Gifted

Hachis・Lotus

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 六

 とは言っても。どちらも見つけられない可能性だってある。夜の六時までと締め切りを作り、いくつもの部屋があるマンションの最上階を虱潰しにしていった。
 その悪い予感が当たり、六時を回っても地図が見つかることはなかった。二人は、最初のリビングに戻り、自分が探した場所についての情報のすりあわせをしていた。
「まだ探してない場所があるのかなぁ。それとも見逃しちゃってるのかな……」
 腕を組んで呟くウィルフレッドを見て、アルバーロは顎に手を当てる。その表情は渋いものだった。
「や、……そもそも、存在しないのかもしれない」
「え……? どういう、ことかな」
「殺されたFが実はここの住人ではありませんでした、とかいう可能性は外すとして、この連続殺人は六人で完結しちまったのかもしれねぇな」
「そっか、次のターゲットがいないんじゃあ地図もないよね」
 アニメやマンガと同じだ。次がなければ、次回予告なんてない。
「もし完結したとして。なんで完結したのかだけど……、一つとして、俺達にはまだ把握できていない被害者達の繋がりがあり、その何らかの繋がりがある人間は全滅させられたということ。もう一つとして、被害者達に繋がりなんて毛頭なく、殺人という行動により犯人の気が済んだということ」
「気が、済んだ……?」
 ウィルフレッドが内容を上手く噛み砕けないのか、言葉を反復する。
「ただ、謎めいた殺人をしてみたいっていう理由なんかだとどうしようもないが、今までの連続殺人で何かを表現し続けていて、第六の殺人でその何かが完成したという可能性だ」
「……」
 とても考えつかなかったと、ウィルフレッドは目を丸くした。
「つぅまり、今までの殺人に犯人からのメッセージがあったかもしれねぇってこった。……くそ、そんなもんなかったはずだぞ……」
 アルバーロは声を荒げて、資料をテーブルの上に並べる。何枚かの写真がヒラリと宙に舞った。
「アル……、君の推理が出し抜かれているとは僕には思えない」
「――はい?」
 犯人からのメッセージを見逃していたかもしれない、という焦りや苛立ちが一瞬でシャットアウトされる。……その代わり別の汗が背中を伝った。
「そもそも、これが連続殺人だということも、世間は気付いていないわけだよね」
「まぁ……、そうだな」
「じゃあ犯人が表現していたものって、連続殺人の先にある何か、じゃなくて連続殺人そのものだっていう可能性はないのかな」
 アルバーロの、片眉が上がる。
「……連続殺人を通して何かを訴えていたのではなく、連続殺人だと誰かが気が付くのを待っていただけ……? 俺が気付いた以上、ここがゴールってか? だとしたら、逐一予告を用意していた犯人のことだ、今回は地図ではなく、もちろん連続殺人を通したメッセージなんてものでもなく、この場所自体に何かが残されているはずだ……。ゴールまで辿り着いた人物への犯人からの報酬が……」
 そう早口に呟くと、とりつかれたように周りを見渡した。いつにも増して集中した瞳。いっそ恐ろしい。周りを見ているが、周りは見えていないのだろう。
「どこだ。なにが目的だ……?」
 もはやウィルフレッドは彼の視界に入っていない。他人のことをアルバーロが考えられないのはいつものことだ。ウィルフレッドはいつもの笑みを浮かべると、再び調査に乗り出した。
 そこからまた数時間。外は真っ暗になっている。……真っ暗と言っても、その部屋から見える景色は闇を知らないきらびやかな町並みであるのだが。
「……うーん、ないんだけどねぇ。アル、聞いてる? Fさんの物しかないよ」
 なにも見つからない。それ以前にお腹がすいてどうでも良くなってきた。そろそろご飯にしても許されるのではないだろうか。周りの部屋を捜索し尽くしてリビングに戻ってくるウィルフレッド。アルバーロは数分前からその部屋で、Fの私物であるパソコンの前に陣取ったまま固まっている。
「……アル? アルバーロ? ……無視、まぁ、いつものこと……。いやうん、無視じゃあないんだよね、聞こえてないんだよね。……わかってるよ」
 一つため息をつくと、アルバーロの後ろからパソコンの画面を覗き込んだ。そこには、パスワードの要求画面があった。その画面を食い入るように見つめたままアルバーロは眉を寄せていた。彼は馬鹿ではない。普通の人がパスワードにと考える事くらいはとっくに済ませてあるだろう。それなのに開かない。それは、つまりFがよほど用心してつけたパスワードであるか、そもそもFのデータではない可能性がある。
「……そのデータ、開かないの? アル」
「あ、あぁ、ウィルか。このデータ、多分Fのではなく、犯人のものだ。Fはデータファイルをきちんとまとめて管理していた。にもかかわらず、このファイルだけ不自然に独立していた。それに、Fのデータは最初からパスワードがかけられていないものがほとんど。あっても誕生日とか個人情報を弄ったものばっかだったのに、これは開けない。……つーかぁ、俺にも開けられないデータは少なくとも一般人には作れない! こんなものメルヴィン行きだ!」
 ……まるで空気の抜けた風船のようだ。
 アルバーロはそう叫ぶと床に横になった。どれだけ疲れていたのか、ウィルフレッドが言葉をかける前に意識を飛ばしていた。こうなった彼は、気の済むまで眠らないと起きない。彼は何日前から一人でこの事件の捜査をしていたのか。しかも単独で。それは確かに疲れることだろう。
「――疲れることだろうけどさ! ……なんでいつもいつも僕が尻拭いさせられるんだよ。こいつは、僕をなんだと思っているんだ。僕は、後片付け係じゃない……」
 意識がない人というのは、とても重い。成人男性となれば尚更。現場の後片付けをして、もちろん開けなかったデータの回収も忘れない。最後にアルバーロを若干ひきずりつつ――流石にウィルフレッドにアルバーロは運べない――帰路へとついた。

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