オカンな幼馴染と内気な僕

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プロローグ 友達以上、恋人未満

第9話 告白

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 昨夜は一睡もできなかった。色々と告白と謝罪の言葉を考えたけど、どれもこれもしっくりこない。そして、そんな事を考えている内に夜が明けて、今に至るのだった。我ながらなんとも情けない。

 今日も真澄が来るだろうから、1階に降りよう。それから……寝不足の頭でそんなことを考える。

 リビングのソファーに座って、ぼーっとした頭で考える。ほんとにどうしたものか。
 ふいに、インターフォンの音が鳴る。真澄だろうか。

「おはよー……って、コウ、大丈夫?」

 あわてて僕の方に駆け寄ってくる真澄。

「大丈夫って何が?」

 何かとんでもないものを見たような表情をしているけど。

「ひょっとして、寝てへんの?」
「ああ。ちょっと考え事をしてて」

 さすがに、告白の言葉を考えていたとはいいづらい。どう話を切り出したものか考えていると、強い力で何か柔らかい感触のする物の上に頭を載せられた気がした。

「よいしょっと」

 気が付くと、真上に真澄の顔がある。ってこれって、膝枕?

「ほんと、無理したらあかんよ」

 なんだか優しげな声で語り掛けられている。この感触は、なんだかソファーとは違うけど、不思議と気持ちが落ち着く。

「それで、どうしたん?そんな寝られん程考え事して」

 気遣うような声の真澄。
 そうだ。まずは謝らないと。

「昨日のことなんだけど。どう謝ろうかなって」
「昨日ってなんかあった?」

 頭に?マークが付いたような顔だ。
 まあいいか。

「話、聞いてくれるかな」
「うちでよければ」

 少し戸惑ったような声。

「昨日は僕も、嬉しかったんだ。本当に。真澄から遊びに誘ってもらえたのは久しぶりだったから」
「それはごめんな」
「いや、いいんだ。こっちが勝手に誘ってただけだし。それで、楽しみにしてくれたのに、色々気づかずに……」
「ええと……???」

 真澄はどんどん困惑したような声になっていく。どうしたのだろうか。

「照れくさくて、服もちゃんと褒めてあげられなかったし」
「いや。そんなことくらい気にせんでも」
「サッカーの話をしたときもさ。色々気づかなくて」
「???」

 何のことを話しているのか、わからない、といった顔だ。

「なんで真澄のことをいつも誘ってたのかって質問にも、逃げを打ってさ」
「逃げ?」
「ほんとはさ。ただ、好きで、振り向いて欲しかっただけなんだ。真澄に」
「え、え、え、え、え」

 あれ?

「えーーーーー!?」

 あまりの大声に、寝ぼけていた頭が一気に覚醒した。

「ちょっと、声が大きいよ」
「だって。コウがウチのことを好きって」

 考えてみれば、告白の割にいきなり過ぎだ。

「昨日伝えられなかったから。それと、こんないきなりな告白になってごめん」
「それはいいんやけど。コウがウチのことを好きって、えーと、えーと」

 あまりにも予想外の反応だ。
 驚くとは思っていたけど、困惑されるとは、どういうことだ?

「ちょっと落ち着いて。どうどう」
「困惑させた本人が何いっとるねん!」

 怒られた。

「だって、あの質問は期待してたんでしょ?」
「期待っていえば、期待やけど。コウはちゃんと応えてくれたし」

 あんな及び腰の回答が、応えてくれた?
 一体どういうことなのか、頭が混乱してくる。

「ちょっと、整理させてもらっていい?」
「どうぞ」

 告白をしたはずなのに、僕はなんでこんなことをしているのだろう。

「昨日の「なんで、いつもウチを誘ってくれるん?」って質問なんだけど」
「コウに関西弁使われると、ちょい不気味やけど。どうぞ」
「あれって、自意識過剰っぽいけど、真澄のことが好きで誘ってるのか、遠回しに聞いてたんだよね?」

 言葉にしてみると、本当に自意識過剰だ。

「そないなことやないよ。ただ、誘ってくれるんは、ウチを気遣ってくれてるせいだけなんやないか、とは思ってたけど」

 気遣って?どういうことだろう。

「だって、いつも、ウチの愚痴に付き合ってくれてたから」
「真澄が愚痴なんか言ってたかな」

 確かに、思い出すと愚痴っぽいものもあったような気もするけど。

「コウにとってはどうかわからんけどな。いい気晴らしになってたし、感謝してたんよ」
「そ、それはどういたしまして」

 なんだか、何をどう勘違いしていたのか、少しずつ見えてきた気がする。

「ただな。それはそれとして、ウチは、昔みたいに自然に一緒にいられたらって、そう思ってたんや」
「あ、ああ」
「だから、同じように想ってくれてたことがわかって、嬉しかったんよ」

 そっか。昨日の答えは、真澄にとっては『正解』だったんだ……

「あ、は、は、は」

 それじゃ、なんだ。
 僕は、勝手に告白を期待されていると勘違いしただけの大馬鹿者じゃないか。

「そそそそそれは、ごめん。先走って告白しちゃって」

 恥ずかしさで死にそうだ。
 それ以前に、これからどういう顔をして会えばいいんだか。

「もう、ほんと、アホなんやから」

 クスクス笑う真澄。
 さすがに、人の告白を笑われるとしんどいんだけど。

「本当に悪かったから。さすがに、笑うのは止めてよ」
「また、変な方向に勘違いしとるよ」
「勘違い?」

 その気もないのに告白されて困った、というだけじゃないの?

「うん。ウチはちゃんとコウのこと好きやからね」

 真澄は、はにかんだ笑顔でそんなことを言ったのだった。そんな笑顔がまぶしくて、思わず見とれてしまった。

「それじゃ、告白の返事は」
「さっきは、いきなり過ぎてビックリやったけどね。もちろん、OKや」

 なんだか話が二転三転して頭が追い付かない。ドッキリか何かじゃないの?

「そもそもな。ウチは、好きやない男とデートに行く程、軽い女やないから」
「それはほんと、ごめん」

 天然説を推していた過去の自分を殴り倒したい。

「でもさ。真澄も悪いよ。何度も誘ってもらったら気づくでしょ、普通」
「普通ってなんや、普通って。コウがはっきり言葉にしないから悪いんや」

 それを言われると、痛いんだけど。

「わかった。僕がもう全面的に悪かったから」
「よろしい」

 こんなどうでもいいことで言い争うのが馬鹿らしくなったからなんだけど。満足そうなら、いいか。

「でさ。これで、僕と真澄は恋人同士、ってことでいいんだよね?」

 話を結論に持っていくことにする。

「もちろんや。にしても……」

 真澄がなんだかやけにニヤニヤしている。

「コウがそんなにウチのこと好いてくれてたとは……」
「うぐ」

 そこはその通りなので、ぐうの音も出ない。

「これから、色々からかって遊べそうやわあ」

 そんなことを笑顔で言ってくる。
 でも、なんだかんだで、良かった。

 あれ。なんか、ほっとしたからか、瞼が重くなってくる。
 後でいじられそうだけど、まあいいか。

「おやすみ、コウ」

 そんな声を聞きながら、僕は眠りに落ちて行ったのだった。

――

「コウがそこまでうちのこと好きでいてくれたとは……」

コウが眠りについたリビングで、真澄がひとり呟く。

「大好きやよ、コウ」

そう言って、彼女は頬に口づけたのだった。
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