海辺にて君を待つ

鈴咲絢音

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episode.1 少女の悩み

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 リビングのテレビはいつものように今日の天気と海面上昇率を誰に語るわけでもなく垂れ流し、それを横目に私は朝食のパンをゆっくりと頬張っていた。

 テーブルの向かいではお母さんが急いで食事の済んだ食器を片付けている。そしててきぱきと身支度を整えながら、お母さんは私に声を投げかけた。

「直、それじゃあお母さん、お仕事行ってくるから。冬休み始まったからって遊ぶのはいいけど、宿題はちゃんとやるのよ」

「はぁーい、いってらっしゃーい」

 私がパンを咥えたまま間延びした返事をすると、お母さんは呆れた顔で玄関を出て行った。

 私はそのままもしゃもしゃと口の中の物をゆっくり咀嚼しながら、テレビに目を移した。

 画面の向こうでは、大海原をバックにアナウンサーと何かの専門家が小難しい話をしている。

「今日もまた海面が昨日よりも3センチ上昇しました。
 海面の上昇が始まり、約一世紀が経とうという所ですが、海域は広がりはいつまで続くのでしょうか?」

「そうですね、地球温暖化が最も過激だった半世紀前の海面上昇率と比較すると、今は約半分になっている事から、徐々に海面の上昇は落ち着いてきていると思われます。
 あと数十年も経てば海面の上昇は収まるのでは、と言われています」

「そうなると日本の陸地はどれ程残るのでしょうか?」

「現時点で100年前の1/3が海に沈んだという事ですから、更に1/2の陸地面積が減る事は覚悟しておいた方が良いでしょうね」

 テレビから流れ続ける興味のないニュースをぼんやり眺めながら、冷めきったココアを飲み干し朝食を終えた。

 陸地が減ったとて何か困る事があるのだろうか? 生まれも育ちも水上都市の私にはいまいち分からない。

 海に浮かぶ水上都市には大体の物が揃っている。

 私の住むマンションもあるし、買い物するスーパーや学校だってある。

 だから海上での暮らしが不便と思った事はない。

 建物に入れば濡れることはないし、外出もボートやカヤックを使えば問題ない。

 なのに大人達はどうしてこうも陸地に拘るのだろう?

 そんな疑問を考えながら食器を重ねて運び、流し台の中で水に浸すだけはして、歯を磨きに洗面所へ向かった。

 鏡に映る自分の姿に少しだけぎょっとする。

 肩まで伸びた真っ黒な髪が重力に逆らって逆立つ程の酷い寝癖がついていた。

 手ぐしではどうにもならず、一度放置を決めて寝ぼけ眼を擦るよう顔を洗う。

 再び鏡と向き合うと、櫛を片手にぐしゃぐしゃの髪を梳き始めた。

 時々絡まった髪が櫛に引っかかり頭皮に痛みを覚えるが、それすら無理矢理梳いていく。

「いてててて……」

 私はぼやきながら寝癖をある程度直し、パジャマを脱ぎ洗濯かごに放り込む。

 鏡越しに見えた線の細い身体は中性的で、十四歳にしては幼く見えるのであまり好きじゃない。

 特に自分の胸を見ると、その平たさにちょっとした絶望を感じる。

 私が着けた事のないブラジャーについて話す周りの友達が羨ましくて仕方がなかった。

 胸の大きさなんて年頃の女の子にはよくある悩みなのだろうけど、私にとってはとても重要な事だった。

 女性らしくなりたいと願えば願う程、今の体への違和感は強まるばかりだ。

 だって『女の子』であるはずの私の体は『男の子』なのだから。

 その心と体のちくはぐを、私はまだ上手く受け入れられないでいる。
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