オカンな幼馴染と内気な僕

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第一章 恋人始めました

第12話 彼女の悩み相談と放課後デート

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 そんなこんなで午後の授業はあっという間に過ぎていく
(ちなみに、生物と地学だった)。

 さて、放課後になったけど、どうしようか。朝に、放課後にデートしようって約束したけど。

 待ってても仕方ないし、メッセージを入れておくか。SKY〇Eを立ち上げて、メッセージを送る。

『こっちは授業終わったよ。そっちは?』

 数分して、返事が返ってくる。

『うちもさっき終わったよー』

 真澄の方も、ちょうど終わったようだ。

『じゃあ、後で来てくれる?』

 僕の方から行ってもいいけど、彼女に会いに、というのはなんとなく気まずいし。そう思っていたら。

『うーん。せっかくやし、コウの方から来てもらいたいなー』

 真澄のメッセージには絵文字などの装飾がないから、どれだけがイタズラか測りかねるところがある。とはいえ、さすがに本気じゃないだろうけど。

『えー……それはちょっと……』

 露骨に嫌そうなメッセージを送ってみる。どうだ。

『せっかく出来た彼女のお願い、聞いてくれへんの?』

 う。彼女という言葉を人質に取るとは卑怯な。

『わ、わかった。そっちに行くよ』

 抵抗虚しく、僕の心はあっさりと陥落してしまったのだった。これも先に惚れた弱みという奴だろうか。

 本来なら、自転車で約5分だけど、今朝は歩いて来たので、約15分。

 私立東津(とうづ)高校の校門近くにたどり着いた。うちと違って男女共学なところが特徴だ。

 近所だから、近くを通りがかることはよくあったけど、こうやって校門の前に来るのは初めてだ。

 うちと同じく、さっき放課後になったばかりだからか、ちらほらと人が帰り始めている。帰宅部か、あるいは、部活の日じゃないのか。素早くスマホを操作して、到着したことをメッセージで知らせる。

 下校の様子を眺めていると、男女のカップルらしき人たちがちらほらと見えるのに気が付いた。

「うちだと見られない光景だ……」

 そんな何気ないことに感動していると、校舎の中から、誰かが、高速でダッシュしてくるのが見えた。というか、真澄だ。

「はあ、はあ、はあ」

 僕のすぐ側に来た彼女は汗びっしょりだ。一体何故。

「お疲れ様。にしても、なんでそんな急いでたの?」

 汗をぬぐいながら、彼女が答える。

「同じクラスの子らに噂されてもかなわんし。さっさと行こ」

 僕の手を引きながら、ずんずん歩いていく。

「噂?僕とのこと?」

 前後関係を考えると、それがまず思い浮かんだ。

「僕と付き合ってること、もしかして秘密にしてるの?」

 そういえば、以前に、クラス内での人間関係が複雑ぽいことを朋美から聞いたことを思い出した。

 そんな懸念を抱いていると、真澄は首を横にぶんぶん振ってくる。
 オーバーリアクションだなあ。

「いや、ちゃうちゃう」
「犬?」
「そんなとこでボケんでええから」
「ご、ごめん。続けて」
「付き合ってることは、ちゃんと女友達には打ち明けたんよ。せやけどな」

 これまで何人もの男を振って来た真澄だけど、それでも、慕う奴らは後を絶たないらしい。それで、友達から、男連中をあまり刺激しない方がいい旨忠告を受けたらしい。

 共学ならではの悩みなのか、こいつの人徳の為せる技なのか。
どっちにしても、真澄の人間関係は複雑らしい。
 
 って、「女友達」?

「真澄、もしかして、男友達がいないの?」

 ちょっと心配になって聞いてみた。

「いや、うちは本当に友達のつもりなんよ。せやけど……」
「だけど?」
「何か困りごとがあって助けると、気が有ると思われるみたいでな」

 はあ、と大きなため息をつく真澄。

「それって、たとえば?」

 真澄に助けてもらった記憶はたくさんあるけど、男女といえども、ごっこ遊びの延長戦上だった小学校高学年の頃までだ。

「たとえば、勉強ができん男子がいたんや」
「うんうん」
「それで、その子が頑張ってるようやったから、ちょっと手助けしてあげたんよ」
「ちょっとってどんな?」
「うーん。わからなかった部分を放課後残って、教えてあげたりとか」

 微妙に判断に困るところだ。その男子と仲が良かったのなら、普通のやり取りの延長線上ということで済ませられるけど。

「その男子とは仲良かったの?」
「うん?何度かしゃべったことはあったけど」

 なるほど。

「続けて」
「その後は、特に何にもなかったんやけどな。数日後にラブレターを渡されたんよ」

 困り顔でそう言う真澄。

「それで?」
「もちろん、うちはちゃんとお断りしたよ。昔から、コウのこと好きやったし」

 そう言ってくれるのはとてもありがたいし嬉しいんだけど。

「あのさ。ちょっと言ってもいい?」
「どうぞ」
「ちょっと言いづらいんだけど。男子が勘違いしても、無理がない気がする……」

 僕だって、真澄がそんなことをしてこようものなら、ドキドキものだ。
 ましてや、接点がなかった女子がいきなりそんなことしてきたら、勘違いもしようというものだ。

「やっぱそう思う?」

 少し項垂れた声だ。言い過ぎだっただろうか。

「いや、真澄の気持ちもわかるよ。単純に助けてあげたかっただけなんだろうし」
「いいんよ。女子にも言われたし」
「なんて?」
「そういうことすると、男子を勘違いさせるよって」
「……」

 全くもって正しいアドバイスだ。
 それに、僕の推測が正しければ……だけど、真澄が助けてあげた男子って、普段人とあまり話さないタイプな気がする。そんなところに、明るく茶目っ気のある可愛い女の子(僕補正)が親しげに話しかけて来たら(想像)イチコロだろう。

「うちは人助けせんほうがええんかな……」

 真澄が他の男子に取られるとは思っていないけど、彼女がしんどい思いをするのは少し複雑だ。

「うーん。僕がどう言ったらいいかわからないんだけどさ。振った男子が逆恨みしてくる、とかそういうのは大丈夫?」
「そういうのは全然。なんやかんやで、お断りしたら、その後は距離を置いてくれることがほとんどやし」

 それもよくわかる。うちによく居そうな、生真面目なタイプだろう。告白はするけど、その後もきっちりしてるっていうか。

「難しいね……。僕も、すぐにいいアドバイスは浮かばないけど。ちょっと考えてみるよ」
「ありがとさん。うちも、コウという彼氏がいるし、ちょっと自重せなあかんな」

 いかん。暗くなり始めてる。
 何かいい策は、と考えて、ひとつ思いついた。
 いや、真澄にとっては凄い恥ずかしいことだけど。

「クラス内で、彼氏居ます宣言してみる、とか?」

 あんまり重く受け止められても困るので、ちょっと茶化して言ってみた。

「うーん。それしか、ないかあ」

 割と本気でそれを考えていたらしい。僕としては、ありがたいところだけど。

「いや、無理しなくていいからね?」

 無理をさせたくないので、そう言ったのだけど。

「いや、ちゃんと宣言するわ!うちにはコウって彼氏がいますって」

 ビシっと僕の方を指差しながら、真澄はそう断言した。

「なんか、聞いているこっちが恥ずかしくなってきそうだ」
「そこ!当事者やで」
「はい……」

 なんかノリが変わって来たけど、大丈夫だろうか。

「今日のデート先やけど、ウチが決めていい?」
「ああ、うん。どうぞ、ご自由に」

――

 そして、場所はゲーセン。以前に真澄と来たのと同じ場所だ。

「どりゃー!」

 掛け声とともに、とても重い一撃がパンチングマシーンに叩き込まれる。
 掛け声とともに、小さく「〇〇のアホ―」「△△のボケー」という言葉(多分女子)が聞こえているのが恐ろしい。
 恨み言の対象が男子ではなく、女子な辺り、色々複雑なんだろうなと思う。
 
「てりゃー!」

 コインが無くなったら、素早く補充。そうして、真澄が満足するまで、およそ20発はパンチングマシーンをしばき倒したのだった。鬱憤、たまってたんだなあ。

――

 そして、帰り道。

「で、満足した?」
「少しは。せっかくのデートなのに、ほんにすまんなあ」

 憂さ晴らしにパンチングマシーンを叩いたのは良いものの、デートらしいデートじゃないことを少し気にしているんだろう。そんなところも愛らしい。

「デートはまたいけるし。それに、僕も、真澄の悩みを聞けて良かったよ」

 こんなに鬱憤がたまっていたとは知らなかった。

「ちょっと愚痴いってええかな?」

 彼女が、愚痴をもらす宣言をしたのって、実は初めてじゃないだろうか。それだけ、信頼してくれているということでもあるので、少し嬉しい。

「どうぞ。存分に」

 だから、僕はそう言う。

「ほんとのところはな。男子のことは大した問題じゃないんよ」

 パンチングマシーンで出てきた名前が全員女子だったから、薄々察してたけど。

「女子連中がな。もちろん、一部で、全員やないんやけど」
「うん」

 さすがに、全員だったら、もはやイジメだ。

「もうちょっと勘違いさせないようにした方が、とか。きっぱり一線を引いて接してあげた方が。とか。勘違いした男子たちが可哀想だよ、とか。あの子らにすれば、アドバイスのつもりなんやろうけど……」
「だろうね」

 中には悪意で言っている人もいるかもだけど。

「もうどうせいっつうねん。うちはそんな器用にでけへんわ……」

 そう言いながら、真澄の瞳から涙がこぼれてくるのが見えた。
 ほんと、こいつは不器用なんだなあ。
 そう思ったら、自然と彼女を抱きしめていた。

「そういう愚痴はこれから僕が聞くからさ。抱え込まずに相談してよ、ね?」
「うん。ほんと、ありがとなあ」

 真澄が泣き止むまで、しばらくそうしていたのだった。

 しばらくして、ようやく真澄が泣き止んだので、帰ることにした。
 手をつないで、二人で夕暮れの道を歩く。

「あのな」
「うん」
「やっぱり、ウチは、コウが彼氏で良かったわ」
「それはなにより」
「これからも、迷惑かけるかもしれんけど。そのときはお願いな?」
「ああ、いつでも」

 そんな、少し湿っぽい雰囲気で今日のデートは終わったのだった。
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