」
「――変な矜持も持ってないで、こんな殺人はしないよ」
ウィルフレッドのその言葉を聞いていないのか、アルバーロは地図の印を睨み付けた。
「てことは、これは七人目の殺害予告か……? おいおい、数字が明日を指してるぞ。それにこの距離なら先回りして未然に防げるかもな」
「……そうだね」
アルバーロの後ろから自分のパソコンを見つめるウィルフレッドに、笑顔はなかった。しかしそれも一瞬で、アルバーロが振り返ったときにはいつも通りの笑みを浮かべていた。
「なぁウィルフレッド、行くぞ」
「今からかい?」
もちろん、とアルバーロが言うと、彼は「仕方ないなぁ」と応えてくれた。
十
……静かだな、とアイツは呟いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる