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episode.7 初めてのプレゼント
しおりを挟む自宅までの帰路は思ったより時間がかかった。
ミベロを追いかけていた時は必死だったからあまり意識していなかったけど、結構家から離れてしまっていたらしい。
軽くなったパドルを急いで漕ぎ進める。時々斜め下を泳ぐ彼女の姿を確認すると、海面のすぐ下で量の減ったワカメが揺らめくのが見えた。
パドルをぶつけないように気をつけながら漕ぎ続けて十分、漸く私の住むマンションがある海区に入った。
建ち並ぶ建物を抜けてマンションの波止場にカヤックを軽くぶつけて停める。その振動を受けて桟橋がちゃぷちゃぷと小さく揺れた。
「ちょっと待ってて!」
ミベロに見えるように手を前に出し、待ってのジェスチャーをしながら声をかける。
海中の彼女の反応はよく見えなかったが、そんな事はお構いなしに急いでカヤックを飛び降り、その勢いのまま桟橋を駆け抜ける。
マンションの階段を駆け上ったあたりで一度呼吸を整え、ポシェットの中を探りながら家の扉へ向かった。
玄関を通ってすぐ左手に折れて真っ直ぐ洗面所へ向かう。
戸棚の一つを開き、詰め込まれたバスタオルの奥深くを漁った。
「……あった!」
奥の方から厚めの白いバスタオルを取り出す。全くと言っていいほど使われていないからか、新品同様のもこもこの手触りが心地良い。
一瞬、そのタオルと向き合って逡巡する。
本当にこれを渡してしまってもいいのか。
いや、でも、このまましまいこんでおくのは勿体ないし、可哀想だし。
ミベロにお詫びしないとだし。
きっと私なんかより可愛らしい彼女の方がずっとお似合いだろうし。
よし、と誰に言うでもなく頷いてから、それを折り畳んだまま脇に抱えた。
帰宅ついでに手早くお昼ご飯の食器を片付けて、適当にお菓子をポシェットに詰め込んでから、来た道を足早に戻った。
「ミベロー!」
赤いカヤックの前に立ち、大きな声で彼女を呼んだ。
するとカヤックのすぐ横に半分青白い頭がひょっこり現れた。
私は彼女に向かって手に持ったバスタオルをばさっと広げて見せた。
「ミベロ! これどう?」
私の前に広げられたのは、フード付きのポンチョ型バスタオルだった。
前をボタンで閉じるタイプで、羊を彷彿とさせるもこもこの手触りに、フードには小さく可愛らしい羊の耳まで付いている。
ミベロは磨り硝子のような目でじっと私の持つバスタオルを見つめる。
物珍しい物でも見せられたような顔だ。そうか、海には羊なんていないからこんな毛玉を見るのは初めてなのかもしれない。
それなら触ってもらった方が質感がわかりやすいかも、そう思った私はバスタオルを押し付ける勢いで差し出す。
「ほら触ってみて! 触り心地すっごくいいから」
私が差し出したタオルに恐る恐る青白い手が伸びる。
そっと触れた瞬間、ミベロの目が少し見開かれた。
そして今度はしっかりと撫でつけてその感触を確かめた。
彼女の口から感嘆の声が漏れるのが面白くて思わず頬が緩んでしまう。
「ね、ね、気持ちいいでしょ? 見た目も可愛いんだ~。前がボタンになってて……とりあえず着てみてよ!」
私はバスタオルのボタンを外し、ばさりと広げて桟橋に肩まで乗り上げていたミベロを包み込んだ。
そのままボタンを上から順に閉めようと伸ばした指先に、ふとひんやりとした冷たさを覚えた瞬間だった。
「っ!」
声にならない悲鳴をあげてミベロが水の中へ沈んで消えてしまった。
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